第7話 脈打つバベルの塔
ユウ達はマミィを保健室のベッドに寝かせた後、アイは隅っこで固まってた中学生の少年に声をかける。
「ごめんごめん、怖がらせちゃったかな?」
「えっと、あまりに凄すぎてボク途中から何にも言えずに固まっていることしかできなかった……」
「まあ、それは仕方ねえな。マミィ先生、めっちゃ怖かったし」
ベッドの上で気絶しているマミィを見て少年は安心したように一息つく。中学生とはいっても身体はかなり小さくアイよりも身長が低かった。
「そういや、この男の子は麻薬中毒じゃないんだな」
「中学に入ってすぐに身体測定でここに籠っていたからシーさんの餌食にはならなかったのかもね」
おそらく長いことマミィの恐怖に怯えていたのだろう。少し疲れている少年の頭をユウはポンポンと叩く。
「よく頑張ったな、それで童貞はちゃんと守れてるか? えっと……、名前なんだっけ?」
「はい、ボクの名前は夢利槍 姫衣(ムリヤリ ヒイ)って言います。ヒイって呼んでください。ちなみに童貞はバッチリ無事です」
「ああそれはよかったな、じゃあ俺達も自己紹介しなきゃな」
ヒイと名乗った少年と自己紹介を交わすユウ達。自己紹介が終わるとヒイはニコリと笑う。
「お二人ともよろしくお願いします。それにしてもユウ兄の戦いっぷり格好良かったです、尊敬しました!」
「おお、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。アイの頑張りのおかげでもあるけどな」
「えへん、初めての喧嘩で白星スタートなんて才能あるかもね、私」
アイは慎ましい胸を頑張ってはっているが、どうやらヒイの目にはユウしか映っていないようだ。ヒイはユウの腰にギュッと抱きついた。
「なんだかえらくフレンドリーな子なんだな。最近の中学生はこんな感じなのか?」
「……ユウ兄、ボクなんだか胸の奥が苦しくなってきちゃった」
ヒイはその美しい目にハートを浮かべながらユウを見つめて口を開く。
「ボクの童貞、ユウ兄で捨てさせて♡」
「いいんじゃないかな、私は気にしないわよ」
「俺は気にするぜ!? ちょっと一旦ヒイは落ち着いて離れてくれ」
ヒイは名残惜しそうにユウから離れると、ユウは深呼吸してから話し始める。
「もう一度確認させてくれ、ヒイは俺で童貞捨てるって言ったか? 俺は男なんだぞ? 」
「うん、ボクはユウ兄が男の人でも問題ないよ。その証拠にほら♡」
ヒイは一寸の迷いも見せずに自分の履いていた体操着のズボンをずりおろす。そのいきなりの光景にユウ達は呆気に取られた。
「「ええっ!!??」」
魔王に乗っ取られたバベルの塔、一言で表すのであればそんな表現が良いのだろうか。ヒイの股間からは30cmを超える黒々としたチンポがそびえ立っていた。太い血管が心臓のように激しく脈打っている。それを見た二人の感想は……。
「「……でっか」」
そのあまりの威圧感にユウ達は一歩下がる。アイは呆気に取られながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「そ、そうよ。よく考えたらヒイくんはマミィ先生と半年間もこの保健室で互角にやりあっていたんじゃん。ヒイくんは絶対ただ者じゃないはずよ」
「そうなると肉体強化系ってところか。それなら素直でいいと思うんだが、変な条件付きの能力だとマズイな。主に俺の尻がヤバいことになる」
バベルの塔がゆっくりと二人に近づいてくると、背後で窓ガラスが割れる音がする。どうやらシーの配下のゾンビ達がついに保健室に突入してきたようだ。
「ちっ、前門のバベル、後門のゾンビか。面倒だな、なんとかして優しくないものを見つけねえと」
「なに、その蠢いてる気持ち悪い人達。ボクとユウ兄の邪魔をしないでくれないかな?」
ヒイはほっぺたを膨らませながらゾンビ達をゆっくりと指差した。
「「「アアアアアッッーーー!?!?!?」
その瞬間、ゾンビ達は悲鳴を上げながらその場にバタバタと倒れていく。
「へへっ、邪魔者はお仕置きっと」
