伯爵令嬢は理想を思い描きたい
幼い頃に一回だけ、これぞ理想的な貴族の女の子にあった事を覚えている。
親戚のお茶会にお呼ばれしたときの事だった。
おばさまとおにいの隣で、怯えながらもティーカップを手に取り紅茶を嗜んでいた少女の姿が目に焼き付いている。
金色にも銀にも見えるさらさらのロングヘアに、きらきらした青い瞳、真っ白い肌にまるでお人形のような子だった。
その当時のあたしは、標準的な体型の子供だった。これは母の言いつけを守ってご飯を食べていたから。
この頃から周りの人々の感心はかわいい妹ばかりだったので、いつの間にか美人を羨むようになっていた。
けれど、この時は別の気持ちが沸いてきていた。憧れとか、尊敬とかその類いだった。
(ほんとにお人形さんみたい。あんな女の子になりたいなあ)
と本気で思ってた。
後で母親から、その子が親戚が引き取った子だ、とか色々聞いた。
それから、女の子とは何年も会うことはなかったけど、意外な形で再会をすることになる。
「……あなた、クオーレ伯爵令嬢、ステファニア様ね」
「…?!何で…分かるの?」
まさか、入れ替わったあたしを一発で見抜くとは思わなかった。それも、幼い頃に一回見ただけだったのに。
泣くかと思ったし、後から思い出してちょっと泣いた。
お陰で元に戻れたし、新しい交遊関係が出来た。エリーゼには感謝してる。
……なんだけども。
まさか、成長したらきらきらなお嬢様が地味な感じになっているとは…思わなかったな、本当に。
お節介とは思うけど、何事?だと思う。
……フェリ様程じゃなくても社交界の花みたいな、豪奢なドレスを着て、ふんわりとお化粧をして…それこそ妹のサーシャみたいになってると思ってた。
社交場で話を聞かない辺りで、なんとなく察せれば良かった。
「人って、わからないなあ…」
「ちょっとおねえ!朝から陰気臭い空気を出さないでくれる?」
ばーん、と赤髪を靡かせた生意気な妹がリビングに現れた。…今日は機嫌が悪そうだわ。
「……ふーん。まだダイエットしてんだ」
「サーシャには関係ないでしょ」
ちらりとあたしの朝食を見て、つまんなそうにしている。
ちなみに今日の朝ごはんは、野菜と果物のスムージー(というそうだ)
それを飲み干すと、ふうと息をついた。
己がかわいいと公言する妹は、実際可愛いと思う。今日も何処かに外出するのか、朝からしっかり着替えて身だしなみをきっちりしている。
ほんと、どこでも気を抜かない所はスゴいよ、うちの妹は…
「まあ、おねえも思い知ったんじゃない?女は見た目が大事だって」
前までは、そう思ってた。でもね、フェリ様と出会ってから、価値観が崩れてきていた。
だって王子は女嫌いの男好きだったし、フェリ様はとんでも感覚を持った御方。
なんだけど……バランスを取ってやっている。
その一方で、女性から憧れる存在のソフィー様が、婚約破棄をされそうになっているし。人間は見た目だけではない、って思いはじめたの。
だから、あたしは首を横に振って否定をした。
「あたしは自分を変えたくてダイエットしてるの」
「…ふーん」
サーシャは珍しくあまり突っ込んで聞いて来なかった。
あたしは空になったグラスをキッチンへ片付けると、それから自分の部屋に戻った。
部屋の中は、落ち着いた色合いの家具が並んでいる。……今までピンク一色だったんだけどね、入れ替わり後に家具を買い換えました。
それまでも、フリルやレースとかが好きだったんだけども、子供っぽいなと気付いて恥ずかしくなった。
お気に入りのものは残ってるけど、古くなったものは大人っぽいものにしてもらった。
「アルマー、今忙しい?」
「何でしょうか、ステファニアお嬢様」
丁度部屋の掃除をしてくれている侍女の少女、アルマがあたしに気付いて返事を返してくれた。
彼女は、幼い頃から仕えてくれている友達のような侍女。
「今日ね、お出掛けしたいから準備を手伝ってほしいんだけど、ダメ?」
「お嬢様…!すっかり元気になられて、アルマは嬉しいです」
彼女は入れ替わった時、引きこもったあたし(の体のフェリ様)を一番心配していたんだって、戻ってから聞いた。
