第46話

「その通りだ!」


 俺は彼女の言葉を無視して思考を続ける。これは魔族たちによる人間を使ったゲーム。無敵の力など与えるのだろうか?

 公式戦で一々ルールを変えて戦わせているのだ。そんなワンサイドな展開を認めると俺は思えなかった。


「だから、無敵には目を瞑ろう」


 どちらにせよ、俺は引く気はない。相手が無敵だと思考放棄して、試行せずに挑み続けるのは――それこそ馬鹿な行為だ。


 無敵ではないが、攻撃を無効化する【魔能力】。ならば、それには条件があるはずだ。


「なに、ブツブツ言ってるのよ。今度は、私から行くじゃん!」


 ご丁寧に攻撃宣言をした阿散あばらさんは。大きく腰を湾曲させる。弓形にしならせ、俺に飛び掛かってくる。

 素早い攻撃を俺は時を加速させることで回避する。


「となると、猫の力を持ってるってことか?」


 攻撃をかわし時の流れを戻すが、阿散あばらさんの肉体に変化はない。生物の力を使う【魔能力】はその特徴が身体に現れていたのだが……。


「身体が変化しないタイプもいるのか?」


 しかし、その可能性は低いだろう。

 俺が知るのは二人。共に同じように変化したのだから、生物の力を使うと身体に特徴が現れると考えた方がいいだろう。

 ならば――。

 次だ。


「へぇー。また、姿が見えずに躱したか。と、なるとあんたの能力は加速とかか?


 興奮した表情を隠すように、左手は顔に乗せたまま阿散さんは、俺の能力を当ててみせた。


「……もう一度!」


 ポーズを決めた格好で止まる彼女のあたまに、空中から落下の勢いをプラスした踵を振り落とす。


「駄目、か……」


 脳天に打撃を受けたはずの阿散あばらさんは、「なんかしたじゃん?」と首を回す。

 掌で隠しているはずの表情が、はっきりと歪んだのを感じた。隠した上からでも分かる笑み。顔から手を外すと、


「ここからは、私の番じゃん!!」


 身体をしならせた。

 また、攻撃が来る! 俺が彼女を視認できたのは、そこまでだった。彼女が俺の頬を引き裂いたことに気付いたのは攻撃の後。

 何をされたのか分からなかった。今も動き続けているのか、阿散さんの姿はない。

 まるで、相手の時が加速したかのような……。


「まさか」


 とにかく、動きの見えぬ相手を捕えるには、能力を発動させるしかない。

 時を加速させると、姿の見えなかった阿散さんが俺の眼前に迫っていた。


「うおっ!!」


 咄嗟に膝を曲げて、身体を落として回避する。

 やっぱりだ。

 彼女も高速移動しているんだ。


「へぇ。あんたも身体能力を強化させられるんだ」


「……」


 俺が時間を操って加速することに対し、阿散さんは身体を強化させて動きを速くしているのか。どれだけ時を遅くしたところで、元が早ければ意味がない。


 銀の群衆クラスタからのスパイだと言っていたらんと同じような能力か……。

 完全に俺の上を行く能力。

 一人を相手にするならば余裕だと思っていた時間も、いつのまにか2時間だけになっていた。

 このままでは勝てない――。


 解決の糸口が見えぬまま貯蓄だけが失われていく。

 どうすれば――。

 焦る俺を馬鹿にするように動きを止めた阿散あばらさん。俺も能力を解除して睨むが、これも虚勢だと気付いているのだろう。


「根性だけはいっちょ前じゃん」と、笑った。


 そんな時だった。

 俺の背後から一人の男が歩いてきたのは。


「おや、銅次くん。丁度良かった。先ほど傷だらけの鍛炭かすみさんを見かけたのだが、大丈夫かな?」


 戦場に一輪の花が咲いたようだ。

 現れたのは絵本えもと

 首を傾げる動作も絵になる男だった。

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