修羅場

 英治は、時間調整のためにカフェで待機していた。

 その向かいに座るのは、松下楓。

 仕事の上でも、でも英治のパートナーとなっている。

 スーツ姿が、すっかり板についている。


 英治と楓が世間話をしていると・・・

 テーブルの横に誰かがやってきた。


 そこに立っていたのは・・・隣の家の中学生。

 美緒であった。


「ええっ!? 美緒ちゃん、何でここに・・・?」

「英治にいちゃん・・・誰?この人?」


 見下ろす美緒の目からハイライトが消えている。

 眉間にしわができており、英治の向かいに腰かけている楓をにらみつけていた。


 しかし、楓は動揺もせずにこやかな笑顔を浮かべながら立ち上がりあいさつした。


「あなたが美緒さんですね。初めまして。私、時田英治さんの会社で働いている松下楓と申します。よろしくお願いいたします」


 薄グレーのビジネススーツに身を包んだスタイルの良い美女。20代半ばくらいだろうか。

 明らかに、スーツでは大きな胸を隠しきれていない。


 差し出された名刺を見る。


 『トキタコンサルティング 代表取締役社長 松下 楓』


 と書かれている。


「社長?」

「い・ま・は、社長をさせていただいています」


 英治がボソッと言った。

「ずっと社長でいいのに・・・」

「いえ!英治さんが成人した時に社長を代わっていただく約束です!」


 にこやかだが、強い口調で否定した。

 サラッと下の名前で呼んだことからも、親しいことが感じられる。


 美緒はむすっとした表情で英治の隣に座りさらに追求した。


「つまり、英治兄ちゃんの彼女とかじゃなくて仕事関係の人ってこと?」

「あぁ、そうだよ」


 しかし、美緒は向かいに座る美女が小さく「いまは・・」とつぶやいたのを見逃さなかった。


 この女性・・・危険だわ・・


「ところで、会社ってどういうこと!?英治にいちゃんの会社!?トキタコンサルティングって何!?大学生じゃなかったの!?」

「ええと・・・いろいろあって、大学にも行っているけど会社員もやっているというか・・・」

「ええ!?おじさんは知ってるの!?」

「あー・・そのうちちゃんと言うから、親父にもおばさんとかにも内緒にしていてくれ・・・頼むよ」

「なんで、そんなことになってるの!?ちゃんと説明して!」



 その時、初老の男性がテーブルの方にやって来た。

 白い手袋をした、いかにも執事のような風貌の男性。


「時田様、松下様。そろそろお時間でございます」

「あ・・はい、今行きます」


「え!?ちょっと待って!」

「ちゃんと、今度説明するから。今急いでいるから、ごめんね」


 そう言って、英治にいちゃんは美女と執事風の男性を連れて行ってしまった。



 あとに残された美緒。


「英治にいちゃん・・・。いったい、何がどうなってるの・・・・?」

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