第12話 夏希は恋人の葵に振られてお別れする

 夏希は退魔師を始めるための講習と訓練が終わった事で、避けて通れない問題にやっと向き合う事にした。

まずは恋人の葵との別れ話である。

想像するだけで胸が痛い。


そして学校生活も不安でいっぱいだった。

姉の美咲が言うには、今まで仲良くしていた男子のグループとは仲良くしないほうがいいらしい。

夏希が仲良くしていたグループに女子人気が高い人物が何人かいるとの事で、女子の嫉妬をかうかもしれないとの事。

夏希は女子の怖さの片鱗を知った。


 最悪、学校ではひとりぼっちになりそうだと覚悟してため息を一つつく。

そして紺色のブレザーに紺色のチェックのスカートという、ありふれたデザインの辰江中学校の女子の制服に袖を通した。

こんな憂鬱な雰囲気を出している妹にもお姉ちゃんはいつも通りに接してくる。


「夏希、豆乳と美容体操まだでしょ。一緒にやろう。」


 豆乳を飲んで美容体操を終えて、

いつもより早めに出た夏希は学校の職員室に向かい

ノックをして扉を開けた。


「長谷川先生はいらっしゃいますか。」


呼びかけて出て来てくれた、女性で担任の長谷川先生に頭を下げる夏希。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。今日は

よろしくお願いします。」


「いえ、いいのよ竜ヶ崎さん。

本当に女の子なのね。こんな事があるなんて思わなかったわ。」


「そうですね、自分でもビックリしました。

でも気持ちを切り替えて頑張ります。」


 無難な返事をした夏希は、長谷川先生と教室に向かった。


(本当に気持ちを切り替えていくしかないし。)


 教室の扉を開けて長谷川先生だけ先に入り朝のホームルームが始まる。


「おはようございます。みんなの中にはもう聞いている人もいるかもしれません。

竜ヶ崎さんが退院して今日から登校していますが、教室に入ってもらう前にお話しする事があります。

竜ヶ崎さんは体が男の子に見えていましたが、

実は女の子でした。

これは仮性半陰陽という大変珍しい症状で、成長期になって始めてわかったそうです。

いきなり女の子として生きていかなくてはならないのは想像以上に大変だと思います。

みんな、竜ヶ崎さんが困っていたら助けてあげてください。

竜ヶ崎さん入って来て!」


教室中が夏希を見ている。

夏希は居心地の悪さを感じながらも挨拶をする。


「おはようございます、竜ヶ崎です。

自分でも驚いたんですが、俺は女の子だったみたいです。できる限り迷惑をかけないように頑張りますのでよろしくお願いします。」


 クラスがざわめきに包まれる。

ウソ、ホントに? 今の女の子の声だった。 胸も少し膨らんでいるような。 こんな急にかわるモンなのか? など。

そういった声を長谷川先生がさえぎった。


「みんな静かにして。竜ヶ崎さん、席に着いて。

授業を始めます。」


席に向かう途中、夏希は葵と目が合った。

目を合わせたまま少し頭を下げる。

休んでいた事で授業内容が飛んでしまっている。


(休んでた分の授業内容をお姉ちゃんに聞いておけばよかった。自分でできるかなぁ。)


 1限目が終わり、周りにクラスメイトが群がる。

ホントに女の子なんだ。とか

余り変わってないな、女装じゃないのか。とか

おっぱい触ってもいい?とか

全てに、返事をするのは大変だった。おっぱいは触るな。


 でも今はまだ美人というほどではない夏希は4限が終わる頃には解放された。ため息が出る。

お昼ご飯が終わったら葵に話しかけよう、と思っていた夏希だった。

そこに逆に葵と葵の友達の橘 佳奈美が近づいてくる。


「夏希くん、ここいいかな。」


「うん、俺も葵と話しをしなきゃって思っていたから。」


葵と佳奈美が空いていた席に座る。


「大変だったね?」


「うん、大変だった。だけど俺から告白して付き合ってもらったのに本当にごめん。」


(やっぱり夏希くんは別れる前提なんだね。)


 葵は悲しげに目を伏せた。

その時、佳奈美が口を挟んだ。


「竜ヶ崎、それを言うのは違うんじゃない?

竜ヶ崎が女の子だったのはそれはしょうがないけどさ、葵がどうしたいかのほうが大事なんじゃないの?」


夏希は言われてその通りだと思った。


「ごめん。橘さんの言う通りだ。俺が決めてるみたいで凄く失礼な事をした。」


「夏希くん別にいいよ。佳奈美ちゃんもいいの。

夏希くんが本当に女の子なら、私も無理だと思っていたから。

中学生で同性愛とか親にも説明出来ないし。」


「葵がいいならいいんだけどさ。」


「じゃあ夏希くん、これからはクラスメイトととしてよろしくね。」


「うん、クラスメイトとしてよろしく。」


こうして夏希は失恋したのだった。

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