第9話 空の旅


 空高く上昇するポッポル。

 どこまでも続く青い空と緑の平原、眺めは最高だ。


 最高なんだけど、別の意味で最高というか景色どころではない。


 現在俺達はホッポルの背中に設置されたくらに3人並んで座っている。

 先頭は手綱を握ったエリシアさん、次にアイリスさん、で俺。


 この鞍は二人乗りで俺の分の固定ベルトがないから、俺は振り落とされないよう、美少女エルフアイリスさんのお腹辺りを後ろからぎゅっと抱き締めている。


 もう少し腕を上げれば美少女エルフおっぱいに当たるし、俺の鼻は透き通った金髪エルフの頭上にあるから、美少女エルフの髪の匂いを嗅ぎ放題!


 くんか、くんか、ああ、なんだろうこれ!?男をオスにする危険な香りがするぞ!


 こうして抱いているとアイリスさんは華奢で、いかにも女の子って感じで――、めっちゃドキドキするぅ!

 さっき会ったばかりの超絶美少女とこんなに密着してたら誰でもおかしくなるよ!


 彼女の尻に俺の変なモノが当たらないよう少し腰を引くと、何故かアイリスさんもお尻を下げて密着してくる。

 俺にどうなってもらいたのか!?


 田舎の人って親切なイメージがあるから、そういうノリで色々教えてくれたり、親切にしてれていると思っていたけど……、こんなに密着して、この子はなにも思わないのだろうか?


「ジョージさん。突風で揺れることがありますから、しっかり掴まってくださいね」


 ギュウ! ――「こんな感じで……、苦しくない?」


「はい。大丈夫です。……ほらっ!きますよ!」


「うぉッ!」


 急に強い突風に当てられ、ポッポルが水平からいっきに垂直になって大きく吹き飛ぶ。体が真横になっているから真下の地面がよく見えた。


 こわい!こわい!こわい!


 ポッポルはわざと1回転して元の水平に戻った。


「こらっ ポッポルぅ!」


 エリシアさんがポッポルを叱る。


「あははは!楽しいです。ジョージさん、凄いですねっ!」


 アイリスさんは無邪気に笑っている。


「ああ。凄いな」


 正直、滅茶苦茶恐かった!


 そうか……、落ちたら普通に死ぬわけで、ムラムラしている場合じゃないんだ。

 それにアイリスさんはまだ子供で男を意識するような子じゃないのかもな……。


 こんな絶叫マシーンみたいな鳥に乗っているせかアイリスさんが凄く眩しく見える。


 これが『吊り橋効果』ってやつだな!





 太陽が上った頃、エリシアさんが荷物から硬いパンの様な物を取り出した渡された。


「ふふふ。そろそろお昼にしましょうか」


「ありがとうございます」


 空を飛びながら昼食になった。硬いけど中にチーズの様な物が入っていて、けっこう美味い。


「美味いっすねー!そう言えば、朝も気になったんですけど、この白い物ってチーズですか?」


「それは世界樹の樹液なんですよ。他に甘い樹液も取れるのですが、それで作ったお菓子がとても美味しいんです」


 にこにこなアイリスさん


「ふふふ。パンの後におやつも食べましょうか」


「ジョージさん、お菓子食べれますよ!」


「楽しみだな」


「えへへへ。きっと美味しくてびっくりしますよ」


 ということでおやつも貰った。


「うっまぁー!」


 これはクッキーだ。


「えへへへ、そうでしょう。わたしも大好物なんです」


 アイリスさんは口をモグモグさせながら上機嫌に話す。







 こうして空の旅も続き日も傾きかけた頃。


「今日はこの辺りに泊まりましょうか。……あそこにジャイアントブルの群れがいますね。できますか?アイリス」


「はい。お祖母様。任せてください」


 アイリスさんは荷に掛けていた弓と矢を取り出すと、矢をつるに掛けて構えた。


「ジョージさん!しっかりと抑えておいてくださいねッ!」


「あっ、ああ」


 アイリスさんは真剣な表情で狙いを定める。俺は後ろから彼女を抱き締め、体を固定する。


 ヒュッ!


