第39話 危急存亡 ききゅうそんぼう
危急存亡 ききゅうそんぼう
危険が切迫して存続するか滅びるか、生き残れるか死ぬかの瀬戸際のこと
今日も火口入り口のタラスコンを狩る。
タラスコンの正面から昨日と同じくイブキが突っ込み上昇する。それを追って顔を上げたところで、俺が首に切り込みを入れ、突きを光漸と共に放つ。
その一点に鉄火弾をユキが連続し撃ち込み穴を拡張する。砂塵と影の触手で傷口を押し広げる。ナイフ化した鎖分銅で奴の首深くまで食いこませ、魔石を取り巻く肉を裂き、強引に絡め抜き取る。
討伐パターンができた。今日は15体のタラスコンを討伐できた。
次の日は20体討伐できた。一日20体、このペースで安定した。かなり奥まで進むことができている。
もうすぐ暴走ダンジョンの第二領域と言われる穴の向こうまで進むことができるだろう。
今日は第二領域に入る計画だ。今まで壁に沿い螺旋状に飛んでいたが、探索でタラスコン含め魔物の反応がない場合は一直線に穴の出口を目指し飛んで距離を稼ぐ。途中、避けられない場合のみ狩った。今のとこと不意を突かれていない。奴らは基本単体なので問題ない。
単体であれば同じ対応で同じモーションのタラスコンは楽に討伐できている。3体のタラスコンを狩った俺たちは奥へ進む。
地下に向かって火口出口は入り口と同じくらい狭くなっていった。入り口が最も狭く、奥に行くに連れ広がっており、また狭くなる。ユキ、カグラから第二領域への出口も近いとの連絡を受けた。
遠くに穴が見える。
火口が狭まっている。
もうすぐ穴を抜けれる。
ユキに緊張が奔る。
『!!!』
急停止した。停止しなければいたであろう場所に無数の光線が集まっていた。第二弾が来る。1,2,3,4本までは瞬移で避けた。5本目が肩を掠る。火口出口の壁に多数の黒いタラスコンが壁に埋まる様に重なり、伏せており、背中だけ出しているのが認識できた。擬態か、第三波が来た、今度は横からも光線が来る。ジグザグに退却していく俺たちの周りを更に数が増した光線が通り過ぎる。避けられない光線にだけミスリルの砂塵で盾を作り弾く。
『☆・~9$!!!』
カグラの叫び声が聞こえた。弐号機が巨大な盾を第二領域の方に作った。俺は弐号機を掴み、ユキが二体を包む球形の壁をミスリルの砂塵で作った。
最大限感覚を研ぎ澄ました探知によって、第二領域への出口の向こう側に巨大な魔物が見えた、”ドラゴン”、そいつからの巨大な黒いブレスが来る。避けられない。
意識が飛んだ。
ゲンジが意識を失ったのが私にはわかる。
最初0.1秒ほど盾は耐えた。その後爆散し、ミスリルの粒に分解した。
壱号機は四肢が千切れ、千切れながらも糸のようなもので繋がっていた。
なんとかコックピットを守る位置に全てを動かし、黒い衝撃に耐える。
耐えて・・。幸いなことに、もう興味を失ったのか、出口向こうの”ドラゴン”の姿はなく、黒いブレスの第二波はこなかった。かなり火口手前まで吹き飛ばされた。
来るまでに火口内のタラスコンを見つけ次第狩っていたので、この辺りに敵はいない。
ゲンジの呼吸は止まっている。どうする。手足が切れてもマリオネットが糸で繋がったのを思い出し、壱号機の細部の深層まで意識に持っていく。糸状の素材に意識を張り巡らせる。繋がった! コクピットを構成する糸一本一本を動かせた。カグラに意識を共有し、この感覚を伝える。
コクピットの糸が私の造形をゲンジの傍に作る。
回復薬も死んでは効果がない。ゲンジの千切れた手足を糸で結び、繋ぐ、布状に摘むぎ押さえ、出血を押さえる。心臓を押し息を送る。ゲンジから教わった“根源力”を流し込む。
”帰ってきて”
朝焼けに照らされる鳥居が見えた。辺りはまだ薄暗い。
これから瞑想の鍛錬だな。このごろやっと何かが感じられ始めた。
師匠はそれを根源力と呼んだ。
清浄な場所での朝、登りたての日を浴びる時間が一番瞑想訓練に適していると説明してくれた。
俺たち修験者は朝に鍛錬を行う。
あれ、弥助は、左文字はどこだ。
歌が聞こえる。視界が徐々に戻る。
ここは神社の一角か、狛犬が見える。
歌が聞こえる。
“かごめかごめ
かごのなかの とりは いついつ でやる
よあけのばんに
つるとかめと すべった
うしろのしょうめん だあれ”
二人の子供が回りながら歌っている。
小さな女の子とイブキだ。
二人はクスクス笑いながら歌を歌っていた。
そうか、イブキも一緒に鍛錬していたのか、ここは厳しいぞ。
兄ちゃんの傍にいろよ。
師匠の前では笑うの禁止な。
あの女の子は、前にも会ったっけ、いつだ、俺は起き上がる。
『兄さん、もう大丈夫ですよ!白狐が治してくれました。一緒に遊ぼ!』
横でニコニコしている女の子 ”白狐” と手を繋いで駆けていく。
そうだな。たまには一緒に遊ぶか。
よしユキもカグラも呼んで一緒に遊ぼう。
ゲンジの心臓が動いた。ゲンジの四肢の傷が塞がっっていくのが解る。
『ゲンジ!』
息はしているが意識はまだ戻っていない。壱号機の糸から成る私の義体で思わず抱きしめた。命が戻って来た。よかった、本当に良かった。私の意識をBステージのコックピットに戻す。壱号機の機体の四肢も繋がっていた。カグラの声が聞こえた。
『ユキ、急ごう』
横には弐号機が既に立っていた。私達は自分でマリオネットを遠隔操作し帰還する。
目が覚めた。あれ?、白狐はどこ?私がオニで隠れた白狐とお兄ちゃんを探していたはずだ・・・・。
『イブキ!!』
目をウルウルさせたカグラがいた。
『ごめんよ、本当にごめんよ。僕がタラスコンの擬態に気付かなかったんだ。僕のせいだ。良かった、戻ってきてくれたんだね』
ん??カグラ?カグラが抱き着いてくる。
”えーっと、カグラ、私は無事だよ。んっ??私は白狐とおはじきで遊んで、白狐とお兄ちゃんとお餅食べて、カクレンボして・・・”
『ギャーーー!!兄さん、兄さん、壱号機は!!ええーい、カグラいつまで抱き着いてんねん。尻尾が微妙なとこに巻き付いとるやんけ!兄さんは、姉さんは!!』
『ゲンジもユキも大丈夫だったよ、さっきまでここにいたんだけどマリオネットの修理の件でジンに呼ばれて、そっちに行ったんだよ』
『よかった!無事なんだね、よかった。それとカグラ、心配かけてごめんなさい』
『謝るのは僕のほうだよ・・・シック』
『カグラ・・・』
二人は声を上げて泣きながら抱きしめ合った。
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