第24話 仮初夫婦に
「美味しいですか?」
「うん、もったいなくなっちゃった」
「また作ってあげますよ」
「本当?」
「はい」
こんないい笑顔をされたら、またいくらでも作ってあげたいじゃない?
それに、思い出した。
カフェの話をしなきゃ。
「あの、それでですね」
「?」
「私、この国で生きていくことにしました。リオもその方がいいって」
「んぁー」
モゾ、モゾ、と背中で動くリオ。
その後ろからコルトも顔を出して「キキ」と短く鳴く。
どうやらコルトも私たちに賛成らしい。
「それで、このお店、とても広くて陽当たりもいいので、厨房とテラスを間借りしてカフェを経営させてもらえないかと」
「カフェ?」
「はい。私……前世でカフェに憧れがあって……幸い料理は嫌いじゃないし、アーキさんやマチトさんも賛成してくれてて」
「カフェ……」
微妙な反応だな。
やっぱりダメだろうか?
「カフェってご飯食べるところ、ですっけ?」
「えーと、そうですね。軽食や飲み物、ゆっくりできる空間ですね」
「ふーん。うちのテラスで?」
「はい。厨房もお借りできたらと」
「まあ、俺のオルゴールは売れないし、厨房は使いこなせてないからいいけど」
と、後ろを見たルイさんの視線の先にある汚れたお皿の溜まった厨房。
呆れて言葉もない。
あとで片づけないとなぁ。
「あ、でもルイさんのオルゴールは是非そのまま売ってほしいんです!」
「へ?」
「オルゴールカフェって素敵じゃありません?」
私は一晩考えたのだ。
ルイさんのお店を間借りするのだから、ルイさんにも旨味がなければ。
そして、ルイさんの商売に少しでも還元したい。
だってオルゴールの音色、とても素敵なんだもの。
「うーあー、うー」
「どうしたの、リオ?」
「うー、うーんぁー」
「あ、リオもオルゴールが聴きたいのね」
「あー、あー」
髪を引っ張りれ、リオが手足をバタつかせる。
テーブルの端にあった木製の箱。
蓋を開けて鳴らすタイプだと思う。
手に取って、ルイさんに「鳴らしてもいいですか?」と確認を取ると「どうぞ」と言われた。
許可をいただいたのでありがたく蓋を開くと、これは、アニメの曲だ。
題名はうまく思い出せないけど、多分。
前世の……科学にまつわるものは、思い出せない。
転移してきた人はそうではないのだろうか?
少し羨ましいなぁ。
「オルゴールの音色を聴きながら食事したり、飲み物を楽しみながらまったり過ごすの……素敵じゃありませんか? ほら、音色や曲が気に入ったら、オルゴールもお買い上げいたたける、みたいな。お土産にもなりますよ、って」
「な、なるほど」
うん、いい考え!
ルイさんも「それなら」と頷いてくれる。
けれど、ここからがもう一踏ん張り。
「そ、それでですね」
「はい? ま、まだなにかあるんですか?」
「私もリオもコバルト王国に身バレするわけにはいきません。アーキさんとマチトさんに、ルイさんも同じだと聞きました」
「ま、まあ、そうですね」
息を吸い込む。
落ち着け、これは必要なこと。
「なので、私と夫婦のふりをしてくれませんか? それならバレにくいんじゃないかって」
「ふ、夫婦!?」
やっぱり驚かれるよね。
そりゃそうだ。
私もびっくりしたもの。
「えっとですね」
しかし悪い案ではないのだ。
アーキさんとマチトさんに相談した時言われたことを、そのままルイさんに伝えた。
「なるほど……店の資金にもなるし、身を隠すのにも使えるんですね」
「はい、どうでしょうか」
「うちはいいですよ、別に。二階に使っていない部屋もありますし——あー、まあ、片づけないととても住めないんですけど」
「え?」
「え?」
住む?
思わず聞き返すと、聞き返されると思わなかったのか逆に首を傾げられた。
けれど、住む、と聞いてはっとした。
「そ、そうか! 住む場所!」
「え、うちに住む話だったんじゃないんですか?」
「ぁぁぁぁぁぁあ! ……い、いえ、そ、それもそうだな、と」
「ええ……?」
そうだ、今寝泊まりしている部屋はお宿の従業員さんたちの仮眠室。
いつまでもあの部屋に住んでられるわけない。
あまりにも居心地よくて忘れていた。
それに、結婚するってことは、ルイさんと一つ屋根の下ってこと。
いえ、さすがに相手は元勇者だし、そんな、襲われるようなことはないと思うけれど!
「か、鍵……」
「はい?」
「か、鍵はついてます、よね?」
「部屋ですか? ついてますよ」
変な質問だっただろうか?
けれど私には重要なことだ。
だって、一応未婚の女なので。
子持ちだけど。
い、いえいえ、さすがに元勇者を信用してないわけではないのよ?
でも、一応、一応ね?
鍵がついていても家主は彼だし。
結婚と言っても形だけ。
ふりだし。
そう、夫婦のふり! 結婚したふり!
「えっと、改めてですけど、こちらに私とリオと、あとコルト……住んでもいいんですか?」
「俺は構わないですよ。コルト——猩猩は俺のことあんまり好きじゃなさそうだから、それは申し訳ないというか」
「いえいえ! 多分昨日、威圧を受けて驚いてしまったんだと思います。とても人懐こい子だし」
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