優しいだけの男って魅力ないと幼馴染にフラれたので、優しさを極めて「ざまぁ」します。今さら付き合いたいと言われてももう遅い。

@pepolon

第1話 女は優しい男が好き

「ごめんねー、告白してくれたのは嬉しいけどちょっと無理」

「……え?」

「確かにアンタは自分が困ってる時に助けてくれたりしたから感謝してるけどさ。なんか足りないんだよねー」

「足りないって、いったい何が。俺にできることなら努力するよ!」

「うーん、多分無理かな。だってアンタは優しいだけだし」

「そ、そんな……」


 校舎の裏では男女が一人ずつ、どうやら男子の決死の告白も見事に撃沈してしまったようだ。そこに一人の男がやってくる。


「チイイイイッッッッッスwwwww!! あれえええっ、なにやっちゃってんのおおおっwwwww!? 」

「だ、誰だよ。お前?」

「誰ってwww? そりゃあもうアレだよwww! なあwww?」


 そこに現れたのは金髪の男子生徒。不良のような柄の悪い彼からは、いかにも女性を殴ってますという雰囲気が発せられている。


「あ、紹介するわ。コイツはワタシの彼氏」

「チイイイイッスwwww!! ヨロピクミンwwwwww!!」


 しばらくの静寂の後、告白に失敗した上に残酷な現実を突きつけられた男子生徒は膝からゆっくりと崩れ落ちる。


「うっ、うっ、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!???? 」




ーー そして二ヶ月後



「嫌なことを思い出しちまったな。早くこのモヤモヤにけじめをつけないと」


 ボロボロの学ランを身に纏いながら街中をゆっくりと歩く男子生徒。彼の名前は椎名 優(シイナ ユウ)、数ヶ月前に幼馴染に告白したと思ったら寝取られていた哀れなボーイ(高校2年生)ある。


 彼は重い足をゆっくりと動かしながら住宅街を歩いていると一人の少女が二人組のモヒカン野郎に絡まれているのが目に入る。少女は迷惑そうな顔をしながら叫んだ。


「何度言ったらわかるんですか。新聞はもう間に合っているんです!」

「ヒャッハアアアッッッッ!! そんなことを言いながら新聞受けはガバガバだぜえ!! ほらもう四部も入っちまった」

「アニキィ、コイツは相当の淫乱ですぜ。右も左の思想も関係なしに飲み込んでますぜぇ」

「ちょっと!? 勝手に新聞をドアの中に入れないでください!!」


 どうやら少女は新聞の押し売りにあっているようだ。このままでは彼女の家庭が左右にバラバラになってしまうのは容易に予想できる。ユウは彼らに割って入った。


「おい、そこの二人。その子が困ってるだろ、おとなしく引き返しな」

「ヒャッハアアア!? なんだぁ、てめえ。バイトの応募なら午後五時に店まできてくれないかぁ? 」

「アニキィ、どうやらコイツはバイトの応募じゃないみたいですぜぇ。……じゃあ、なんなんだぜぇ?」


 首を傾げるモヒカンたちの後ろで少女は顔を少し明るくする。彼女はその美しい長い黒髪をなびかせながら語りかけてくる。


「すみません、変なやつに絡まれちゃってるんです。警察をよんでください!」

「どうやらお困りのようだな。それならここはオレに任せてくれ」


 ユウはゆっくりと拳を構えてファイティングポーズを取る。彼の白く傷ひとつない綺麗な拳が学ランから顔を覗かせる。


「ヒャッハアアア!? この俺とやる気か!! いいぜ、やってやるよ!」

「俺は手加減はできないが後悔するんじゃねえぞ……?」

「ヒャッハアアア、別に手加減してくれなくていいぜ! 戦うのはオレ様じゃなくて相棒だからな!」

「あ、アニキィ!? 」


 少し驚いた顔をしながらもモヒカン二人組の内、弟分が拳を強く握りしめながら前に歩みよる。


「こう見えてオイラは全世界新聞販売業者No 1のボクサーだぜぇ。そんじょそこらのガキがオイラに勝てるわけないぜぇ」

「勝てるさ……、なぜなら俺は優しい男だからだ!!」


ドゴオオオオオオオオオオ!!!


