異端者レベリング(体験版風)

らる鳥

第1話


 第四十九代『異端者』ノア・グロード、此処に活動記録を記す。

 僕が万一、この旅の途中で力尽きた際には、この活動記録を次なる異端者の道標とする為に。


 人類は、猿より進化して今の姿を得た。

 けれどもその進化は自ら成し得た物じゃない。

 人類はその食味を良くする為に、神の手で猿より進化させられたのだ。

 エルフは葱、ダークエルフは牛蒡、ドワーフはジャガイモより創られた。

 獣人は猿以外の獣を進化させたが、どうしても味が良くならなかった為に、神に見捨てられた種族である。


 そう、神は飢えているのだ。

 人は死後、その魂を神に貪り食われてしまう。

 そしてそれを今の人類は受け入れていた。

 とても名誉な事だとして。


 でも僕は嫌だ。

 たちえ死後だとしても、食われたくない。

 世界がそう出来ているのだとしても、僕は食われてなんかやるものか。


 僕より以前にも、同じ事を思った人は居た。

 彼等は神の手を逃れる方法を探し、自らの行動を活動記録に記したのだ。

 そう、僕より以前の異端者達である。

 この活動記録は、神にすら処分出来ない。

 今代の異端者が神の手より逃れるか、或いは志半ばで力尽きた時、次なる異端者へと知識を運ぶ。


 今回は僕の番だった。

 だから、さぁ、この世界からの脱出を開始しよう。




 先ず行うべきは、そして最後まで行うべきは、レベル上げだ。

 レベルが上がればスキルと呼ばれる力にも目覚めて殺され難くなり、更に寿命も延びる。

 そしてレベルを上げ切り、力を極める事は、この世界から脱出する手段の一つでもあった。


 すると当然、神は人にレベル上げを禁じてるだろうと思いきや、実は寧ろ推奨しているのだ。

 理由はたった一つで、レベルを上げた存在はその食味が増すからだろう。

 具体的には、レベル2の人は、レベル1の人の倍も味が良い。

 レベルが3になれば更に倍である。


 故に神はレベルが25を越えた者の魂しか口にせず、それ以下の魂は天使族等、使徒の餌とされるのだ。

 だから敬虔なる者、神の家畜達もある程度まではレベル上げに励む。

 僕もその陰に隠れてレベルを上げて、けれども死なずに逃げ切ろう。



 僕は町、この世界の弱き者が集められる、通称『弱者の町』を出て北に向かい、始まりの平原に足を踏み入れた。

 武器はない。防具もない。

 本当なら、弱者の町では安く武器と防具が売っている。

 レベル上げを支援する為だろう。

 それどころか、教会に頼ればある程度のレベルまでは、神に仕える神官戦士達がパワーレベリング、つまりはレベルアップの手伝いをしてくれもするのだ。


 けれども僕はそれ等には頼らない。

 店で売ってる武器や防具は、最も強い物でも適正レベルが40~50の物までだった。

 必要以上にレベルを上げて、味が良くなるのは良いけれど、死に難くなるのは困るから。

 だから僕の様にレベルを上限まで上げる心算の異端者は、倒した魔物の骸を素材に、自分で武器や防具を作らねばならない。

 であるならば、最初から店売りの武器防具に頼ったり、ましてや神官戦士のパワーレベリングに甘えるのは大間違いだろう。


 僕は両足の靴下を脱いで重ね、その中に一杯の石ころを詰めて即席のブラックジャックを拵える。

 これが僕の最初の武器だ。



 始まりの平原は弱者の町に隣接するだけあって、世界で最も出現する魔物が弱い。

 その顔触れは、突撃兎、穴ネズミ、眠り鳥の三種類。

 このうち眠り鳥は、飛び道具を持たない今の僕には仕留められないので無視とする。

 眠り鳥の側からも、僕が余程弱って力尽き掛けても居ない限りは襲って来ないだろう。


 次に穴ネズミだけど、コイツは穴の下に潜み、近くを通った相手の足に喰らい付いて来るので注意が必要だった。

 でも地面の穴を確認しさえすれば、攻撃を避ける事は難しくない。

 地の振動で敵を感知している為、偽の振動で出て来た所を狙えば、最も楽に狩れる相手だ。


 最後に突撃兎は、額に角の生えた大きな兎で、敵を見付ければ真っ直ぐに突撃を繰り返す。

 攻撃パターンが一種類しかない為、見切り易いといえば見切り易いが、平原の中では最も殺傷力の高い攻撃を繰り出して来る。

 けれどコイツを倒せさえすれば、額の角が手に入り、上手く加工すれば槍を作る事が出来るだろう。


 つまり最初は、穴ネズミを狙ってレベルを上げて、次に突撃兎を倒して角を手に入れるのだ。

 これが始まりの平原ですべき目標となる。

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