トイレタンクの水を被って、滝行でもしていろ!

中田もな

猫である。

 「猫の手も借りたい」。犬の手でも良さそうなのに、猫である。猫の方がだらだらしていて、それでいて全く手伝う素振りも見せないからである。恩着せがましくはないが、果てしなく素っ気ない。試しに「お手」としてみたら、普通に引っかかれた。ひどい奴である。


 私の実家には、犬も猫も両方いる。玄関を開けると、犬が来る。「くぅ~ん、くぅ~ん(訳:エサくれ)」である。あからさまに尻尾を振りながら、エサのある冷蔵庫へ直行である。


 対して猫は、何もしない。犬用の水を強奪して、我が物顔でぴちゃぴちゃしたり、浴槽の縁を歩き回って、水の中に落ちたりしている。何もしてはくれないが、面倒事はよく起こす。人間は、猫に手を貸してあげるのである。


 実家の猫は、水が好きである。実家の犬は虫が好きで、カマキリやバッタを節操なく食べた結果、寄生虫にやられて病院送りとなった。この前は庭先にいた毒ヘビと格闘したり、壁に張り付いていたムカデを凝視したりしていた。実家は虫が多いのである。


 それはさて置き、実家の猫は水が好きである。何をしているかと思えば、トイレのタンクから出る水に、小さな頭を突っ込んで、修行僧のような滝行を披露していた。よく分からない。本当に、よく分からないのである。おかげでトイレは、びちゃびちゃになった。


 猫は犬にちょっかいを出す。実家の犬は食事が好きで、とにもかくにもエサである。それを知ってか知らずでか、猫は犬の食事中に、あえて遠くから駆け寄って来て、わざと目の前で留まるという、素晴らしい芸当を披露する。はっきり言って、ストレスである。口元に手を伸ばされたときには、鬼の形相(犬だけど)で怒っていた。


 本当に、猫という生き物は、複雑怪奇である。化け物にもなるし、ゆるキャラにもなる。古文書にも出るし、アニメにも出る。全く、不思議である。

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