第102話
マンユ
バチン
「……」
マユの話を思い出す。
今、楽しそうに部屋を駆け回っているリアの姿をした存在は、正真正銘の神。
「さて、まずは話し合いだ」
マユは真ではなく俺がこの世界の抑止力と言っていたが、それは勘違いだろう。
確かに転生者という点で俺はこの世界のイレギュラーであることは紛れもない事実。
だが、そんなイレギュラー、この世界の隅からヒロインのつま先まで知り尽くした俺からすれば、物語の中心は真以外ありえない。
今回真はエリカルートに走っている為、本来であれば桜とリア、アルスにリーファは既に死亡しており、ユーリは追放され行方知らず、ソフィアについてはまだ解決すらしていない。
彼女らが本当に、僅かながら俺に好意を向けているが、やはりそれはいい所取りした結果であり、物語は未だに真を中心に回っている。
あぁ、話が大分脱線した。
プラ◯ールの話だっけ?
「悪い」
そう、つまり本来敵になる可能性のあるこいつを、抑止力でない俺如きがどうにか出来る筈がないということが言いたい。
だが、物は試しだ
「少し話をしようか」
「……」
俺の言葉にアンラと名乗った神は動きを止める。
「な、何だ」
俺に近付き、ジロジロと顔を伺う。
そして
「うん!!お話しよう!!アンお話大好き!!」
「そ、そうか」
どうやら話は通じるようだ。
「じゃあ早速だが、お前の」
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだ」
「名前何だっけ、えっと……そう、ザンサ」
リアの中にいた影響か?
「あぁ、ザンサがどうした」
「うん、アンね、そいつのこと」
殺していい?
「……どうしてだ?」
「だってね、リアが可哀想なの。そいつのせいでリアは幸せになれないの。だから」
殺す
「ふむ」
なるほどなるほど
マユの言っていた純粋の意味をここで理解する。
結果
「いいね!!」
俺は気に言った。
「お前の好感度を5上昇させた」
「やったー!!じゃあ今アン何点?」
「5点だ」
「じゃあリアは?」
「絶対無限だ」
「すごーい!!」
キャッキャと盛り上がる二人。
正確には一神と半神半人である。
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼう」
アンは声を掛ける。
「ん?我か?」
マユと同じく見えているようだ。
「お姉ちゃんのお名前は?」
「うむ、我の名前はルシフェルだ」
ゾワ
「ルシフェル」
とてつもない殺気と力の奔流。
咄嗟に俺はルシフェルから魔力を借り、拘束しようとするも、容易に跳ね返される。
そして
「嘘つき!!」
冷静さを取り戻したのか、アンから発せられる神の力は収まる。
「何で嘘つくの!!お姉ちゃんの意地悪!!」
「う、嘘と言われても、我の名前はルシフェルだから……」
「むぅ」
頬を膨らますアン。
よく考えればリアの姿で色んな姿を見てるのラッキーだな。
「写真撮っておいて正解だったな」
携帯を確認する。
「……」
先程の力の行使により、壊れている。
ちなみにこれはソフィアから借り受けたものだ。
「死にたい」
写真のショックと罪悪感により、俺は膝から崩れ落ちる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
ヨシヨシと泣いている俺の頭を撫でるアン。
「クソ!!リアじゃないと分かっていても嬉しい!!」
悲しみと喜びにより情緒がおかしくなる。
「ところでアクト」
「何だルシフェル。俺のご褒美タイムを邪魔するな」
「それはすまんが、それより」
指を差される。
「徐々に感情が露天しやすくなっていないか?」
「あ?何言ってんだ。俺はいつも通り」
待て
「俺様……は」
おかしい。
「口やら態度はふざけていても、我の知る限りアクトがヒロイン以外でそんなに無防備な姿を晒した記憶はないぞ」