 矢が放たれた。


 しかし獲物よりも手前の地面に向かっている。

 外れたのかたと思ったら地面に刺さる手前で矢の軌道が大きく曲がった。矢は地上すれすれを飛び、その先にいた牛の目に刺さった。

 牛は地面に倒れ足をバタつかせている。


「なんでだ?矢が曲がったぞ」


「わたし達風族は風を見て読む力があるんでよ」


「ふふふ。アイリス上手くなりましたね。さぁ、降りましょうか」


 エリシアさんはことあるごとにアイリスさんを誉める。エリシアさんは誉め上手で、誉められたアイリスさんは嬉しそうにしている。おそらく誉めて伸びるタイプなのだろう。





 倒した牛の近くに降り立つと、他の牛が逃げていった。牛はワンボックスカーくらいの大きさだが、ポッポルはその倍の大きさである。


「それではアイリス、頼みましたよ」


「はい。お祖母様」


「あの、俺にも何か手伝わせてください」


「そうですね。それならアイリスを手伝ってもらえますか?」


「わかりました!」


 アイリスさんは俺を見るとヤル気に満ちた表情で頷く。何をヤルのだろうか?



 倒れた牛の前でアイリスさんは上着を脱ぎノースリーブのシャツになった。

 牛の目には矢が根本まで刺さっているが、牛はまだ生きていて、足をバタバタさせている。


「これ、狙って当てたの?」


「そうですよ。獲物を仕留める時は目を狙います。目から入った矢は脳に届いて脳を壊すので獲物が動けなくなるんです」


「なるほど。あの距離から当てるなんて、物凄い腕前だな」


「ふふん、村でたくさん練習したから得意なんです」


 出会ったとき、俺に放った矢は目を狙っていたのか……。かわせて良かった。


「えーっと、この辺りですかね……」


 アイリスさんは牛の首元を指で触っている。

 そして腰に差していた短剣を抜いた。


「ここですね。えいっ!」


 短剣を牛の首元に突き刺す。


「ジョージさん、汚れますから少し離れていてください」


「えっ、あぁ、わかった」


「んっ!」


 アイリスが思い切り短剣を引き抜くと、傷口から噴水のように血が吹き出る。


「ふぅー、1回でうまくいきました」


 アイリスさんは真剣な表情をやめて、にこっと笑う。


「アイリスさん、これは何をしているの?」


「血抜きですよ。心臓はまだ動いていますので、血が抜けるんです。こうすると臭みが取れて、美味しいお肉になるんです」


 笑顔で答えるその顔には数滴の返り血が付いていた。



 その後アイリスさんは手際良く牛を捌いた。アイリスさんはワイルドでかっこ良くて、なんかもう惚れ直したよ。

 俺も力仕事を手伝ったが手順が分からず、あたふたして、あまり役に立っていなかった。


 しかし心は踊っている。何故なら今夜は焼き肉だからだ。


「ふふふ。さぁ準備ができましたよ」


 石で作ったコンロには炎が燃え立ち、その上には鉄板が載っている。鉄板の横には小さく切った牛肉が大きい葉っぱの上に大量に積まれていた。


 アイリスさんとエリシアさんはあまり食べないそうだが、俺は図々しく、たくさん食べますと伝えると、大量に用意してくれた。


「こんなに食べられるんですか?」


「大丈夫だよ。よし、焼こうぜ!」




 美味い!これ普通のカルビだ。味付けは塩と香草だけだが、シンプルでそこが良い!


 エリシアさんとアイリスさんは肉は3、4切れ食べて終わりで、山菜のスープを啜っていた。俺は一人で漫画のように大量に食べた。


「信じられません。全部食べれるなんて、凄すぎです」


「風族の男性もそんなに食べませんからね。ふふふ。こんなに食べてもらえると作りがいがありますね」


「焼き肉は前の世界でも大好物で……。うぷっ 食べ過ぎた。洗い物は俺がやりますから」


「洗い物はわたしの仕事です。わたしがやります」


「いや、洗い物くらい俺にやらせて」


「ふふふ、アイリス、ここはジョージさんにお願いしましょう」



 今朝、熊を食べて、こんなに大量の肉がいるのかと、疑問に思ったが、残った牛肉はポッポルが平らげていた。


 ポッポルが長距離を飛行する場合、大量のカロリーが必要で毎日これくらい食べるのだとか。






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