……本当に、あの時は浮かれてはっちゃけてしまってごめんなさい。さっさと連絡しとけばアルマに心配をかけずにすんだんだよね…。
事情は話してないけど、変わらず接してくれて密かに感謝しています。
「髪をまきましょうか?それともメイクを」
「た、只のお散歩だって!普通でいいの!」
「そうですか、残念……」
アルマはしゅーんと凹んでしまった。
……彼女はあたしがダイエットをし出して一番に喜んでくれて、最近は「お嬢様を可愛くさせてみせる」と頑張ってくれていて……その気持ちは嬉しいけど、申し訳なく思ったりする。
「お嬢様!お付きはいいのですか?」
「…いざとなったら、これ使うから平気よ」
赤い髪をはらって、宝石のついた耳飾りを見せる。父から護身用に持たされている、補助用の魔道具。〈転移〉が込められている。
ステファニアは散歩に行ってきます、と言って屋敷を出て……王城近くの植物園に足を運んでみた。
何となく、気になることがあったのだ。
少し奥に進んで……草木の臭いと澄んだ空気を吸い込んでから、テラスに頬杖を付いている黒髪の少年に声を掛けた。
「こんにちは、ルカ」
「あんた……何しにきてんの?」
「ダイエットがてら散歩ですけど」
さらっと返すと、「なんだよ、その意味わからない言い訳は…」と、ルカは怪訝そうにぼやく。
「少し気になったの。エリーゼがフェリ様を咄嗟に庇って、倒れたんでしょ?
あの娘、元気になったかなって」
そう呟くと、ルカは目を丸くしていた。
あたしが彼女を気にするのが意外だったのかもね。
「どっから聞いたの、それ」
「おにい」
おにいこと従兄とは、先日学校に向かう用事の時にフェリ様の話と一緒に聞いた。相変わらずの仏頂面しながら話してて、心配してんのかどうでもいいのか、本当に分からなかった。おにいは…感情が読みにくい。
「そ。……ついでにおたくの従兄に聞けばいいんじゃないの?」
「あー、はは。…余計な話はしてくれない人なのよね」
基本的に家族やあたしたち一家には普通なんだけど、この前冷え切った視線を送ってた相手だし……。
なんというか、聞きづらかった。
義妹を家に送ってやったと言ってたが、ぞんざいにしてないか不安だったりする。
「僕も知らないよ。てか、暫くここには来てないし」
つーん、としたままのルカ。何となく元気がないような気がする。
あたしは笑いながら、向かいの椅子に座った。
「ふーん、そっか。心配ね」
「ちょっとあんた。なに椅子に座ってるのさ」
「少し休憩していってもいいじゃん。あたしが話し相手じゃ、不満?」
「……分かったよ。お茶飲んだら帰れよな!」
がたっ!と音を立てて立ち上がったルカは、ぶつぶつといいながら奥に引っ込んでいった。
ルカの最初の印象は最悪だった。
王子の部屋に入ってすぐに、あの挑発だもん。なんだこいつと思ってた。
けれどこの前に話をしてみたら、ちょっと口の悪い年下くらいに思えるようになった。
毒気が抜かれた、って言ったらいいのかな。
「……たくっ。あっちのお嬢様もだけど、あんたも大概…警戒心とか、そう言うの薄いよね」
「んー。そう……なの?」
ティーセットを持ってきたルカは、思っていたよりも丁寧な手付きであたしと自分の分を注いでいる。
フェリ様みたいな侯爵令嬢!ならともかくね、あたしみたいな平凡令嬢を何かしてもあっちにメリットないと思うのよね。
「うん、馬鹿かな?体目当ての場合があるでしょ」
あー、そっか。昔は己のマシュマロボディで何とか出来たし…そう言う目で見られたこともないし、考えた事がなかったよ。
んー、そうね。もしそうなったら……
「じゃあ、魔法使うから大丈夫よ!」
「あんた魔法使えるの!?」
なんて失礼な。
学校に通ってた時は、魔法学を専攻していたんですから。その恩師がジョヴァンニ先生。あたしには浮遊魔法の適正があったみたいで、メキメキ上達していった。
魔法が上手くなったらなったで、浮遊魔法を使いすぎて運動しなくなって、あたしのぽっちゃり化が加速したんだけどさ…。
