猫の手を借りたら癒された

さち

猫の手を借りたら癒された

 三山和樹は疲れていた。ただでさえ年度末で忙しいというのに、書類のミスが見つかり徹夜、しかも後輩のミスのフォローまで手伝うはめになり、かれこれ3日ほどまともに寝ていない。自宅に帰るのは深夜。朝も早くに家を出るため家族、妻とまだ小さい子どもとまともに話もできていない。

 そんな中、やっときた休日。頭がぼんやりし、とにかく布団で寝たかった。

「ただいま~…」

ふらふらの状態で帰宅した和樹を「にゃあ~」という声が出迎える。すでに家族は寝静まった時間。こんな時間に起きているのは飼い猫のミケくらいだった。

「ミケ~、ただいま~。今日も元気だったか~?」

足にすり寄ってくるミケを撫でながら和樹はリビングに入った。テーブルには夕食が用意されている。妻も子どもの世話で忙しいだろうに、夕食を作っておいてくれる優しさが身に染みた。

「ミケも一緒に食うか?」

「にやあ!」

嬉しそうに鳴くミケに癒されながら和樹は猫用のおやつを開けてやった。

 静かなリビングでひとりと1匹が仲良く食事をする。食事を終えた和樹はシャワーを浴びようと思いつつ、ソファに座ったまま動けなかった。

「ミケ~、手を貸してくれ~」

そう言ってミケに手を伸ばすと、ミケは不思議そうな顔をしながらそばにやってきて、膝にちょこんと乗ると和樹の腹をふみふみし始めた。

「あ~癒される~」

ゴロゴロと喉を鳴らして甘えるミケの両手を持ち、和樹は肉球の感触をふにふにと楽しんだ。

「ミケの手は気持ちいいなあ。もう少し貸してくれなあ」

「にゃ~」

返事をするようにミケが鳴く。

「まさしくこれが猫の手も借りるってやつだよなあ。あ~癒される~。もうダメだあ…」

和樹はそのままソファに寝転ぶとミケを顔に乗せて吸った。

「あ~幸せ~…」

そうしてそのまま眠ってしまった和樹。翌朝、起きてきた家族はソファで爆睡する和樹と和樹の腹の上で寝るミケを見て思わず写真を撮った。和樹の手はミケの手をしっかり握っていたのだ。

「お父さん、ミケの手ぎゅってしてるね!」

「そうねえ。お父さん最近忙しかったから、きっと猫の手も借りたかったのよ」

そばに行って起こそうとする息子に和樹の妻は「もう少し寝かせてあげてね」と言ってキッチンに入っていった。

 その日、昼前になってやっと起きた和樹はすっきりした顔をしていて、久しぶりに息子と公園に行って遊んだ。

「ミケ~、パパに手を貸してくれてありがとうねぇ」

「にゃあ~」

息子と遊びに行く和樹を見送った妻はミケの頭を優しく撫でて猫が大好きなチュールをあげた。

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猫の手を借りたら癒された さち @sachi31

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