第47話(アリエット視点)
姉さんが町を出てから、一年がたった。
何もない。
何もない。
私の世界には何もない。
空っぽの世界。
でも、良かった。
姉さんが旅立ってくれて、本当に良かった。
だって、姉さんがずっと近くにいたら、私、そのうちきっと、姉さんを殺したくなるもの。殺して、自分だけのものにしたくなるもの。
それか、姉さんに殺してもらうってのもいいわね。ああ、いいわ。想像するだけでゾクゾクしちゃう。でも駄目よ。そうなったら姉さん、殺人犯になっちゃうじゃない。駄目よ、駄目駄目。優しい姉さんが、ゴミみたいな犯罪者どもと一緒に刑務所に閉じ込められるなんて、絶対に駄目よ。
ちっ。
くだらないことを。
殺すも殺さないも、そんな心配、もうする必要はないし、する意味もない。姉さんは遠くに行ってしまったんだから。
ああっ。
くそっ。
イライラする。
むかむかする。
ずっとそう。
生まれた時から、ずっとそう。
私、きっと、最初から壊れてるのね。
何をしても楽しくない。何をしても幸せじゃない。
ああ、でも、姉さんが17歳の頃に着てた服をプレゼントしてくれたときは、心がぶるぶるって震えたなあ。なんだか胸の中が満たされていくような、あの気持ち。あれが、幸せってことなのかしら。
だから、あの服だけは捨てずに、大事にしまっておいたのよね。
姉さん……
うううううううううううううう。
誰よ。
部屋の戸を叩くのは。
うるさいわね。
……なんだ、ヘイデールか。
姉さんとの婚約は解消され、私とも何の関係もなくなったはずなのに、いつもいつも、訪ねてきて、鬱陶しいったらありゃしない。
アリーアリーアリーって、やかましいわね。馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ。こいつ、本当に間抜けだわ。私が、こいつの妹のアニスの真似をしてただけだってバラした後も、『そんなことはない、きみは正気を失っているんだよ』なんてほざいて、それまで以上にやって来るようになったんだから。
あんたみたいなのを、シスコンって言うのよ。
姉妹に異常な執着を抱くっていう、あれよあれ。
……ん?
……姉妹に異常な執着を抱く?
あはっ。
あはっ。
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!
なあんだ、私と同じじゃない。
こいつも、頭がおかしいのね。
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