「……へー、ベルの娘ねぇ」
ルカは自分で納得してるのか、うんうんと頷いている。意味がわからない。
あたしはお茶を一口飲む。少し落ち着いてから、問い掛ける。
「……何の話してんの?」
「こっちの話」
つーん、とそっぽを向かれた。
王子とも隠れ姫ともそうなんだけど、ご主人と他の人で態度が違うんだよね、コイツ……。
好かれてるとは思ってないけどさ。
「そういえばさ、ルカは何でエリーゼの従者になったの?」
「王子と彼の周りで決めたんだって。植物園で手伝いをしながら、彼女が滞在中は世話をしろって」
「それは逆らえないね」
「僕を外に放り出すよりも、ここで隔離した方がマシだと思ったんじゃないの。悪魔は神聖な空気が駄目だから」
悪魔という台詞に、あたしがびびってしまった。一応、家系に関わる言葉だから。
「ここの奥には、世界に数本ある世界樹の1つが安置されててさ。〈混沌〉の性質を持つ悪魔は、〈神聖〉の性質を帯びたマナのせいで動きを制限される」
それは知ってる。
世界に幾つか点在する世界樹がマナを生み出している。マナは魔法を使う時のエネルギーで、とても神聖なものだって。
そして〈神聖〉は、悪魔の天敵なのだということ。
「何か知らないけど、昔から変な悪魔に好かれててさ。そいつは強い部類らしくてさ……ほんっと迷惑だし」
「じゃあルカも、悪魔の加護持ち一族?」
「さー、しらね」とルカが頭の後ろで腕を組んだ。
彼は、聞く限りだと平民の出身らしい。
悪魔の加護持ち一族は、殆んど貴族階級の一家ばかりなので、余計に不思議だ。
「隠れ姫がここにいるのも…魔法を抑え込みやすいからなんだって」
僕は詳しく知らないけどね。と続けた。
神聖の力は封印の力があると聞いたことがある、確かにここは最適なのかも知れないね。
お茶を飲みながら、そう考えていたあたし。不意に音がして入り口の方を見ると。
「…あれ。噂をすれば」
「……っ!」
遠くから、小さな影が見えた。どう考えても少女と呼べそうな高さの人。
すると、勢いよく立ち上がったルカが其方へ走っていくと、その影に掛けよって飛び付いていた。
んー…。ルカは悪魔じゃなくて、わんこなのかもね。あたしもルカに若干呆れつつも、彼らの方に向かう。
「たくっもう、何ヘマやらかしてんの?馬鹿なんじゃないの?!」
口では罵っているのに、もう行動がご主人待ってた犬なんだよね。ブンブンしてるエア尻尾が見える気がする。
当の引っ付かれてる金髪に眼鏡を掛けた少女は、突然の事で固まっていた。
「ま、待ってルカ。いたい…」
「顔に傷付いてないよね、よく見せて」
「おおお、落ち着いてルカ!」
体格的にルカが細身でも、隠れ姫は華奢でまだ小さい。ちょっと可哀想になったのでルカを引き離すべく、あたしは咄嗟に耳飾りの宝石を弾いた。
ぼう、と目の奥が熱く燃える感覚が走る。
「『風よ、彼を浮かせて!』」
「こら、困らせるな」
マナに指向性を与えて風を操るのと、低い声が割り込んで来るのはほぼ同時。
あたしの〈浮遊〉の魔法でルカの体を浮かせると、おにいが彼を隠れ姫から引き離す。まるで合わせた様なタイミングだった。
「なんだよ……ちょっ、怖っ!」
「少しは相手の背丈を気にしろ、ルカ」
しゅんとしたまま「だってぇ~」と言い始めるルカを下ろしたおにい、こと従兄のレオナルドに、あたしは目を丸くしつつ声をかけた。
「タイミングいいね、びっくり」
「ステファニア。こんなところで何してるんだ?」
おにいの問いには「散歩の休憩に寄った」と答えて、浮遊の魔法を解いた。
しかし、すごく意外なことをしてますね。
この義理の兄妹、あまり仲良くなさそうだったし…少しはマシになったのかな。
「そっちこそ、送り迎え?珍しいことしてますね」
「物騒な事があったからな」
あたしが学校に訪問した時も、誰か護衛を連れて行けと言ってたくらいだもんね。……まあね、従兄を連れてれば危険な人は寄ってこないわ、大きいから。
これでも身内としては、少し安心したかも。
苦笑を浮かべつつ、来たばかりの隠れ姫に話しかけた。やや、居心地が悪そうな雰囲気だ。
