第41話
私は思った通りのことを、アリエットに言う。
「意外ね、アリエット。あなたは、父さんと母さんのことを好きだと思ってたけど」
アリエットは鼻で笑い、大げさに肩をすくめた。
「冗談でしょ。あんな、最低の親。子供を無視して、朝からベタベタといちゃついてる姿を見て、何度後ろから刺してやろうと思ったか知れないわ」
「さ、刺すって、そんな……」
「ううん、あいつらだけじゃない。この町の連中は、皆カス同然よ。どいつもこいつも、ちょっとご機嫌を取ってやれば、すぐ私になびく、頭が空っぽな奴ら。本当に脳みそが詰まってるのか、一度頭をかち割って見てみたいもんだわ」
歯を剥き、怒ったような笑みを浮かべながら、次々と狂暴なことを言い始めたアリエットに圧倒され、私は一歩後ずさる。そのままドアを閉めてしまいたかったが、アリエットは私が下がった分距離を詰め、部屋の中に入って来てしまった。そして、そのまま後ろ手にドアを閉め、興奮気味に言葉を続ける。
「私、こんな町、大っ嫌いよ。面白いことなんて、何一つないもの。いいえ、この町以外で暮らしたとしても、面白いことなんてないに決まってる。だって、どいつもこいつも、何もかも、つまんないんだもん。……私の心が、かろうじて満たされるのは、大好きな姉さんと一緒にいる時だけよ。姉さんは、私の世界の全てなの。それなのに……」
アリエットは、狂気に近い、泣き笑いの顔で、私の両肩を掴んだ。
「あの、執事の人と、旅に出てしまうのね。そして、決して私が追いつけない、遠いところに行ってしまう……私の世界は、これでもう、おしまいだわ……」
さっきからアリエットが何を言っているのか、私にはよくわからない。
……しかし、二つだけ分かったことがある。一つは、皆の人気者であるアリエットが、他人を全て侮蔑し、人生に喜びを感じていないこと。そして、もう一つは、アリエットは本当に、心の底から、私のことを好いているということだ。
アリエットが以前、『姉さんのこと、大好きよ』と言ったときは、私のことをからかっているのだと思ったが、どうやらそうではなく、アリエットは本心から私を愛しているらしい。それも恐らくは、世界でただ一人、アリエットは私だけを愛しているようだ。
意味が分からない……
私を愛しているなら、どうしていつも、私を困らせるようなことをしてきたのか。最終的には婚約者まで奪おうとしたり、小さな子供が、大好きな姉に構ってほしくてイタズラをするのとは、あまりにも次元が違う。
私は、自らの肩に置かれたアリエットの手に手を重ね、静かな声で問いかけた。
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