第26話
ゴールをみて過去を懐かしむ俺の肩に手が置かれた。
振り返ると、深刻な面持ちで思考する
「ルールは聞いた。恐らく、君の能力が、最もこの『PK戦』では向いている。だから、今回の公式戦は、君に出て欲しいのだが――どうだろうか?」
「俺は別に構わないけど」
確かに俺の時間加速を使えば、ゴールさせないことは容易いだろう。俺には周囲の動きが遅く見え、他の人間には俺が加速して見えるのだから。
「でも、俺一人だけなのか?」
普通、『PK戦』は何人かで順番に蹴っていくのではなかっただろうか? 最終的にゴールを決めた人数が多い方が勝者になった記憶があるが。
俺の問いかけに、座ったままの
「公式戦の『PK戦』は……一人でやるの」
「そうなんですね」
明確なサッカーじゃない。あくまでも魔族が決めたルールだ。
一人が決められた回数を蹴り、ゴールを奪った方が多いと勝ちになるってことか。一人だけで戦うのは心細いが――やることは変わらない。
「じゃ、さくっと勝負決めてきますよ」
俺は背中に二人の視線を受けて中心へ歩いていく。黒の
スーツのような黒い制服が良く似合う女性だった。髪色は鮮やかな淡い緑で腰まで伸びている。歩みに合わせて滑らかに踊る髪の毛は、きっと毛先まで丁寧に管理されているのだろう。
クールビューティーなオフィスレディは、俺の前で立ち止まると、
「よろしく!」
と、手を差し出してきた。
魔族による絶対王政と、黒という色合いから、黒の
少なくともこちらの露出狂よりは、話が通じる気がする。
そのことが嬉しくなった俺は、差し出された手を両手で掴んだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
この世界にやってきてから、初めて感じるスポーツマンシップ。
公式戦も思ってたより悪くないな。
「えっと、先行と後攻――どっちがいいかな?」
俺より少し身長が低い彼女は、上目遣いで見てくる。
先行と後攻か。
ぶっちゃけ、どっちでも同じだよな。プレッシャーはどう足掻いても襲ってくる。
サッカーの技術が乏しい俺は、心理戦で勝たなければ。余裕を見せつけるように対戦相手である彼女に選択権を譲った。
「俺はどっちでも構わないよ。好きな方を選んでくれ」
「え! いいの!!」
好きなほうを選んでいいという俺に、一気に表情が明るくなる。まるで、『先に蹴る』か『後に蹴るか』で、勝負が決まるとでも考えているような喜び方だった。
彼女にとっては、そんなに蹴る順番が大事なのか。
なら、譲って良かったよ。
彼女は迷うことなく、「先行!」と手を上げた。
「いや~。好きなほうを選ばせるなんて、よっぽど自分の【魔能力】に自信があるんだね」
「まあ、そうだね」
試合開始前の心理戦は俺が勝利したようだ。
順番が決まったことを聞いていたのか、空から実況が響く。
「それじゃあ、試合を始めるぜぇ! 銀の
実況者の陽気な声で――対戦相手である彼女の名を俺は知った。
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