第7話 異世界人とも分かり合える



 食事も進んだ頃、アイリスさんが熊の死骸を見つめてから――。


「本当にダンキングベアを一人で倒したのでしょうか……。かなり実力がないとそんなこと……」


 彼女は訝しげに俺を見る。


 この熊ダンキングベアっていうのか。ポッポルにむしゃぶりつかれて、とてもグロい状況になっている。


「転移したときに不思議な能力を使えるようにしてもらったのはさっき話しましたが、こんなことができるんですよ」


 手のひらの上で電気をバチバチさせた。


「なっ、何ですかそれ?」

「小さな雷に見えましたね?」


 二人とも驚いている。この世界には魔法があるらしいが電気は珍しいのだろうか?


「はい、雷魔法です」


 二人は暫く沈黙する。



「私のお祖父様から500年以上昔に異世界転移者がいたという話を聞いたことがありましたが、どうやら本当のようですね」

 とエリシアさん。


「過去にもいたのですか?」


「ええ、そのようです」


 そういえばリザさんが魔人を転移させたのは500年前だ。おそらく同一人物だろう。


「その転移者って物凄く悪い人なんじゃないんですか?」


「ん?いえ、その方は火族と共に平穏に暮らし、火族の生活を助けていたと聞きました」


「俺も直接知っている訳ではなので……。それなら悪い人ではなさそうですね。ところで、火族って何ですか?それにエリシアさん達は風族って?あと雷の魔法って珍しいですか?」


 これを見せたらすぐに転移者だと信じてくれた。


「ジョージさんはこの世界のことが分からないのでしたね」


「お祖母様、わたしが説明します」


 アイリスさんが身をのり出した。


 そこからはアイリスさんの説明が始まり、この世界について懇切丁寧こんせつていねいに教えてくれた。


 簡単にいうと、この世界の生命は龍神族がつくり出した。そして太古の時代、火、水、風、地の四大精霊と人間を配合して風族や火族が生まれたらしい。

 それらはその属性の魔法が使えるのだとか。


 因みに何故か水族はいない。


「ふふふ、ですから雷と水の魔法というのはこの世界に存在しないのですよ」

 と、にこにこエリシアさん。


 魔法なんてラノベだと、何でもできそうなイメージだったが、そんなことはないのか。


「しかし龍人族と言うのは凄いんですね……」


 俺の呟きにアイリスさんが答える。


「龍人族は月から来たと言う説もあります」


「月って夜なると現れるあのでっかいヤツですよね。今も龍人族っているんですか?」


 昨晩見た月はでかかった。と言うより、この星と月の距離が近いのか……?


「お伽噺では、北の大地に浮遊島ガルガドラという空に浮かぶ島があって、今もそこに龍人族が住んでいるとされています」

 とアイリスさん。


 浮遊島かぁ。ファンタジーっぽいな。


 この世界ことは全く分からなかったが、この二人と出会えて色々な話を聞けたのは幸運だった。





 使った食器を小川で洗うアイリスさんを手伝っている。


 二人きりになると俺を警戒しているのか無口になるアイリスさん。

 たまに懐疑の視線を向けられていたことに気付かない俺ではないのだが。


 しかし、思い切って尋ねてみた。


「あっ、あの、お二人はこれから何処に向かわれるのですか?」


「……わたし達はガルレオン族という獣族の村を目指しています」


 獣族か……。人族は住んでいるのだろうか?人が住めるところなら連れて行ってもらいたい。


 俺達は二人並んで洗い物をしながら話している。


「その村って人族は住める所なんですかね?」


「あのですね。獣族の村に人族が入ることはできません」


「ん?なぜですか?」


「人族と獣族は100年前、戦争をしたのですが、それに勝利した人族は土地を奪い、獣族を捕らえては奴隷にしているんです」


「人族って悪い奴等じゃないですか!?」


「ジョージさんも人族でしょ」


 そのジト目、もはやご褒美になってきたぞ。

 しかし、そんな所に行ったら人族の俺はただでは済まない気がするな。


「ガルレオン族はとても強くて100年前の戦争では先陣を切って獣族を守った英雄なんですよ。……けれど戦争でたくさんの死者が出て、今はその村だけしか残っていないそうです」


「かなり人族を恨んでいるんだろうな……」


「ガルレオン族だけではありません。他の獣族もそうですが、わたし達風族も人族とは長く敵対しています。100年前の戦争では風族は獣族と協力し人族と戦いました」


「そうだったんですか……」


「はい。わたしのお祖母様と戦争で亡くなったお祖父様はたくさんの戦果を上げ、世代が変わった今でも獣族とは盟友なんです」


「あの、エリシアさんが……、あれ?100年前の戦争って、エリシアさんは生まれていないですよね?」


「えっと、人族や獣族の寿命はだいたい70年くらいですが、精霊に愛された種族は寿命が長いんです。長寿だと400年近く長生きさらる方もいて……」


 まじかよ!つまりエリシアさんって何歳なんだ!?凄く気になるけど、恐くて聞けないぞ。


 いや、それだけ長生きだと逆に聞けるのか?年寄りって年齢自慢するもんな。でも、地雷になりそうだから、気になるけれど聞くのはやめておこう。


「お祖母様は今年で150歳になられました」


「えっ!?150歳ですか!」


 普通に教えてくれるのね!


 しかし150歳って、さすが異世界だな。どう見ても俺とタメくらいにしか見えないのに。


 こうなるとアイリスさんの年齢も気になる。こんなJCみたいな見た目をしておいて50歳でした。とか詐欺もいいところだ!


「あんのぉ〜、ちなみになのですがぁ〜。アイリスさんはお幾つなんですか?」


「わたしは16歳です」


 ですよねぇー!うん!年相応だよ。なんだろう。今凄く嬉しい。


「へぇーそうなんだ。けっこう若いんだね」


「むっ、なんで急に話し方が変わるんですか?」


「だって、ほら、俺は20歳だし」


 お前、俺の4こ下じゃん? まぁ俺は無職のフリーターでオタだけどね!


 みるみる拗ね顔に変わるアイリスさん。


「すみません。調子に乗りました」


「別にそれでも構わないですけど、少し軽い感じがします」


「はい。気を付けます」


 アイリスさんは一瞬だけ俺をジト目で見て、すぐに表情を柔らかくする。

 もう、さっきまでの警戒した雰囲気は無くなっていた。


 少しだけお互いの距離が縮まったのだろうか?


 なんだ――、異世界人とだって分かり合えるじゃないか





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る