第4話 プロローグ 〜異世界転移〜





「……あらぁ?」


「やっーと眼が覚めたか」


 眼が覚めると、またあの白い空間で浮いていた。


 リブさんとリザさんは椅子に腰掛け、テーブルにティーセットとお菓子を用意してお茶をしているようだった。




 あの後、『暫く眠るがよい』とリブさんの胸に抱き寄せられ、意識が無くなった。


「どれくらい寝てたんですか?」


「3ヶ月くらいかの~」


 そう答えるリブさんのテーブルの上にはリザのと同じ機種のスマホが置いてある。


 俺がそれに気付いたと分かったのか、嬉しそうにニヤニヤするリブさん。


 だが、……それどころではない。


「さっ 3ヶ月ですか!?」


「そうじゃ」


 リブさんは返事をしながら、その新しいスマホをこちらに見えるように手に取って、使う訳でもなくまたテーブルに置く。チラチラとこちらを見ながら。


 だが、それどころではない!


「バイトのシフト、結構入れていたのに……」


 バイト先には迷惑をかけたと思う。行方不明扱いになっているのだろか?


「ふん、今さら気にすることでもなかろう」


 と言いながらリブさんはスマホをローブのポケットに入れたり出したりている。チラチラしながら。


 だが、それどころではないのだッ!!


 あれから、3ヶ月経ったのか……。親も心配しているはずだ。家賃とかの支払いはどうなったのだろか?


 こんな時にチラチラしているリブさんを無視して、俺はここに来てようやく今までの生活を諦める決心をした。


 戻れないなら行くしかないじゃないか……異世界ッ!


 そして、俺はリブさんの肩に左手を置いて、右手はグッドサインを送った。


「リブさんスマホにしたんですね!」


 俺は涙を溢しながら今までで一番の笑顔を作った。


「おっ!なんじゃ、気付いちゃった? んっ?」


 パァッと瞳が輝き明るい表情をつくるリブさん。

 受け入れよう。これから行く世界も、この人もッ!


「吹っ切れましたわねっ」


 とリザさん。こうして俺達3人は最高の笑顔を作ったのだった。





「それで成功したんですか?」


 改造は成功したのだろか?腕に筋肉が付いて少し太くなっているのは明らかだが。


「お主が寝た後、リザと機種変に行ってな・・」


 遠い目をするリブさん。何の話だ?


「はっきり言って余裕じゃな!設定もリザに教えてもらったから簡単じゃったわ」


 リブさんは俺にスマホを見せて満面の笑みである。


「もう、余裕じゃないでしょ!操作が下手で教えるのが大変でしたわ」


 あきれるリザさん。


「なにを言うか!こんなの慣れじゃろ」


「いやいや、そっちの話しじゃなくて!俺の強化をするって」


 この人達はいったい何をやっていたんだ!


「ん、あぁ……、う、上手くいったかのう?」


 とぼけた表情で回答されても、凄く不安だ。


 「だからあなたはいつも……」

 「なっ、お前だってノリノリで夢中になっていたでわないか!」


 リブさんを睨むと目をそらされた。

 それでリザさんの方を見ると気まずそうに俺から目をそらす。


「俺に……、何したんだぁああああ!」


「まぁまぁ落ち着け。って、こ、こら!わしの首を締めるな!わし死んじゃうから~」


 リブさんの横に移動すると瞬時にチョークスリーパーを極めた。

 初対面の人、と言うか女性にチョークスリーパーを極めたのは初めてだが、この人は極めても問題ない雰囲気だった。

 いくらそんな雰囲気でも皆さんは絶対に真似しないでください!