 その瞬間、ユウの右ストレートがモヒカン弟の顔面をぶち抜いて十メートルほどぶっ飛ばす。当然、モヒカン弟はノックアウト、ワンラウンドで勝負がついた。その衝撃の光景に少女はポカンと口を開ける。


「……あなたって、そんなに強い人だったの?」

「強くはないさ、ただ優しいだけだよ。俺は女の子に優しい男だから、女の子に迷惑をかける優しくないやつには負けないのさ」

「ヒャッハアアア!? それにしてもありえねえ強さだぞぉ、何かトリックがあるんだろ!? 」


 弟が吹き飛ばされたことに動揺しながらモヒカン兄はユウを震える指でさししめす。


「……修行した。山籠りだ」

「修行だと!?」

「ああ、期間は夏休みの1ヶ月半」

「ま、まさか、夏休みをまるごと……。そんなのメチャクチャ辛かっただろうが!?」

「……ああ、とても辛かった。あまりの辛さに心が折れそうになったが、週5で家に帰ることでなんとか持ち堪えることができたぜ」

「それ、ただのキャンプじゃない?」


 少女は不思議そうな顔をしている、どうやら女性にはこの修行の辛さはわからないのだろう。しかし、ユウはこの辛い修行により世界最強の優しい男へと辿り着くことができたのである!


「ヒャッハアアア!! 辛い修行はご苦労様だが、オレ様は倒せねえぜ。なあ少年、【ペンは剣より強し】って言葉は知ってるか?」

「ああ、有名な言葉だな」


 そうしてニヤリと笑ったモヒカン兄は懐から巨大なチェーソーを取り出した。


「ペンどこいったの!?」

「ヒャッハアアア!! メスガキはまだ理解してないようだなぁ。このチェーソーで木を伐採して紙が作られる、その紙にペンが命を吹き込んで新聞が生まれる。すなわち、チェーソーこそが全ての新聞の根源。剣より強いペンよりも強い存在、それがチェーソーってわけだ!」


 誇り高くチェーソーを掲げるモヒカン兄。チェーソーからは幾多もの大木を恐怖に陥れる叫び声が響き渡っている。


「そこのアナタ、流石にこれは危険よ。早く逃げて!!」

「大丈夫だ、俺は優しい男だからな。少なくとも優しくないやつには絶対に負けない」

「ヒャッハアアア!! その自信ごと叩き切ってくれるぜえええっ!!」


 モヒカン兄が勢いよくユウにチェーソーを振り下ろす。普通の人間では一刀両断のグロ画像間違いなしである。だが、ユウは違った。


「ヒャッハアアア!? ば、バカな、チェーソーを素手で受け止めただとおおっ!?」

「そのチェーソー全く優しくないな。それじゃあ優しい俺は倒せないぜ」

「ヒャッハアアア!? 優しいとか優しくないとかわけわからねえこと言ってじゃねえぞ!」

「ならわかりやすく教えてやるよ。俺は環境に優しい男だ、森林伐採をする環境に優しくないチェーソーの攻撃は通らねえ」

「ヒャッハアアア!? なにいいいいっ!?」


 ユウは優しい男である、彼は山籠りの最中に不良の火遊びによって焼け野原となった場所を発見した。ユウはその優しさをもってその原っぱに緑を取り戻す。具体的にはミントの種を辺りに撒き散らしたのだ。ミントの強い繁殖力によって緑が取り戻されたのと同時にユウは【環境に優しい男】としてミント神の加護が宿ったのである。


「さあ、そして俺は女の子に優しい男でもある。女の子に迷惑をかける悪人はぶっ飛ばす!」

「ヒャッハアアア!? ぐはあああっ!?」


 ユウはチェーソーを粉々に砕きながらモヒカン兄の腹にパンチをぶち込む。優しい男であるユウの怒りの拳を受けたモヒカン兄の全身の骨は粉砕され、クラゲのようにフニャフニャになりながら崩れ落ちる。