「お久しぶりですね。大丈夫、いたくない?」
「平気ですよ。……ここに来るまでに人に見られて急いで来ました」
「目立つからね、おにい」
「フェリチタ様といい、この世界の人はそんな人ばかりなのかな……」
……彼女は、あまり目立ちたくないようだ。
詳しい事は知らないけれど、親のせいで色々言われていたんだっけ。悪目立ちしたくない気持ちは、分かるかも。
「ステファニア様は、ご用事ですか?」
ぱっと明るくして、あたしに問いかけてきた。びっくりして気付いていないようで、ルカの勢いでずれた眼鏡から、碧眼が見えかくれしている。
……ん?ぱっちりしてて、きらきら…。
……………ちょっとまてよ。
「眼鏡ずれてるよ、直すね」
「ひゃっ!」
彼女に違和感を感じたあたしは、眼鏡を一回取ってみた。
そこには困惑した表情をした、お人形さんのままの女の子が立っている。あたしが、幼い頃に見た少女が成長した姿、想像通りの。
(……え、うそだろ)
いやいや、何でこんなもの掛けて顔を隠してるの、てくらい瞬きを繰り返してしまった。
「…あ、あの。何か?」
「ステファニア、やめてやれ」
わああ、どうしよう美人さん!という気持ちと、(……あれ、何か忘れてるような)と云う気持ちが頭の中をよぎる。
すると、がしっ、と肩が掴まれた。
おにいの声だった。少し焦っているのが分かる。
「下手するとお前まで危ない目に合う。眼鏡を返してやれ」
「ええー何で?!」
「その眼鏡は魔力封印の魔道具なんだ。ほら」
おにいの言い方的に、何かヤバい力なんだろうな、ということは分かる。
そうなんだけど!違うの!
「じゃあ違うものにしなよ。ほら、こんなにお人形さんみたいなんだよ!」
あたしも半ば意地になって、従兄の手を払うと、くるっと少女の方に回って肩を掴んだ。
「わわっ!」
「ほら美人さんでしょ?」
「……………。」
「……なにしてんの」
おにいは少女を見つめて数秒、無表情で固まったかと思うと、無言で少女の金色の頭をぐしゃぐしゃにしていた。
「ま、前が見えません……!」
「すまん、つい…落ち着かなくて」
……ごめん。
年下相手になにしてんの?
あたしはぽかんとしてしまったが、ハッと我に返って従兄を止めた。
あーもう。女の子に何てことをしてるのよ。
「……ごめんね、眼鏡返します」
慌ててかけ直してあげて、あたしはその後に再度謝った。困らせて頭がごちゃごちゃになってしまって、ごめんね。
そんな気持ちを込めつつ、持ってたコームで少女の髪を軽く鋤いてみた。よし、取りあえずマシになったかな。
「ふう。よく見えます」
そっか、元々視力が悪かったのね。
それから、少女は従兄を見て怪訝そうに首を傾げた。
「なんで変な顔をしているのですか?……具合、よくない…?」
「……気にするな」
改めておにいの方を見ると、珍しく焦ったような顔をしていた。
……あー、うん。なるほど理解したわ。
「ごめんおにい。…まあ頑張んなよ」
「……お前、変な勘違いしてないか?」
「そんなことないよー」
しかも自覚ないのかぁ。
これは、様子見しかなさそう。
「ねえニア嬢、なにしてんのあんた」
「わわ、怒らないで!」
「だって。隠れ姫って、ダニエル様に似たお顔じゃん!傷が付いたら残念なんだもん!」
「……お前」
思わず「そっちなの?」とツッコミすると「悪い?」と返ってきた。
ルカは王子の事を想っている。フェリ様はそう言っていたし、あたしも軽く聞いていたんだけど。
なんというか、軽い執着心の様なものを感じてしまった。
「そんなにダニエル様に似てますか?」
「…いや。殆んどその眼鏡で顔が隠れてるし、僕にはわからないんだが……」
「系統は似てるのかも、王子も顔だけは彫像の様な顔立ちしてるし」
幼い頃のあたしがお人形さんみたいだと思ったのだし、多分そうなのかも。
「ところでルカ。いつ義妹の眼鏡の下の顔を盗み見た?」
「……ひっ、急に殺気が」
おにい、やたらと怖いな。仕事量が増えて、緊張感の中で仕事をしてるのは知ってる。
けど、これはさっきの八つ当たり入ってますよね?