「なるほど、ヒイは言葉を使わずに遠距離攻撃ができるタイプのようだな、これは厄介だぜ」
ユウが苦虫を噛み潰したかのような表情をしていると今度はシーが保健室のドアを開けてやってくる。彼女は階段を降りて普通に廊下から来たようだ。
「べ、べつに暇つぶしに来たわけではないですわよ、ユウ様が好きだから来てあげただけなんですからね」
「相変わらずシーさんは本音を隠すのが下手よね」
「あら、アイさんもご無事でなによ……り……?」
部屋に入ってきたシーの目の前にはバベルの塔が堂々と建っていた。彼女は首を傾げながらたずねる。
「なんですのその変なオモチャ」
「シーさん、オモチャじゃないですよ。オチンチンですよ!」
「うふふっ、アイさん冗談はおよしになって。ワタクシ、病院で産まれたての赤ちゃんのを見たことがありますけどもっと小さくて可愛かったですわ。そもそも大きさだけじゃなくて形も全然違うじゃないですの」
シーはお嬢様である。彼女は文武両道ではあるものの性的知識はほぼ0であった、女性は清楚であるべし、それが銀河財閥の家訓なのである。
「うーん、なんかまた邪魔が入っちゃった。ついてないなあ」
「シー、危ないから早くここから逃げろっ!」
「その必要はありませんわ、ワタクシの力を持ってすればその少年なんて脳内麻薬で簡単に精神崩壊できますのよ」
シーは楽しそうな笑みを浮かべて指を鳴らす。しかし、しばらくしてもヒイはピンピンしていた。
「……あれ、アナタは何も感じませんの?」
「ボクは別に普通だけど、何かしたのかな?」
「いや、でもワタクシの能力なら男子生徒はどうあがいても麻薬中毒になるはず……」
シーが口に手を当てながら考え込むと、ヒイは可愛らしい笑みで答える。
「そりゃあ効かないよ、だってボクは女だもん」
「「えっ……?」」
「ざんねーん、ボクは女の子でーす。男子生徒用の能力なんか聞きませーん」
ヒイの衝撃発言を受けて、アイは混乱した頭をなんとか落ち着かせながらたずねる。
「じゃあその股間に生えてるのはいったいなんなのよ!?」
「オチンチンだけど?」
「なんでオチンチンが女の子に生えてるのよ!」
「あー、そういうことか」
ヒイは悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべた後、口を開く。
「ボクは頑張った結果、オチンチンを生やすことができるようになったんだよ」
「え、なんでそんなふうになったわけ!?」
ヒイは素直な子供だった。幼稚園の時に彼女の兄と一緒にお風呂に入った時、ヒイは自分の股間にオチンチンがないことに気づく。それについて兄に尋ねると「えへん、いい子にしてれば生えてくるんだぜ!」と回答を得た。そして、ヒイは自分の兄と同じようにオチンチンが股間に生えてくるように努力をする。具体的には兄の部屋のベッドの下にあるエロ本で勉強をしたり、美術館で芸術的オチンチンを堪能したりなどである。そして、彼女のそんなささやかな努力が実り、ヒイは【オチンチンを生やす能力】に目覚めたのである。
「ってことで、ボクはオチンチンを創り出すことができるようになったんだ。いい子にしてたおかげだよね」
「別にいい子とか関係ないと思うけどなあ?」
「違うもん!ボクはいい子だもん、そういうアイ姉はオチンチン生えてるの?」
「いや、ないけど……」
「へへーん、ボクの勝ちー。ボクの方がいい子なんだよ」
嬉しそうに跳びはねたヒイは勝ち誇った笑顔をした後、ユウに声をかける。
「それで、もちろんユウ兄はオチンチン生えてるよね」
「ああ、もちろん生えてるに決まってるだろ?」
「やっぱりね! それで何本生えてるの?」
「……え、一本だが?」
眉を顰めるユウを見て、ヒイは驚いた顔をした後、ニヤリと笑う。
「ふへへっ、じゃあボクの『勝ち』だね」
ヒイがそう言った瞬間、保健室の壁や天井、そして床から大小様々で形が異なったチンチンが勢いよく生えてきたのである。
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