第2話

 美男美女をもうちょっと近くで見てみたい。


ふむふむ。


今日は中庭で殿下は側近達とお茶しているのね。



 そうして私はしっかりと授業を受けながらも殿下達の後をこっそり付けて絵にしていく。


テストはいつも通り1位よ?頭の出来は違うらしい。ローサの頭の出来の良さは本当に助かっているわ。


そうして美男美女を追う事2年。


色んなポーズの殿下や側近、エリアナ様達を描く事が出来たわ。テトは心配してくれながらも趣味として応援してくれてる。




 そんなある日、いつものように待ち伏せをしようと中庭にいる所を私は呼び止められた。


「ちょっと、ローサさん!貴女、アインス殿下にいつも付きまとっているんですって?婚約者は私なの。殿下にこれ以上、付き纏わないで頂きたいわ」


「え?付き纏い?」


そんな事したっけ?あぁ、ある意味付き纏いのストーカーかも!?言われて初めて気付いたわ。


 それにしてもエリアナ様って尊い。こんなに近くにいると私が浄化されそう!そして良い香りもする。


「エリアナ様、尊い!人の姿をした妖精ですよね。そのドリ…縦巻きロールも似合ってますが、下ろした所も見てみたいです!!」


危なくドリル巻きって言いかけたわ。


「!!!」


エリアナ様や取り巻き令嬢達が何故か驚いているわ。


「エリアナ様!私の描いた殿下達を見て下さい!あーなんて尊い!萌えるー」


私はババン!!と効果音を自分で言いながらエリアナ様に今まで描いてきた殿下や側近達の絵姿を見せながら1つ1つ説明し、1人興奮の坩堝と化していた。


エリアナ様と取り巻き令嬢3人は若干引いていたかもしれないが、私の絵を気に入ってくれたみたい。


「凄く素敵だわ!釣書のような絵ではないけれど、私は気に入ったわ!この絵、頂きたいわ!」


取り巻き令嬢達も欲しがっている様子。


「…差し上げたいのは山々なのですが、私、この絵を街で売って生活費の足しにしようと思っていました」


驚いて目を見開くエリアナ様達。


「… なんて事。私が全て買取りましょう!」


「ははっ!有り難き幸せ!」


私はもちろんジャンピング土下座ね。有り難や!


「色んなエリアナ様も描いてみたいです。ドリ、縦巻きロールは沢山描いたので髪の毛を下ろして来て欲しいです!」


「… 仕方がないわね。今度の休みに邸へ呼んであげるわ」


「!!有り難き幸せ!」


嬉しさで羽ばたきそうな勢いよっ!


いや、実際に飛んだかも!




 後で知ったんだけど、取り巻き令嬢3人はアインス殿下の側近の婚約者だそうで。(今更ながら)


婚約者の萌え絵に萌えているようで良かったわ。もちろん私は取り巻き令嬢達の絵も描いているのよ?上位貴族ってなんであんなに綺麗なのかしら?


ヒロインの私も可愛いはず、なんだけどね。


「テト!聞いて!エリアナ様が殿下達の絵を買い取ってくれたわ。これで弟達は学院の生活も困らないと思うの。それに欲しい物を買ってあげられるわ」


「それは良かったな。俺も一安心だ」


「テト、いつもありがとう」


「ローサ。今日はなんだかしおらしいな」


「たまにはね」



 そうしてホクホク顔で家に帰り、週末の準備をする。絵の具も買い足し、弟達の服も新調できたわ。


私の帰りを喜んでくれるなんて可愛い弟達。素直で可愛いのに顔も親に似て将来イケメン間違いなしだわ。貧乏男爵で仕事運が無くてもやっていけるのは父も母も美男美女だったからかも?道ゆく人にオマケしてもらえるありがたい人種なのよね。


その血筋は確実に弟達に受け継がれているわ。この間も道ゆくおばあちゃんにパンを貰っていたもの。でも、いつまでもおばあちゃんのパンに頼っていては駄目!将来は自分でしっかりと稼げるようにしないと男爵家は潰れてしまうわ。今は長女である私がなんとかしないとね!



 週末になると公爵家の馬車が迎えに来てくれた。


「お父さん行ってきまーす」


馬車に乗り込んでびっくり!


フッカフカよ。


何度もお尻でバウンドして感触を確かめたのはご愛嬌だわ。馬車は静かに公爵家へと運んでくれた。隅々まで貴族って違うのね。



ほへーって感心しながらサロンへ案内されて入る。


 聞いた話では隣国からの客人達の人数が多くて王城へ入れない時は公爵家に案内するんだよね?凄いよねー。


「ごきげんよう。ローサさんいらっしゃい」


数人の侍女を連れてやってきたのはエリアナ様。ここは私も気を引き締めてしっかりと礼をする。


「エリアナ様、お呼びいただき有難う御座います。私、この場にいるだけで感無量ですわ」


だって天使が目の前にいるんだもの。


 今日のエリアナ様は髪を下ろして大人だわ。私は出されたお茶を飲みつつエリアナ様を観察していると、


「最近、殿下は私に素っ気ないような気がして。いつもローサさんが殿下の側にいるので嫉妬していましたの」


突然のエリアナ様からの告白。


「!!!かわゆす!」


「え?」


「エリアナ様、なんて天使なんですか。私はただ、美男美女を絵姿に残していたいだけなのです。もちろん好きな人はいますよ。貧乏男爵家なので将来どうなるかは分かりませんが。ほらっ見て下さい。いつものエリアナ様はこんな感じです。妖精ですよね。天使ですよね。殿下がそっけないなんてあり得ません」


私は後ろに控えている侍女達に向かって絵を見せる。侍女達は大きく頭を縦に振っている。


良かった、味方だわ。


私はエリアナ様の良さを絵で描きながら説明する。ちょっと熱すぎたかもしれない。


「エリアナ様、いつものエリアナ様の姿も素敵ですが、ちょーっとばかり殿下受けしないかもしれませんね」


「何が駄目なのかしら?やっぱりキツイこの目が駄目?」


エリアナ様は真剣に悩んでおられる様子。


「侍女さん、エリアナ様のお化粧道具を持ってきて下さい」


私が頼むと超特急で1人侍女さんが化粧品を持ってきてくれました。私はエリアナ様の良さが最大限に活かされるお化粧をする。


もちろん侍女達は私のやる化粧の仕方に息を飲み見守っていたけれど、感動して泣いている人すらいる。


そうよね!こんな女神はこの世のどこにも居ないわ。


「エリアナ様出来ました。見て下さい。我が女神!」


私は鏡をそっとエリアナ様に差し出す。


「…これが私?」


驚いて鏡を見入っているわ。なんて天使。


 私はすぐさま紙を取り出し、色んな方向からエリアナ様を描いていく。やば!神!女神!って口から溢れ出ていたのはご愛嬌だと思うの。



 エリアナ様と恋バナしながら何枚も書き上げていく。至上の喜びだわ。私の描いたエリアナ様を取り合う侍女達にエリアナ様はちょっと恥ずかしそうにしていたけれど、良かったわ。



公爵家で作られた茶菓子をお土産に貰って夕方には帰ってきた。やっぱり雲の上の人達って食べ物も違うのね。


うっとりと余韻に浸りながら弟達と茶菓子を食べたのは言うまでもない。


 そしていつのまにかエリアナ様にストーカー紛いの張り付きで絵姿を描いている私は公爵家公認となっていたらしい。


エリアナ様のお父様は私の絵を見て面白いと喜んでくれているのだとか。

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