第123話
「おいお前ら、すぐここから離れるぞ」
玄関の扉を開け、すぐさま皆のいる部屋に入る。
「どうしたの?アクト君。そんなに慌てて」
「ユーリか。二人はどこに行った」
「少しお話しするって外に」
「チッ」
タイミングが悪いな。
「状況は移動しながら説明する。まずはあの二人を探すぞ」
「う、うん」
俺はユーリの手を引くように外に出る。
「あ、あの、手……」
「三大魔獣が出た」
「何?」
ユーリの雰囲気が変わる。
「それは確かなのか」
「この目でしかとみた。あの威圧感。本物に間違いない」
「場所は」
「家の真裏から綺麗に真っ直ぐ十数キロ」
「分かった。アクトはそのまま街に向かって報告しに行ってくれ」
「は?何言ってんだお前」
「それはこっちの台詞だ」
ユーリは俺の手を弾く。
「何もおかしなことは言っていない。私はお父様とお母様を見つけ監視をする。アクトは私の部下と騎士団に状況を伝えてる。こちらの方が効率がいいだろう」
「いやダメだ。お前も、あの二人も連れて行く。これは決定事項だ」
「何を頑なに否定するんだ。私が何かおかしなことを言ったか?」
「……」
分かってる。
確かにユーリの言ってることは正しい。
だが奴の勘は本物だ。
もし街で騒動が起きれば、あいつはまず間違いなく気付く。
そしてそのまま逃げるならそれでいい。
だがもし、仮にあいつが戦闘態勢をとれば
真っ先にユーリは足止めをする。
「やっぱりダメだ。行かせられない」
「アクト……」
そんな悲しそうな顔をしないでくれユーリ。
俺はただ君を
「頼むアクト。三大魔獣の討伐は、人々の願いなんだ」
「…………」
「頼む」
「…………あー!!クソが!!!!」
俺は街に向かって走った。
「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!」
走った。
「大丈夫だ、きっと何も起きない。そうだ、そんなイベント今までなかったじゃないか」
そうだよ。
こんなところでユーリが死ぬなんて話はなかった。
なかった筈だ。
なのに
「何故こんなにも嫌な予感が拭いきれない」
変な汗が流れる。
何か見落としてる気がする。
でもそれが何か分からない。
それでも俺は彼女から離れ続ける。
速く彼女の元に戻るために。
「ルシフェル借りる」
「うむ」
魔力を借り加速する。
緑が現れては消え、現れては消え、次第に木々の数が減って行く。
「着く」
街の輪郭を掴む。
以前俺が門に入ろうとした時に立っていた騎士を発見する。
「おい、報告だ」
「え?アクト?」
「今は許してやる。今すぐ騎士団に報告しろ。三大魔獣が出た。今すぐ全ての部隊をここに集結させておけ」
「あなたにそんな権限はないはずだ。あなたの言葉は信用できない」
今、テメェのようなゴミに構ってる暇ないんだよ。
「いいか!!このままテメェが報告を怠れば死ぬのはお前のだけじゃねぇんだぞ!!その覚悟があんのか!!あぁ!?」
「ひぃ」
騎士の男は全力で走って行った。
「時間がもったいねぇ」
俺は急いでペンドラゴ家に向かう。
昔見たアクション映画のように屋根から屋根へと飛び回る。
道中笑顔で歩いている人間を見ると、平和そうだなと穏やかにキレた。
俺は携帯を開く。
「頼む、出てくれ」
俺は切り
ヒロインを巻き込むことは出来るだけ避けたがったが、彼女がいれば全て杞憂で済む。
「あら、アクトどうしたの?」
「アルス!!頼みがある!!」
「……やられたわ」
「あ?」
何の話だ。
「気を付けて、アクト。多分それは罠」
「待て、一体何の話をしてる」
「ごめんなさい。私は行けない。せっかく初めてアクトが頼ってくれたのに」
申し訳なさそうな声が伝わる。
「電話も切るわ。本当にごめんなさい」
「いや、いいんだ。アルスにも事情があるだろ」
これでいいんだ。
俺が全部解決する。
いつから俺はそうやってヒロインにすぐ頼るようになったのか。
「最後にアクト」
「何だ」
アルスは優しく
「あなたは一人じゃない」
そして電話は切れた。
「……」
何故か同じ言葉がずっと頭でループし続ける。
どうしてだろうか。
思考が全くおぼつかない。
「あーもう!!」
もうすぐ着く。
切り替えろ。
「おい」
ペンドラゴの人間に話しかける。
「これはアクト様、本日はアーサー様もユーリ様もお出掛け中でして」
「三大魔獣が出た。現場にはーー」
「かしこまりました」
まだ二人の名前も出していないにも関わらず、続々とペンドラゴ家の人間が集まってくる。
「アクト様は将来我々が仕えるお方。あなた様のお言葉であれば我々は笑顔でこの身を授けましょう」
普段なら否定してやりたいところだが
「死ぬ気で働けアホ共」
「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」
すぐに俺は門に向かって走った。
準備は迅速に終わった。
問題があるとすればあの騎士が手間取ることだが
「ご安心下さい。騎士団の半数近くは我々ペンドラゴ家の人間です。既に伝達は済んでいます」
「そうか」
ならば問題ない。
これだけの戦力があれば申し分ない。
クマさんに手向けに彼岸花でもプレゼントしてやろう。
「……おい、何か聞こえないか?」
「確かに、地響きに近いですね」
最初はただの勘違いだと思った。
だが、少しずつ、少しずつ大きくなる。
いや、大きくなるというより
「近付いてる」
俺らが進む道
そこから地響きが大きく聞こえてくる。
「おい、俺様を魔法で吹き飛ばせ」
「ですが!!」
「速くしろ!!」
数名が俺に向かって風魔法を放つ。
「ウグッ!!」
背中に激痛を感じるが、どうでもいい。
急加速した俺は一気に距離を縮める。
「ガハっ!!」
内臓がいくつか逝った。
だが問題ない。
俺の体は魔力で補強できる。
「誰だこいつら」
道端に死体が落ちていた。
綺麗に真っ二つになり、地面には同じような切り傷がついていた。
「どうでもいい」
本当にどうでもいい。
今はそんな物を気にしている場合じゃない。
「助けるんだ」
失うことは許されない。
走り続ける。
地面には数メートルはある足音。
途中まで街に向かっていた足音が急に方向が変わる。
それを辿る。
垂れている赤はおそらくさっき落ちていた物からだろう。
気にしてはいけない。
走る。
音は大きくなる。
近い。
また途中で大きな赤を見つけた。
「まさか」
心臓が跳ね上がる。
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか
「しっかりしろ!!」
呼びかける声。
安心する声。
大切な者の声。
意識を集中させる。
まだ決まったわけじゃない。
進む
進む
進み
進め
歩き
止まる
声がする
泣く声だ
何度も聞いた声だ
よかった、やっぱり生きていた
近付く
泣いている少女に近付く
何かを抱えている少女に近付く
ああ、あれがさっきの赤の正体か
納得した俺は少し笑った
共感した俺は笑ってやった
でも、彼女は泣き続ける
彼女には笑ってあげられなかった
それは俺と同じように笑う
満足そうだった
俺もそんな顔がしたいと思った
「すまない、アーサー」
俺も涙を流した。
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