忙しい時には

御影イズミ

《猫の手》を借りる

「うにゃー、本当に僕まで駆り出される羽目になろうとは……」

「しょうがないだろ、優夜も遼も響もいないし、和泉も出払っててお前しかいねぇんだから」


 九重市の住宅街を歩く神無月猫助と、探偵の睦月和馬。今日は和馬が行方不明の猫を探して欲しいという依頼を受けたので探し回っているのだが、これがまあ、依頼人が何処でいなくなったのかわからないというとんでも依頼だった。

 そのため人手を増やすことで効率よく猫を探そうと思ったのだが、非常に残念なことに動けるのが猫助しかいないという悪状況。しかも今日中に見つけて欲しいという条件が追加されているため、別の日に探すことは出来なかった。


「ぬー、いにゃい。この辺は探し回ったけどいないねー」

「あー、じゃあ別の地区にいるんかな。とはいえ探し回れるのはあと数時間ぐらいだぞ」

「はえー、猫の手も借りたいとはこのことじゃんね。どうしよ」

「1番は人手を増やす事だが、優夜達の帰宅は待てないんだよな。マジでどうしよ」


 和馬はがりがりと頭をかいて、次に探す場所を考える。猫助もどうにか探す場所を考えたのだが、猫の行動範囲のことを考えると何処を探しても見つからないと言いそうな気がする、とのこと。


 そこで、猫助はひらめいた。

 猫のことは、猫に頼めば良いんじゃないかと。


「は? 何いってんだお前。正気か」

「昔から猫の手も借りたいっていうでしょ~。あ、きみきみ~」


 猫助はそのまま近くを通った野良猫に写真を見せて、本当に《猫》の手を借りた。予想外の動きに和馬も唖然とするしかなかったが、今は藁にも縋りたい気持ちなので彼の動きを止めることはせず。

 野良猫はにゃあん、と了承を得たかのような鳴き声を上げると、すたこらさっさと何処かへ行ってしまった。本当に理解を得たのかは怪しいところだが、猫助は理解してくれたものだとして、さっさと次の猫に声をかけていった。


「本当に大丈夫なのかぁ?」

「だいじょーぶだいじょーぶ、僕はこのへんの猫と仲良しだから、すぐ見つけてくれるよ~」

「まあ、猫って結構人の言葉理解してるっぽいからなぁ……」



 何匹かの猫に声をかけ終えた猫助と和馬は再び猫探しを行う。

 捜索範囲内から少し外れにある公園や、猫が入り浸りそうなお店の近くなど様々な場所を探して、探して、探し回って……ようやく、依頼人の猫を見つけることに成功した。

 猫助が声をかけた野良猫が先に見つけてくれていたため、依頼人の猫は何事もなく、無事に保護された。


 これで事件は解決だ。そう思っていたのだが……。


「うにゃ?」


 野良猫たちが、猫助の足にまとわりつく。

 まるで何かをよこせとせびってくるかのように。


 そう、彼らはこの街に住んでいるから知っている。

 自分たちに依頼をした相手は、きちんと報酬をくれるのだと!!


「うにゃ……か、かじゅ……どうしよ~……」

「知らんぞ。お前が勝手にそいつらに依頼したんだから、依頼料はきちんと払え」

「ふにゃ~~!? もともとはかじゅの依頼でしょー!?」

「俺は人手がほしいとは言ったが物理的な猫の手を借りたいとは言ってないんでな。それは完全にお前の責任」

「ふえぇ~~!?」


 この日、猫助は猫缶10個という大出費を支払うことになった。

 しかしそれでも良いなと思ったのは、この街の猫たちがとても優秀で、賢くて、とても可愛かったからである。



 猫の手も借りたい。

 その言葉は、彼にとっては本当の猫の手を借りるということでもあるのだ――。

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