猫の手借ります?

胡蝶花流 道反

第1話

 母方の祖父が亡くなった。マニアックな蒐集家だったので、休み返上で遺品整理に駆り出された。普段、部屋の掃除も碌にしないってのに、あまり訪れたことのない祖父の家の片付けとか、役に立てるのか?

「猫の手でも借りたほうが、マシなんじゃね?」

「つべこべ言ってないで、手を動かしなさい!」

「はいはい」

 母に叱られてしまった。こっちはボランティアしてやってるというのに。

 だが、今はガマンだ。

「なあ、母さん」

「なに?」

「俺の欲しい物が出てきたら、貰っていいって約束だよな」

「高価な物でなければいいわよ。掛け軸とか壺とかそういった骨董品的な物は、他の親族に報告しないといけないから」

 骨董品とか、そんなものはどうでもいい。俺の記憶が確かならば、祖父は呪術道具を集めていたはずだ。

 俺は今、どうしても許せない奴がいる。そいつをなんとしても懲らしめたい、何なら死んだってかまわない。なんて、どうせなんの効果も無い、インチキアイテムなのだろうけど。まあそれならそれで、相手を呪いに掛けているだけで、多少は気が晴れるかもしれんし。


「まあ、立派な椅子!有名な職人さんの作品かしら」

「座れば死ぬ呪いの椅子、とかだったり」

「ほんと、あんたって暗い子ねぇ。そんなだから、いい年して彼女の一人も出来ないのよ」

 ほっといてくれ。今の俺に必要なのは彼女よりも呪いだ。

「あら、何この年期の入った箱。ね、こ、の、て?」

「ちょっと見せて。ほんとだ、猫の手って書いてある。開けたら片付け手伝ってくれるんじゃね?」

「えー、気味悪いからここで開けないで、それあんたにあげるから」

「いらね…やっぱ、貰う!」

「高価な物だったら、返してね」


 そういえば聞いたことがある。猿の手、だったかな?3つ願いを叶えてくれるヤツだ。もしかすると、似たような効果があるかもしれない。ちょっと、開けるのに勇気がいるが。思い切って開けてみた。


 パカッ


 なんと、開けると同時に中から白い煙が湧いて出た。そして収まってくると、何かがそこにいた。

「おまえの望みを叶えるニャ」

 小学3年生くらいの大きさの猫のような生物が、2本足で立って、両前足をにぎにぎしながらそう言った。

 なんだ、コレ?


 話を聞くと、例の猿の手同様、3つの願いを叶えてくれるらしい。だが、多分使い方を誤ると、取り返しのつかない事態になるのだろうな。なので、俺はこう願う。

「取り敢えず、願いを百に増やしてくれ」

 まずはこれだろう。もし失敗した時に取り消す事も考えて、いくつか増やしておかねば。

「それ、無理ニャ」

「ええーーー!?」

「それと、出来ない場合でも、願い事1コ消費になるニャ」

「ええええーーーーーー!!!うそだろ、なんだよこの役立たず、もう帰れ!」

 しまった。あまりにも思っていたのと違う展開に、ついつい暴言を吐いてしまった…

「僕は帰らないニャ。願い事は後1つなのニャ」

 良かった…と言っていいのか、これ?しかし、どう足掻いてもあと1つとなってしまった。仕方ない。

「俺の同僚の山田を呪って欲しい。この写真に写っているコイツだ。で、出来るか?」

 もう後がないので、とうとう言ってしまったが、呪った反動で恐ろしい何かが起こるかもしれない。代償に俺の魂を持っていかれるかもしれない。何より、また却下されるかも…しれない…

「了解ニャ」

「それは了解するのかよ!」

「ウムウム。今から2時間後、コイツは道を歩いていて犬のウンコ踏むニャ。以上ニャ」

「え、それだけ?」

「それだけニャ。何事にも影響を与えないレベルでしか出来ないニャ。ヤツの靴がクソまみれになって、のたうち回っているのを想像して、溜飲を下げるのニャ」

「なんだそれ。呪いでも何でも無いじゃん。まあいいや、あまり効果が大きすぎると、願った後の代償の方が気になるもんな」

 これで良かったとしておこう。

「何て言うか…ありがとな。もうお前、消えるんだろ?」

「消えないニャ」

「え?」

「さっきも言ったけど、僕は帰らないニャ。ここに居座るニャ」


 何か、住み着いてしまった。




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