「ジョージ様落ち着いてください」


 首を締める俺を必死に止めるリザさん。


「はぁはぁ、危うく逝くところじゃったわ。危険な男よ」


 半べそのジト目で俺を見ている。


「調子にのりました。すみません」


「いや、いいんじゃ、わしも初めてのことで、ちょっとびっくりしたと言うか、ドキドキしたというか。また、やりたくなったらやらせてやってもよい!」


 涙目でもじもじしながら頬を赤くしている。


 何言ってんだこの人。もしかして、いや間違いなく……。

 (前々からおかいしな?と思っていましたが、……やっぱりあなた)


「「どMだったのか!」」


「いや、もうやりません。それよりも改造のこと、しっかり聞かせてもらいますよ!それで上手くいったんですか?」


「ふん!そんなもん上手くいったわ!ちょっとやり過ぎたがのっ・・・」


「やり過ぎてってどういうことですか?」


「まず、あの世界の魔法概念をこの世界で再現することはできんかった。なので代替えとして、この世界の魔法概念をお主に埋め込んだのじゃが」


「この世界にも魔法があるんですか?」


「ごらんなさいな」


 リザさんは手のひらの上に拳程の水球を浮かせた。すぐに水球は四散して、また同じところに水球が現れる。


「凄い。これが魔法ですか」


「うむ、分かるじゃろ?」


「全然わかりません」


「……そうか。これから行く世界では体内に宿す魔力を使い、魔法に変換するようなのじゃが、お主にはそれができん」


「なるほど……えっ できないの?」


「わし等の概念では物質は減らんし増えん。自然界にあるエネルギーを魔法に変換する。使ったエネルギーは無くなったのではなく世界に留まっているから、また使うことができると言うことじゃな」


 自然界のエネルギーをエンドレスに使うことができるのか。


「それなら永遠に魔法を使い続けることができるんですかね?」


「できると思うがさすがに疲れるぞ?」


 体力とか気力の問題なのか。魔力量の制限が無いというのは逆に便利じゃないか?


「そういうものなんですね。それでどうやったら魔法を使えるんですか?」


「電流なんかは単純な魔法じゃからのう、イメージするだけじゃな」


「試してもいいですか?」


「おう!やってみよ」


 俺は右手の平を前に向けそこに集中する。手のひらから雷を出すイメージだ。


 バチッ バチッ ――ドカンッ!


「あぎゃぁ あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


 手のひらから夏の夕立で見る雷の様な物凄い電流が飛び出し、それが直角に曲がってリブさんに直撃した。


「えっ……ッ!?」


 実験に失敗した博士のような髪型になり口から煙を吐くリブさん。


「ごめんなさいっ!だ 大丈夫ですか?」


「うむ、大丈夫だ。わしはこれくらいではびくともせん」


 顔に黒い炭が付いている。普通の人間なら黒焦げで確実に死んでいるだろう。


 なんだこれ!?凄いの出たぞ!


「電流はアースに向かって飛ぶのですわよね。こちらに飛んで来なくて良かったですわ」


 リザさんはそう言いながら回復魔法をかけたのか、リブさんが元通りになった。


「色んな意味でしびれたわ!わっははははははははははッ!」


 何故か上機嫌である。


「ほんとにすみません。でもこれ凄いですね!」


 そう言いながら、手のひらに小さい電流を出しバチバチさせた。もっともっと弱く調節すればスマホの充電もできそうだ。


「うっ、くれぐれもわしに向けないように。

 ……おほん。次は身体強化じゃな。これも魔法と同じでイメージじゃ。……ちょ、ちょっと狼になるイメージをしてみよ」


 狼狽えた様な言い方をするリブさんに嫌な予感がした。


「えっ狼ですか!?」


 ただ、雷を当ててしまった手前素直に言うことを聞くことにした。

 取り敢えずやってみるか……。


「ぐぬぬぬぬ! ぐぉおおおおおおおお!ふしゅー ふしゅー しふゅー」


 俺に何しやがったッ!?


 体から青黒い毛が生えて骨格が変わり獣化している。狼男の様な風貌だ。体に力がみなぎって興奮状態なる。


「わっはははははははははは!かっこいい!かっこいいぞ!ほーらなッ!かっこいいじゃろリザー!?」


「わたくしは反対したのですわよ」


「グゥルルルルルルルッ!」


 声帯が無いのか言葉が出せない。とにかく元に戻らなくては……!





