かつて、ヒーローになった俺へ

つかさ

第1話

 あれは小学生の頃。

 俺のクラスに転校生の男の子がやってきた。父親が俗にいう転勤族で国内から海外まで幼い頃から何度も引っ越していたらしい。うちの小学校に転校してきた時は外国から戻ってきたところだった。

 外国帰りの男の子、などというと転校した途端にクラスの人気者になりそうだが、彼はかなり引っ込み思案な性格でいわゆるノリが悪いタイプだった。しかも、転校前にいた国がアメリカやイギリスみたいな有名な所じゃなくて、全く聞いたことのない国だった。


 するとどうなるか?

 答えは簡単。急にやってきた得体の知れない者は排除される。物騒な言葉にしてしまったが、柔らかくいえば「いじめ」の対象になる。

 残念なことに俺のクラスには幅を利かせているガキ大将がいたので、彼はそいつのターゲットにされてしまった。先生から見えないところでチマチマと少しずつ心を削る。クラスの誰も逆らえないから、みんな彼との距離をあけていく。


「今日、家に遊びに行ってもいい?」


 そんな中、放課後に彼を遊びに誘う男子生徒の姿があった。そう、俺だ。

 あの頃の俺は何を考えていたんだろうか。

 クラス中の態度に見かねた正義感か。それともただ彼と遊んでみたいと思った興味からなのか。問いかけてもあの時の少年の心情を今は読み取れない。


 俺が誘ったことをきっかけに他のクラスメイトも彼と一緒に遊ぶようになった。

 ちなみに、彼の家には最新のテレビゲームが揃っていた。転校続きで迷惑をかけているからと父親はかなり息子に甘いそうだ。お母さんは遊びに来るたび歓迎モードで、外国の料理やお菓子をいろいろと作ってくれた。



 そんな楽しい日々は1年と少しで突然終わりを告げた。彼が親の転勤で転校することになった。それは考えれば当然のこと。ただ、仲が良かった友人としてはその別れは受け入れられなかった。もう二度と会えないという事に、あの頃の俺は強く打ちひしがれた。

 そして、それだけでは終わらなかった。これまでの腹いせか、あの時彼をいじめたガキ大将が俺にターゲット絞ったのだ。学年が上がって悪知恵もついた奴らに、友達がいなくなってショックな俺は、ずるずると抜け出せないいじめの沼に沈まされていった。

 そのままいじめは中学まで続き、高校進学でようやく逃げ出せたけれど、あの頃に刻まれてしまった“人となるべく関わりたくない”という気持ちは俺の人格形成に大きく影響し、おかげさまでだいぶ捻くれた性格になってしまった。



「これも捨ててー」

「悟、それ小学校のアルバムでしょ?」

「もう見ないし、あっても嵩張るだけだって」


 俺は今、実家で大掃除中。溜まった昔のアルバムやら賞状を整理している。うむ。想像以上に名残惜しさがない。これもいらん。あれもいらん。


「これも捨てるの?」

「ん?なにそれ」


 母親が突き出してきたのは1通の封筒。


「えっと……あれよ、あれ。転校した子が持ってきてくれたのよ。あんた、なんか拗ねて顔を見せもしないから……」


 あぁ……言われてみれば、そんなことも……。母から受け取っても「いらない!」って突っぱねったんだっけか。


「それ、貸して」


 母親から封筒を受け取る。色褪せて角の折れた茶色い封筒。劣化したセロテープを剥がして中身を開ける。便箋じゃない白い紙に小学生らしい少し下手な文字が数行。


 たくさんあそんでくれてありがとう。みんなむしするのにはなしてくれたさとるくんがヒーローみたいでかっこよかったよ


「……評価しすぎだって」


 俺は手紙を封筒に入れてポケットにしまう。これは捨てるわけにはさすがにいかないか。

 それにしても、よく考えたら昔の俺よくあんなことしたよなぁ。今のチキンな俺だったら考えられん。


「でも、まぁ……」


 たまには思ったまま真っ直ぐ動くのも良いのかもしれないな。

 あの時遊んだ思い出は間違いなく楽しいものだったから。


  

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