1000年後の私へ
理科 実
序章
これまでの人類のあらすじ
1000年前に人類は滅びたらしい
らしい、について説明させてもらうと、正確には私が人類と呼べる存在に最後に会ったのがおよそ1000年前というだけであって、もしかしたらどこかにひっそりと小規模で暮らしているか、私の知らない人類の楽園的な場所があってそこではたくさんの人類が暮らしているのかもしれないという可能性はあるけれど……という希望が含まれた表現である。
実際はたぶん滅びているんじゃないかな?と思う。
なぜ人類は滅びたのか?
原因はいろいろあったが、一言で片付けてしまえば自滅だ。
ことの始まりはとあるウイルスだった。
どこかの国の研究所から漏れたウイルスが、世界中で流行することになったのだ。
そのウイルスは致死率は低いが感染力が高く、そして感染した動物の生殖能力を奪う、という特性を持っていた。
最初の数年間は発生国への不満はありつつも、協力してウイルスを撲滅しよう……って流れだったと思う。
けどワクチンはなかなか完成しないし、発生国は謝罪をしないどころか被害者面でよその国を煽り始めるし、それに対して各国は怒って責任のなすりつけ合いを始めるし……。
そこからの流れはあっという間過ぎて、私たち一般人には何が起こったのか完全に把握できていないけれど……分かるだけ話そう。
まず、ある国が核兵器を使用した。
そこからは核兵器による殴り合いの応酬。もちろんそんなものに地球が耐えられるはずもなく、結果として地球は実質死んだと言える状態になった。
皮肉なことに人類という宿主を失ったことで、ウイルスの撲滅には成功した。
まあ……その頃には皆いなくなっちゃったけど。
私は今、荒野を歩いている。
空は真っ黒で、あたりには動物も植物すらもいない寂しい大地を。
まだ人類がいた頃にも、私って孤独だなあ……と感じることはたまにあったけれど、今感じているのはガチの孤独だ。
1000年前の私には想像できなかった。
……まさか、地球上から生物と呼べるものが存在しなくなるなんて。
もしかしたら微生物くらいはいるかもしれないけれど、そこは幽霊と一緒で見えなければいないのと一緒だ。
この1000年間おまえは何をしていたのか?と、尋ねられてしまうと正直
「ひたすら歩いてました」
という他はない。
これが企業の面接だったら、一発で落ちているだろうな……もうこの世界には面接官どころか、会社と言えるようなものも存在しないけれど。
人類が滅びて、最初の頃は生き物を探していた。
現在の地球環境には、人類という貧弱な種族には耐えられない。けれどそんな環境下にも適応できる生物がいるかもしれないと考えていた。そして、それらを探し求めるために私はひたすら歩いていた。
しかし、そんなものは結局見つからなかった。
大気や水は汚染され、日光は届かず、そのため植物が育たない。草食動物がいなければ肉食動物も存在できない。結果として人類は地球から自らの命だけでなく、地球上からあらゆる生命を奪うことに成功したわけだ。
そのことを悟ったのは、人類が滅びてだいたい100年くらい経ってから……だったと思う。
最初の100年くらいは、建物の原型が残っている廃墟とかあって面白かったけど……今となってはそれらも風化してしまって、荒野とは言ったもののもはや砂漠に近い。
それから900年くらいは惰性で歩いたり、寝たり、歩いたりを繰り返している。
だからあの建物が見えた時は、数百年ぶりに私は「驚き」という感情を取り戻した。
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