「ちょっと、これは流石にやりすぎっ……。モヒカンさん死んじゃってないよね?」

「心配するな、あらゆる骨を粉末状に破壊しただけで命は奪ってない。コイツも生きてればきっといいことあるさ」

「やばっ、早く救急車をよばないと!」

「その必要はない、俺は優しい男だからな」


 ユウは心配そうな顔をする少女に向かってウインクをすると、左手をモヒカン兄の胸元にそっと当てる。するとなんということだろうか、モヒカン兄の骨は元通りになり傷ひとつ残っていない綺麗な身体になったのだ。


「ヒャッハアアア! どうしてオレ様の身体が元に戻ったんだ?」

「俺は悪人にも優しい男なんだ。俺の左手はどんな悪人でも復活させることができる能力がある」

「優しいの定義が行方不明になりつつある気がする」


 ユウは優しい男である、彼は山籠りの最中落ちていたキノコを食べて生死の境を彷徨い、遂には地獄に辿り着いてしまう。そこでは多くの人々が苦しんでいたが、ユウはその優しさを持って彼らを救い出した。具体的には大量の蜘蛛を育成し極楽へと糸を張らせる。そして一人一人順番に昇らせることで無事に全員を助けることができたのと同時にユウには【悪人にも優しい男】として地獄の囚人達の加護が宿ったのである。


 こうして見事、モヒカン兄弟を倒したユウに向かって少女はペコリとお辞儀をする。


「えっと、いろいろあったけどとりあえず感謝します。もしよかったらお名前を聞いてもいいかな」

「ああ、俺の名前は椎名優(シイナ ユウ)だ」

「なるほど椎名さんですね、よろしくお願いします」

「固いなあ、ユウって呼んでくれていいよ」

「いきなり下の名前はちょっと恥ずかしいかも……」

「日本人はみんな恥ずかしがり屋だな、外国の人達は初対面からユウって呼んでくれるぜ」

「それはyouでは……? まあ、それはともかく今度は私の紹介ですね。私は女神愛(めがみ あい)です、ちょっと変わった苗字なのでみんなからはアイと呼ばれてます」

「I か、国際的な名前だな」

「ユウさんほどではないですけどね」


 少女はクスリと笑うと彼女の白く美しい肌が日の光に照らされる。見た目的にはユウと同じ高校生のように見える。


「ユウさんはこの辺りの学校に通ってるのですか? あまり見かけたことがない気がします」

「ああ、ある事情でショックを受けてな。学校を変えることになったんだ、夏休み明けから通うことになったんでその下見に来た。確か、フレンドリー学園だったかな」

「あ、それ私と同じ学校です! もしかしたら同じクラスになるかもしれませんね!」


 アイは嬉しそうにしながらも、ユウのショックの原因が気になっているようだった。しかし、彼女は空気を読んで抱いていた疑問を飲み込んだ。


「うん、その時はよろしく頼むな」

「それにしても二人とも同じ学年なんて偶然って重なるもんですね」

「もしかしたら運命ってやつなのかもしれないな」

「……真顔で恥ずかしい事言うんですね」


 少し恥ずかしそうに顔を赤らめるアイ。それとは対照的にユウは新しい学園生活のことで頭がいっぱいのようであった。


「ヒャッハアアアアア!! 二人ともオレ様のことを忘れてないか!? メチャクチャ気まずいんだがぁ! 」

「すみません、新聞はいらないのでモヒカンさんはお帰りください」

「ヒャッハアアア!! しつこい勧誘は嫌われるからなあ、今日はこれくらいにしてやるぜ」


 モヒカン兄は弟を引きずりながらその場を立ち去ろうとすると、急に動きが止まる。彼の目の前にはスーツにメガネの四十台くらいの男性が背筋を伸ばして立っていた。


「現在時刻、十四時四十八分。十五時のティータイムまでに新規契約五件のノルマは達成できたか? 」

「ヒャッハアアア!? しゃ、社長!? お、お許しください!? 」

「何を謝っている? まだ納期まで十一分ある、契約を取る相手なら目の前にいるではないか」


 社長と呼ばれた男はユウ達を見ながらメガネにゆっくりと指を当てた。


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