第29話 ケチャップ有効活用


「よーし! お部屋も完成したのでピザ作りますよ!」

「やったー!」

「キキー!」

「コルトは食べられないよ?」

「キキッ!?」


 翌日。

 オルゴール店の二階空き部屋を片付けて、マチトさんのご友人の大工さんに既製品を譲ってもらい、マチトさんとルイに運んでもらって私とリオ、コルトの部屋が完成した。

 自分の寝床が完成したお礼に、ケチャップを応用したピザソースを作ってピザを振る舞うことにしたのだ。

 ルイはトマト嫌いだけどケチャップは好き、といういかにもなお子様舌!

 まあ、それがなんか可愛い、と思ってしまう私もどうかと思うんだけど。

 それに、ピザはみんなが楽しめる。

 リオはもちろんそんな見た目とは裏腹に中身がお子様全開のルイにも、「好きな具材を載せていいのよ」と野菜や切ったウインナー、照こちらもお手製のマヨネーズなど定番の具材を並べると、ウキウキ山盛りにしていった。

 私は前世好きだった照り焼き。

 地味に照り焼きから作ってしまったわ。

 もちろん、照り焼きのタレから。

 幸いなことに、醤油があったの。

 なんでも昔、ルイのようにコバルト王国に呼び出された聖女が作り方を伝えてくれたのだそうだ。

 異世界人、五年ごとにこの世界に来るものね……私も一応前世は異世界人だし。

 それでも度重なる戦乱で、ケチャップや味醂のように一部でレシピの失われた調味料や料理もあるという。

 戦争本当ろくなことしない。


「このピザソースやケチャップってのはいいな。ティータ、もし可能ならうちの宿にも作って卸してくれないか?」

「え! あ、え、ええと」

「材料は渡す。トマトと、玉ねぎ……細かいのは香草? も入ってるのか、こりゃ?」

「あ、そ、そうです」


 ケチャップに玉ねぎとオレガノを細かく刻んだものと、すりおろしたニンニク、オリーブオイル、砂糖、塩、胡椒。

 トマトの香りの中にオレガノの香りも混ざってほんの少ししょっぱいけど、ピザ生地にもどんな具にも合うオリジナルピザソースの完成!

 他にもトーストに載せて使えば、ピザ生地を使わずとも作れるピザトーストになる。

 パスタに挽肉と一緒に和えて炒めても美味しいのでおすすめ!


「なるほど、そんな使い方もあるのか」

「ティータは結構料理上手だねぇ」

「い、いえいえ! これからプロとしてやっていけるのか不安ですよ! 私はその、接客の経験もないですし」


 前世ではただ黙々と仕事をこなすOLだった。

 OLの仕事は記憶の抜け落ちでよく思い出せないけれど。

 接客とはかけ離れた業務だったのは覚えてる。

 しかも今世でも部屋に引きこもっていたも同じ。

 社交界にデビューもしないうちに、妊娠出産育児に追われるようになった。

 対人がこれほど不安だと思わないじゃない?


「大丈夫さ、ルイもいるんだから。な、ルイ?」

「俺もあんまり接客は得意じゃないんだけど……」

「キキ!」

「え? コルトが接客してくれるの?」

「キキキ!」


 任せろ、と言わんばかりに手を掲げるコルト。

 しかし子猿でしかないコルトに接客などできるのだろうか?

 不安な表情が丸出しの私に、アーキさんが「ルイにメニュー玉を作ってもらいな」と言う。

 め、メニュー玉、とは?


「うちの宿にも言葉が通じない種がたまに来るんだ。木版にメニューを書いて、そのメニューの横に窪みを作っておくんだよ。その窪みに玉を載せて注文するんだ」

「わあ……なるほど」


 アーキさんが指で木目をなぞりながら、形や用途を教えてくれる。

 メニュー玉とは、長方形の木版の左側に一品ごとにメニューを書く。

 そのメニューの横にある窪みに、玉を乗せて注文を現す。

 注文した品が提供されたら玉を取る。

 そういうもの。

 確かにそれなら言葉が通じなくても注文がわかるわね。


「それにそんなに広くもないから、把握できないほど客が入ることはないだろう。うちの宿の夜みたいな戦争状態になるような、ルイにも接客をやらせるといい。自分でオルゴールの営業もさせろ」

「そうよぉ! 元々ここはアンタのオルゴール店でしょー! ティータにばっかり頑張らせるんじゃあないわよ!」

「うー……」

「あはは……」


 マチトさんとアーキさんに背中をどつかれながら、ルイさんは嫌々「わかったよぉ」と頷く。

 親に叱られる子どもみたい。

 ともかく、そのメニュー玉というのも作ってみよう。


「他のメニューは決まったのかい?」

「はい、こんな感じにしようかと」

「ああ、あんまり品数も多くなくてよさそうだね。アタシらも食べに来るよ。ティータの料理は少し珍しいから」

「はい、頑張りますね」


 夕飯後、食器を洗って片付けて、アーキさんたちと少し談笑してから戻っていく二人をお見送り。

 すっかり夜も更けて、いよいよ私とリオとコルトは自分の部屋で眠ることにした。

 ……の、前にリオのオムツを替えないとね。


「ティータ、お店っていつから開店するの?」

「家具が揃うのが数日中だから、届いたら開店するつもり。材料はルイの提案通り持ち込みにするから、裏の畑で宿に卸すケチャップとピザソース用のトマトやハーブを育てられたらと思っているの。明日はその畑の準備かな」

「じゃあそれ手伝うよ。リオの世話もあるから、俺にできそうなことあったら言って」

「え、あ……ありがとう?」


 優しい。

 手伝うから、なんて言われると思わなかった。

 だって、一応夫婦にはなったけど、ルイは類のお店があるし。

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