「お姉ちゃんとお兄ちゃん賢ーい」
「何をした」
確かに俺は警戒を解いていない。
そう、徐々にこいつに好意的で、そして自分の気持ちが抑えられなくなっていた。
「アンはね、ただいるだけで感情が溢れちゃうんだ」
「随分と面白い能力だな」
「だからアンはね、動物の本能?みたいなのを活性化させるの。だからお兄ちゃんはリアのことが大好きで大好きで仕方ないあまり、アンにまで好意的に見えちゃうんだ」
「なるほど」
これは
「じゃあ、もしリアに敵対するような奴がいれば」
「うん、多分殺しにくるね」
こりゃ確かに神様だな。
「どう?お兄ちゃんアンのこと嫌いになった?」
「ああ勿論だ。今すぐお前をリアの体から追い出したくて仕方なくなった」
「そっか」
でもさ
「アンを殺すのはまだ後にしてよ」
「どうしてだ?」
「もう、忘れたの?最初に言ったでしょ」
殺しに行くんだよ
「アンはね、リアのこと好きだから、神様としてリアを最後に幸せにしたいの」
「そうか」
俺がルシフェルにアイコンタクトを取れば、答えが返ってくる。
「大丈夫だぞ」
お前が言うなら大丈夫だ。
「いいだろう」
それに丁度いい。
「どうせなら、神様の一人や二人連れて行かねぇとな」
◇◆◇◆
「ふざけるな!!」
男は逃げていた。
何から逃げているかと問われれば、全てと答える他ないであろう。
「いたぞ!!」
見つかる
「愚民如きが!!劣等種の分際で誰にそんな口を聞いてる!!」
男は騎士に向かって魔法を放つ。
「グハ!!」
男の魔法は凄まじく、騎士は一瞬でその意識を失う。
「チッ!!温存していても魔力がもう」
男の技術をもってすれば必要最低限で相手を無力化することが可能であった。
だが、それでも底は存在する。
「アッハッハ、姿を現せ」
爆撃が男の真横に落ちる。
「野蛮な奴め、戦いしか脳のない無能の連中どもが」
「その無能に追い詰められてるのはどこのどいつだよ」
男の声は聞こえていない筈だが、先んじて予想した答えが返ってくる。
そして同時に男の真横にまた魔法が落ちる。
「外れた」
「外されたんだろ。追跡頼んだ」
「ああ」
魔力を検知し、それに向かって超遠距離から特大の魔法を放つ。
ペンドラゴの武力と、マーリン家の技術をもって完成する最強の布陣が、男の魔力と逃げ場を徐々に減らしていく。
「くそがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
男は叫ぶ。
「発見」
また見つかる。
「あ?今はペンドラゴの野郎が魔法を放ってるから騎士は……あいつか」
黒尽くめの男が突進してくる。
「死ね!!」
男が魔法を放つ。
「……」
「人形風情が!!」
だが邪神教は止まらない。
「発動」
男に接近した邪神教は肥大化し
「クソがクソがクソが!!」
爆風によって地面を二転三転と転がる男。
「おや、まだ足掻くのですね」
遠隔で邪神教を捜査していた顔の爛れた男は感心する。
「我々邪神教からすれば、死は救済なのですが、まぁいいでしょう。だって」
痛む顔を抑えながら
「いつのもは傲慢なその顔が、絶望した時どのような表情を見せてくれるのでしょう!!」
包帯の下で、ニコニコと笑うのは、邪神教幹部第三席、またの名を
「ペイン」
男は逃げる。
三代貴族に邪神教、この国において最強の戦力を誇る二つが間接的に手を組み男を狙っている。
それを今の今まで生きているのは男の実力故か、それとも
「運がいいだけか」
「誰だ!!」
男の前に一人の人間が現れる。
「お初にお目にかかる、私に名はないが、組織名だけはあってな」
剣を抜く女性
「幸福教より、シウス様から命を受けた」
「はん、シウス如きの部下が俺様に勝てると?」
「いいえ、私の実力では無理でしょう」
すると、丁度上空から爆撃が二人目がけて飛んでくる。
「死ね!!」
男はそれを相殺する。
そして女性の方に飛んでいったそれは
