つぶやきヒーロー

はちこ

第1話

 私はマリコ。パートタイムで働いてる。私の職場は圧倒的に女性が多い。本当にいろいろなタイプの女性が生息している。この女だらけのジャングルを生き抜くため、私は頭の中に、「つぶやきヒーロー」を誕生させた。

 

 ある日のランチタイム。リア充アピールが副業の、マツナガさんが話し始めた。


「私ぃ、次の長期休みは夫と、私の母と3人で海外旅行なの。でもぉ、結局、私は通訳兼、ガイドなんだけどねぇ。」


 これは、マツナガさんの定番、海外旅行自慢。マツナガさんは英語が堪能で、お客様が外国籍の時など、社員さんから呼ばれて対応することも多々ある。そのせいで、私は他のパートとは違うの、という空気を出すので、私は嫌いだ。


 「えー、ステキ!!!」

 

 ここですかさず反応するのが、ヨイショ隊の一人でもある、タカギさん。マツナガさんとは同じシフトで仕事をすることが多く、歳も近いため、よくつるんでいる。とにかく、タカギさんのヨイショは職人技だ。ベストなタイミングとベストなワードでマツナガさんの承認欲求をしっかりと満たすのだ。


 「いいなぁ、海外旅行。マツナガさん、英語が堪能だから海外旅行なんて国内旅行みたいなものでしょ。ほんと、うらやましい。私なんて子どもがまだ小さくて、海外どころか、旅行だって夢のまた夢だわぁ~。」


 とはいえ、タカギさんもただただ、ヨイショしているだけではない。先ほどの言葉をよく、見てみよう…


「私なんて、子どもがまだ小さくて」


 そう、これはタカギさんのせめてもの反撃なのだ。マツナガさんは、子どもを持たないと決めている。それに対して、タカギさんの話題の大半が子どもの話。ヨイショしつつ、タカギさんが唯一、マツナガさんにマウントがとれる話題を挟みこむのだ。

それを聞いたところで、マツナガさんはきっとなんとも思ってないだろうが。


 職場に休憩室は一つ。でも、そこに集う人の境遇は様々。なのに、この二人はそんなことはお構いなしに、自分の話ばかり。そもそも、ランチタイムぐらい静かに過ごしたい。もともと、この二人は勤務中もおしゃべりに興じている。みな大人だから見て見ぬふりをしつつ、二人の仕事をフォローしている。私はまだ働き始めて間もない上、二人のほうが先輩にあたるため、何も言えない。何も言えないまま、ストレスを溜め続けていた頃、とうとう、私の頭の中につぶやきヒーローが現れた!


『おい、マツナガ、お前のプライベートに、誰ひとり興味ねーから。うるさい、黙って、この部屋から出ろ!』

『それに、タカギ。お前もだ。そもそも思ってもないこと、言ってんじゃねーよ。嘘が、バレバレだわ。』


 と、このように、どうしたって私が言えないセリフを、脳内で叫びだすヒーロー。妄想の産物だ。この口の悪いつぶやきヒーローが私を救う。女性だらけの職場はストレスが溜まる。このヒーローには、私の代わりに思いっきり本音を吐き出してもらうのだ。


 ただ、そんな私が一つだけ恐れていることがある。それは、いつかつぶやきヒーローじゃなく、私自身が思いっきり本音を叫ぶのではないかと…

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