「なにを勝手に改造してんだぁあああ!ゴラァアアアアア!」


 元に戻ると瞬時にリブさんにチョークスリーパーを決める。


「わっ!わっ!こらっ!やめよ。わし、死んじゃうぅううううう!」





「はぁ、はぁ、今のは凄い力じゃったわ。まぁこの様に人間の状態でもかなりの力が出せるようになった訳じゃなっ!」


「この狼男は絶対に使わないと思います」


「なっ!何故じゃ!?」


「キモいって言うか、狼男になるとかちょっと引きますよ」


「やはりドラゴンにすべきじゃったか!?」


「わたくしはチワワとかウサギとか可愛い動物の方がいいって言ったのですわよ!」


 ……もう何?この人達、おかしくない?


「全部却下です!人間のままにしてくださいって言ったじゃないですか!?」


「なーに、これはあくまでも変身魔法じゃ!人間というのは変わってはおらん。ただ変身すると爆発的に力が出せるようになるぞ!」


「それを聞いて少し安心しましたが、絶対に変身しませんからねっ!」


 的外れな強化をされたような気がしてならない。こんなので新しい世界に行ってまともに生活していけるのだろうか……。仕事を探して、アパート借りて、始めは家具や調理道具も買わないと……。


「次はわたくしの番ですわねっ!」


 ひょこっと前に出てにっこりと微笑むリザさん。

 あざといなぁーそこが良いんだけど。


「他にも何かやってくれちゃったんですかねぇ?え?」


「そんな怖い目で見ないでくださいませ。こちらのスマホですが、仰られていた改造を施しておきましたわ」


「あっ!俺のスマホ!」


 リザさんは俺のスマホを開いて何やらアプリを起動させた。


「こちらのアプリをご覧なさいな」


「おお!普通のブラウザみたいですね!」


「えぇ、これで検索すれば元いた世界の情報は検索できますわ。但し、やはり新しい情報は更新できませんので、そこだけはお許しくだい」


 申し訳なさそうな表情でスマホを渡された。


「いえ、十分ですよ!ありがとうございます」


 お礼を言うと満面の笑みを向けられた。

 リザさんはこの転移にはほとんど無関係なのに、こんなことまでやってくれて本当に有難い。


「それと余計な事だったのかもしれませんが、向こう世界に行っても困らないように、言語理解と回復魔法のようなことができるようにしておきましたわ」


「言語理解と回復魔法ですか!?それ……、とても助かりますね!」


 そうだよ。それだよ!そういうのが欲しかったんだよ。異世界に行っても絶対に役立つ!


「やっぱり言語って俺の世界とは全然違うんですか?」


「そうですわね。人間がベースの世界ですから似ている部分もありましたが、たくさんの国や種族、部族によって言葉が違いますわ。全ての言語を解析しましたので、ジョージ様が理解できるように勝手に脳内で日本語に変換されますわ」


「それってよく分からないんですけど、とても大変な作業だったのでは……?」


「まぁ……、気合?ですわね」


 クスッと笑うリザさんが眩しいです。


「回復については先ほどの電流と同じで、元に戻すイメージをすればよいですわ。但し、あまり時間が経つと治せませんのでお気を付けください」


「分かりました。リザさん、それにリブさん、凄く役に立ちそうなことばかりして頂いて本当にありがとうございます。向こうの世界に行って何とか生き抜いていきます」


「うむ、こんなおもしろ、じゃなかった、特殊な事態じゃ!しっかり観測しておるからのう!」


 なに言い直してやがる!まぁこういう人だからしょうがないか。


「陰ながら応援していますわ。頑張ってくださいね」


「はい!」


「では、転移を始めてよいか?」


「……お願いします!」


 リブさんは手をかざし何やら詠唱を始めた。すると、この空間に来た時と同じようにリブさんとリザさん、さっきまで二人がお茶をしていた、テーブルや椅子が白くなっていき、何も見えなくなった。







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