第10話 夏希の危険な実戦訓練

 魔法少女の3人が遊ぶ約束をしたところで

席を外していた宮園梅子が戻ってきた。


「「「お疲れ様です。」」」


「お疲れ様。これから実戦に向かいたいと思います。3人が揃っていないと危険です。誰かひとりでも来れない場合は別の人間を手配します。みんな、都合はどうかしら?」


「大丈夫です。」

「任せてください。」

「もちろん行けます。」


 三者三様の返事を返した魔法少女達に頷いて梅子が説明を始める。


「距離があるので私が車を出します。

強敵である騎士を含めた大量の妖魔が現れる予言が出ているわ。そのつもりでお願いね。」


 そう伝えながら梅子が新品のスマホを取り出して夏希に箱ごと手渡す。


「特殊な合金で作られたとても頑丈なスマホよ。

他の性能は市販の最新型の物と変わらないけど、

予言課からの妖魔出現予測を表示するアプリの

【オラクル】がインストールされているわ。

渡しておくわね。」


夏希はスマホを手に取り質問する。


「【オラクル】ですか?

どんなアプリですか?」


「退魔師の活動をサポートするアプリよ。

初期設定では自分の住んでいる場所を中心に、設定を変更すればそれ以外の場所でも1週間分の妖魔の出現予測を確認できます。

他に重要な機能としては、出現した妖魔の討伐予定を登録して他の退魔師と討伐行動が被らないようにしてくれるわ。」


「討伐行動が被ると、トラブルになるんですか?」


「そうね、一定期間で全く討伐がなければランクの降格もあるので、討伐の横入りはマナー違反とされているの。

マナー違反を繰り返す人は、妖魔との戦闘でピンチになって救援要請を出しても見捨てられたりすることもあるわ。」


「怖いですね。周りの人たちと仲良くやっていけるように気をつけます。」


4人は地下の駐車場に向かった。

白のセダンに乗り込んでシートベルトを締める。

夏希は初めての実戦が迫り緊張してきた。

 20分ほどで現地に到着して車から出る。

そこは達也に初めて会った場所で、何かの記念碑がある場所の近くだった。

キョロキョロしている夏希に梅子が注意点を説明する。


「今回は魔法少女の姿のままこちらに来てもらっているけど、

夏希ちゃんがひとりで行動する時は現地に到着してから人払いの魔術を使い、

その後で魔法少女になって妖魔を待つのが基本です。

妖魔が現れてからの変身だと、不意打ちを受けて危険な状況になってしまう恐れがあるので、そこは徹底してください。」


「変身の件、了解です。

ところで人払いの魔術というのはどんなものですか。どうやって使えばいいですか?」


「簡単な魔術よ。今回は沙雪ちゃんに使ってもらうわ。

人払いは一般の人を遠ざける効果があるので、

妖魔との戦いに一般人を巻き込まないために必ず使います。人払いが効きにくい人もいるけどそこは仕方ないので、手早く妖魔を倒して撤収ね。」


「わかりました。先輩、お手本をよろしくお願いします」


梅子の前で沙雪のことをスノーウィーマウンテンと呼んでいいものかわからなかったので夏希は日和って先輩呼びをした。


「先輩……?えへへっ私に任せて、サンダーストーム。」


 どうやら沙雪は先輩呼びがお気に召したようだった。


「人払いの術は、近寄ってきて欲しくない場所を、魔力の壁で覆う感じよ。普通の人には魔力ははっきりとは感じられないけど、無意識に避けようとするみたい。警告する気持ちを乗せれば効果が高まるらしいわ。」


 てやっ、と沙雪が術をかける。

記念碑があるだけで余り人通りがない地域だが、万が一があり得るのでとっても気合いを込めている。


「出現予測時間まであと2分。各自戦闘準備。」


 梅子の号令で周囲を警戒する3人。

梅子も念のため、戦闘に備えて130cm程の棒状の武器を準備する。

まず現れたのは50体はいるだろう欠片の獣だ。


「いきなり大量に来たわね。

私は向こうとこっちを殲滅するわ。

サンダーストームはそっちを、

光はあっちをお願いね。

いくわ!雪の中に閉ざされよ。凍原こおりがはら。」


 沙雪が範囲攻撃で欠片の獣を凍らせる。

続けて夏希とひかりも攻撃を放つ。


「魔を滅ぼすため廻れ、めぐりいかずち。」


朝露あさつゆのようにこぼれ落ちよ、滴雫したたりのしずく。」


 ひかりは敵の魔力や生命力といったものをも吸い上げ、露のように滴り落とすことができる。

弱い妖魔は朝露の魔法少女の敵ではなかった。

 夏希は朝露の魔法少女の力が攻撃的なものと思えず、ひかりを手伝うべきかと思っていた。

しかし3人の魔法少女たちの攻撃で、欠片の獣達は1体残らず消し飛んだ。


(ひかりちゃんがどうやって攻撃したのかわからないけど、ベテラン魔法少女だけあって強い。


 ひかりの能力を見誤っていた事を夏希は恥じた。

だがまだ終わりではない。

梅子から再度指示が飛ぶ。


「続いて妖獣と妖魔兵が来る。騎士も間もなく出現すると予測されているから、手早く倒してね。」


「「「はいっ」」」


 空間に猫科の大型の肉食獣のような姿をした妖魔が9体現れる。魔法少女達は即座に攻撃に移る。


「凍原。」「廻雷。」「滴雫。」


 夏希が攻撃した3体のうち、1体が生き残る。

生き残った妖獣が素早く夏希に近寄り攻撃する

夏希は必死に躱した。冷や汗がでる。

妖獣が逆の腕で攻撃してくる。

今度は躱せない、反射的に目を瞑ってしまう。

しかし予想に反して衝撃はなかった。目を開けると妖獣の攻撃が当たったにも関わらず、吹き飛びもせず、傷もついていない。


(魔法少女の衣装が着る結界だからかな?全然効いていない。)


「夏希ちゃん、攻撃を!」


 ひかりから攻撃の指示が出て、3回分の魔力を込めた雷で攻撃する夏希。

2回目の攻撃を受けた妖獣はそのまま消えていった。しかしその間に、異なるシルエットの3体の人型妖魔が出てくる。

 相性が悪ければ上位の退魔師も苦戦する事がある、強敵の妖魔兵達が目の前に現れた。



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