「ふざけるな!!」
軌道が大幅に変わり、男に向かって飛んでくる。
「何だ今の能力は!!」
「運です」
女性は当たり前かのように答える。
「私に当たる筈だった魔法が、運良くあなたに向いた。それだけです」
「そんなことありえない」
普通ではあり得ないこと、だが
「それがあり得るのが、幸福の証拠です」
神の
「ふざけるなぁ!!」
運すらも男にそっぽを向く。
それでも男は逃げる。
必死に、惨めに、恥を捨て、それでも
「やった」
境界線
男は遂に国境を目に入れる。
「ここを越えれば奴らは追って来れない。邪神教は来るだろうが、奴は何故かこの国から離れようとしない」
つまり
「勝ちだ」
男は確信した。
だが、いつだって
「何だ……あれは……」
国境には壁のように立ちはだかる兵の群れ。
「さて、いくら私と言えどもルールは重んじる。しっかりと宣戦布告が向こうに着いてから進軍するんだ」
女帝は楽しそうに
「楽しい戦争の始まりだ」
「どこまで……」
男は絶望した。
何故自分はここまでの仕打ちを受けなければならないのだろうか。
男は自身が他人の感情を知り得ないのを知っていた。
だが、それでも男はそれなりに他人の幸福の形を知っている。
だから金を、地位を、名誉を与えた。
なのに
「何故こんな仕打ちをする、アクト!!」
「分かんないよな、お前には」
「!!!!」
男の前にゆっくりと歩みを寄せるのは、男の息子であり、そして男を追い詰めた存在。
「お前の大好きなアクトちゃんだぜ、ザンサ」
ザンサの顔が歪む。
「何が不満だった」
ザンサは問う。
「俺様は寛大だった。無能なお前にどれだけ手を焼いたと思っている。それをどうしてこんな形で返す。この……ゲスが!!」
「おいおい、ブーメランって知ってるか?子供でも知ってるぜ。投げた言葉が自分に刺さって見てて痛々しいぜ」
アクトは笑う。
小馬鹿に、嘲るように、笑う。
「おっと、答えはお互い様だな。お前も、俺も、下衆でゴミみたいな人間だ」
「……」
「だけど理由は簡単だ」
アクトは謎の決めポーズと共に
「お前は俺を、怒らせた」
ふざけているように見えるが、残念ふざけているのである。
何故なら
「舐めやがって!!」
プライドが高い者程、こういった煽りに弱いからだ
「分かった、潔くお前を殺そう、アクト」
ザンサは満身創痍ではあるが、三代貴族の一人。
残りかすですら、一騎当千を可能にしてしまう。
そして既にルシフェルの力を借りたアクトでは、今のザンサに勝つことは出来ないであろう。
「やれ」
「私、そういう命令口調のアクトさんは嫌いです」
「何故……聖女様がここに……」
「大義名分ですね。国からあなたの捕縛を頼まれているので」
エリカが姿を現す。
「だ、だからどうした!!聖女様の守りは強力だが、俺様を倒すことなど」
「誰がいつ、俺様達がお前の相手をすると?」
ザンサの周りが光の壁に包まれる。
エリカの魔法によるものだ。
「俺様を閉じ込めるだけの結界か。長くは続かないだろう」
ザンサは冷静に分析する。
エリカは既に国の防衛でかなりの魔力を消費しているため、ザンサの読みは正解と言えるだろう。
だが誤りもある。
「よろしかったのですか?」
「何がだ」
「アクトさんは何と言いますか……あまり女性を矢面に立たせないような人かと」
「そうだな」
アクトは一点を見据える。
「時には自分で壁を乗り越えさせるもんだろ」
「どうして嘘をついたんですか?」
「はん、お前の前で一々喋ってられないって意味だよ」
アクトは知っている。
自分の愛した女性はアクトによって壁を越えさせるのではなく
「お久しぶりです」
自身でその壁を壊すのだと。
「お父様」
黒髪の少女は優雅に、そして
「よく見ると不細工ですね」
相変わらずだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます