学生トーク「私だけのヒーロー編」

山田 武

学生トーク「私だけのヒーロー編」



「私だけのヒーロー……そう、それは──」


「それは?」


「……、…………。何だろうか?」


「俺が知るか」


 それでも話を絶対に終えない友人のため、とりあえずスマホを操作。

 適当に『ヒーロー』と入力し、会話の種を拾っておく。


「とりあえず、優秀なヤツをヒーローと呼ぶわけだ。ついでに創作物における男主人公も大抵はヒーローだな。ヒロインがその逆か、と言われると微妙だが」


「ヒロインはいいんだよ、私だけのヒーローなんだ」


「……というかなぜ『私』? そこは『俺』じゃダメだったの?」


「こ、細かいことばっかりツッコむなよ。まあアレだな、女性の憧れっぽい感じ」


 話を逸らしてくる友人を掻い潜り、どうにか話題を元に戻す。

 私だけのヒーロー、妙に頭に残ったその単語について話し合う。


「私だけのヒーロー、お前の言う英雄的存在が自分を百パーセント肯定してくれるんだから、ヒロイン役の女性は憧れるわな」


「……俺的に全肯定野郎とか、正直引かれる気がしないでもないんだが」


「そこはまあ夢補正ってことで。そもそも、自分で望んでいるんだから、理想的な存在が居たら歓迎しても拒否はしないだろ」


 私だけ、強調する言葉の意味。

 強く憧れを抱く者だからこそ、男側からすれば少々唖然とするような展開であろうと、女性側は受け入れるであろう。


 それこそを望んでいるのだから。

 私だけのヒーロー、それは女性の抱く願望の体現という意味もあるのだ。


「まあ、ただ一つ言えるのは……」


「言えるのは?」


「そんな全肯定マン、存在しないか絶滅危惧種ってことだな」


 女性側に理想があるように、男側にも望むものがある。

 お互いに理想を持つならば……全肯定は、極めて難しいはずだ。


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