第27話 前程万里 ぜんていばんり

前程万里 ぜんていばんり

これから先の目的地までの道のりが遠く長いこと



 汚れを落とし施設に帰った。ユキとイブキと三人で最上階のサロンで飯を食べた。旨い。イブキは食後周りの上位ランク女性冒険者との交流に余念がない。ユキはイブキに声を掛け、皆でユキの部屋に行く。

 ユキが話し始めた。


『お疲れ様でした。とうとう最終階に到達しましたね。ここで一度装備を整え直し、次の準備を始めましょう。ヘーゲル卿の仲立ちでミスリルインゴットが届きました。この施設の武器屋で加工できます。イブキちゃん用の武具でもいいですね。


 次の話をします。この国のダンジョンは如何ですか? ゲンジさんが短期間で攻略できる、或いはクランを組めば上位の冒険者が討伐できるレベルです。安定しています。この制御できたダンジョンを、安定ダンジョンとギルドでは呼んでいます。


 訓練と努力で至れるランクの冒険者が魔石を持ち帰れる、安定した重要な資産です。例えば、ゲンジさんに核を回収していただいていますが、その核は自然発生した核です。この回収した核は、より安全に魔物を発生させ、より安全に冒険者に討伐いただけるように、都合の良い場所にギルドが再設置しています。


 国は安全に計算可能な量の魔石を採れるように核の個数と配置場所を検討し、ランク上位の冒険者を保護、優遇し、ここに留めます。そして、魔物の発生と冒険者の確保のバランスが取れた魔石収集システムが完成します。


 このようにダンジョンを管理できる状態に保つことが国の重要な勤めです。しかし、この世界には制御できない災害としか言えない暴走したダンジョンがあります。このダンジョンのことは一般に知られておりません。この暴走ダンジョンの魔物を間引き、安定した状態に持ち込むことができるものをこの世界は求めています。


 放置しておくとそこから凶悪な魔物が溢れ出し、この世界に大きな損害をもたらすでしょう。ここに入れる冒険者は努力や経験の積み重ねでは至れない規格外の実力を持つ者です。それ以外は生きて帰って来れません。その規格外の兆候が見て取れた冒険者を、暴走ダンジョンに導くものをナビゲーターといいます。


 私はその一人です。ナビゲーターは各国のギルドに紛れ、規格外の冒険者を探し保護します。私とゲンジ、私とイブキちゃんの専属契約がそれです。


 暴走ダンジョンですが、初期の生還率は30%を切っていました。そこから情報を集め、資金と人材を集め、魔動技術を進歩させ、ようやく60%程度です。戦い方は安定ダンジョンとは違ってきます。デンジさんの実力はこの暴走ダンジョン攻略に参加できる域に達してきました。


 もしそのダンジョンに入ることを望むなら、移動や認可、必要な武具の収集に関してヘーゲル卿は協力を惜しまないでしょう。ゲンジさんが更に強くなることを目的とするならば、今後も私たちの目的に力をお貸しいただくことが最善の手段です。今は休みましょう。準備をしましょう。そして、ゲンジ、私の提案をよく考えてください。もし行くという選択をした場合、私もナビゲーターとして付いていきます。ここから先は今までとは違います。生死の境は紙一枚です。より強い敵を求めるゲンジさんの目的はわかっていますが、それでもあえて行くということは、よほどの覚悟が必要です。よくよく時間をかけて、熟考いただき、返事をお願いします』


『行きます!』



 と、イブキが言った。


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