第2話 根深柢固 こんしんていこ

 根深柢固 こんしんていこ

 基礎をよく固めて、不安定にならないようにすること



 俺は白い粘度ある空間を漂っている。


 俺はどこで生まれたか、何歳かわからない。

 父や母の記憶はない。

 この寺は養えない農家の子供や浮浪児の中から頑丈そうな子を集め、食事の代償として労働と鍛錬が命ぜられる。

 更に鍛錬で見込みある者が選抜されていく。

 選ばれた者は尋常ではない鍛錬をこなすが、特別な食事として肉が与えられる。

 10歳くらいの頃だろうか、俺はまだ選抜者に残っていた。

 朝、山頂で呼吸を整える。その後、剣、薙刀、槍等の多くの武器で打ち太刀、仕太刀に別れ、型をなぞる。

 最初はゆっくり行われるが、年々その速度を速め、皆伝前の者達は、刃引きもない真剣で実戦とかわらない速度で行われている。

 型からズレた場合は容赦のない斬撃に身を晒すことになり、何人もが身体の一部を失い、或いは命を失い離脱した。

 鍛錬の後、農作業や狩を行う。夕刻、素手での格闘術と暗器の訓練の後、解体した獣肉を食い手習いの後に寝る。その日々の繰り返しだった。

 この鍛錬において皆伝に達すると、合気、瞑想の世界に入り、天地の根源的な力と同化し、取り入れる事ができるようになる。

 理屈はなく根源との一体化は幼い頃ほどよく、早期に皆伝を受けたものほど極意に達しやすいと言われていた。


 18歳までに極意に達した者は大道寺家の養子として名が与えられ元服する。

 俺は推定17歳の時に大道寺源次郎為影となった。

 そして、郎党二人が付けられ旅に出た。


 俺の郎党は弥助と左文字、弥助は実直な槍に秀でる者で、左文字は飄々とした性格で暗器に精通する者だ。

 俺たちは尾張の地に向かい、その主要な人物に取り入り、情報を送る任務を行う。

 俺たちは豊臣家でも知将と名高い大谷吉嗣に取り入るため、関ケ原で陣借りをした。




 白い粘度のある空間の中で追憶していると、どこからか声が聞こえる。


『生きたいですか、死にたいですか』


「誰だ」


 俺は突然のことに驚き声を発した。その声を発するという行為があまりにも不自然であることも思いつかずに


『あなたには選択肢が与えられます。あなたとして生きたいですか、輪廻に帰りたいですか』


『あなたが生きた世界は、あなたの経験が還元され、世界は少し更新されます。あなたの魂は記憶を抜かれあなたが生きた世界で輪廻します』


『しかし、ある特別な能力と経験がある魂が、特別な問いかけを受け、特別な判断を行った場合は、他の世界でその記憶と経験を引き継げます』


 朦朧とした意識の中、だいたいそんな意味の声が聞こえた。


 俺の人生は何だったのだろうか、

 拾われ、鍛えられ、極意に至ったはずだった。

 そして、名を貰い、武の頂点に立てると希望を持った。

 最初の任務で失敗した。倒れた弥助を見て止まってしまった。


“無念“


“ただ無念”


「他の世界とはなんだ」


『多くの世界の集合体を宇宙と言います。宇宙は中庸を目指します。しかし、それぞれの世界において極端に方向が振れてしまい、その世界で自助できなない場合に、他の世界の適した魂を送り込みます』


『あなたが他の世界であなたとして生きることを希望した場合、他の世界の輪廻に、あなたを送ります』


「俺に何を望む」


『何も。その世界であなたとして生き、その魂をその世界に還元してください』


『あなたがそれを望むなら、あなたと同じ年を重ねた、あなたと似た魂が抜けた身体にあなたが宿ることになります。元の魂は抜けますが、記憶は残ります。その記憶であなたの向こうの世界を知るでしょう』


 俺はまだ何も成し遂げていない。

 他の世界、知らん。

 俺だけが至れる武の頂、これこそが俺が望むものだった。


「行く。俺はもっと成長したい」


 二度目のブラックアウト・・・



 この転生した世界には天国と地獄があるという。

 地獄は地の奥にあり宇宙の悪の情念を吸収していると言われている。

 地獄ではその情念を魔力というエネルギー体に変換する。

 地獄に収まらない魔力はそこに通じる穴から噴出され世界を覆っている。

 その穴をダンジョンという。

 穴の中は階層で分かれており、一階層ごとに地上と似たフィールドがある。

 “魔物” という生き物がいる。

 魔物は魔力のエネルギーが凝縮された魔石を体内に宿し、この世に具現化したものだ。

 魔物は悪の情念の影響が強く人を見れば襲う。ダンジョンの深い階層ほど地獄に近く、強力な魔物がいる。

 強い魔石から生まれた魔物はそのエネルギーを使った強力な力やスキルを持つ。


 魔物を倒せば魔石だけでなく、魔力やスキルを人が引き継げる。

 人類は魔力や魔石を利用し、自分たちの生活を豊かにする技術を見出した。

 魔力を地上で活用することで、始めて悪の想念は浄化され、よりよい世界になるという。これが天高くにあるといわれる天国の導きであり教えだ。


 ダンジョンに入り魔石を持ち帰る職業を冒険者と呼ぶ。彼らは魔物を倒し、魔石を得、それを社会に供給する職業である。

 この世界は既に魔力やそれが凝縮された魔石のエネルギーを用いた技術で成り立っており、既に魔石なしには成り立たない。


 冒険者は重要な社会基盤であり、天国の教えを実現する者だ。

 冒険者にはランクがある。力を得た冒険者はより多くの魔石を持ち帰ることができるため、その力や実績に応じたランクが付けられていく。


 多くの者が冒険者を目指す中、高ランクの冒険者は貴人として扱われ、社会からの尊敬を集める。

 その冒険者を束ねる組織がギルドであり、世界の意思決定にも関わる巨大組織である。

 ギルドは冒険者ランクの決定機関であり、魔石を効率よく収集するための道具や情報を冒険者に提供し、冒険者を育てる学校も運営している。

 これが俺が人生を引き継いだ ”ゲンジ” の知識による ”この世” だ。

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