……敢えて触れない方がいいかな。そうしよ。
「……どうすれば止められますか、ステファニア様…」
「んー、ほっといて大丈夫よ」
寧ろ、巻き込まれるとめんどくさそうだから。触らない方がいいよ。
と思ったあたしは、強引に話を切り替えることにした。
「不思議に思ってたんだけどさ、エリーゼは最初からフェリ様に好意的だったし、協力的よね」
「そうですか?」
「うん。あたし達が入れ替わった時も、すぐにダニエル王子の所に乗り込んでいたでしょ?」
なんでかな、とは思ってたのよね。
それにいくら親戚でも、この娘は王家から縁を切られてる身の上な訳で。
それにしては気安過ぎる気がする。王子と個人的なやり取りがないと無理だと思ってたんだ。
「ああ!……実はフェリチタ様は、ダニエル様が初めて『キレイ』だと誉めた人なの」
「……は?」
顔は読めないけど、パッと華やぐ明るい声で少女が語った。
何だって…?!あのくそ王子が、フェリ様の事をキレイだと?!
あたしがびっくりするのは分かってたみたいで、エリーゼの方もうんうんと頷いていた。
「信じられませんよね。ですが本当です。随分昔の話ですが……」
女性を褒めていたなんて……。
その日の王子は、神様と入れ替わった替玉だったのでは?と思いたいくらい別人なんだけど?と思ってしまったあたしは、思わずぼそっと言ってしまった。
「…あの御方、女性を誉めることもあるのね」
「そうですね。実際、フェリチタ様以外の女性の事はミジンコを見る目をしますね、私を含めて」
うーん。確かにいつも凄く冷えきった顔をするよね、こっちが本性を知ってるから取り繕うのもめんどくさいんだろうなあ。
そりゃ、今更公務の時の麗しの王子様スマイルされても、反応に戸惑うと思うけどさ。
そう言えば、フェリ様も時々ミジンコが……とか言ってたわ。
……フェリチタ様にも、そのスマイルしろっての!
「なので、フェリチタ様はダニエル様を導ける方だと思っています。……元々、ダニエル様は彼女しか見えてないと思いますし」
「そうなの?あんなに浮気し放題だったのに」
「……それは、私にもわかりませんが…」
「殿下は僕の前でも完璧だっての!」
女子二人で話していると、外野からルカが入ってきた。うわ、びっくりした。
「うわっ!入ってきた!」
「ダニエル様の話なら、僕に話しなさいよ。沢山自慢話を……」
いや、おにいはどうやってかわしてきたの?
嬉々としてルカが話を始めようとするのを、エリーゼが遮った。
「スルーしていいわ。長いから」
「おっけ」
クールな返答に、あたしも同意して頷く。
何か喚き始めたルカを横目に、少女は「お茶でもしながら話しましょうか」といったので、あたしは明るく頷いた。
******
黒いローブを着た人が、路地裏をぴょんぴょんと跳ねるように動いている。
目深にかぶっており、表情は全く見えない。
「ガードが固くて困るなぁ…」
障害が多いと燃えると言うけど。
何だか聞いていた話と全然違う、とその人はぶつぶつと呟いている。
そこに、黒いローブの人影が一人増えた。
「機嫌がよくなさそうだね、アン」
「ロレンツ様!あたしが聞いていた展開と違うんだけど!なんで!」
現れた人物…ロレンツに、もう一人が勢いよく引っ付いていった。
「失敗したのかい?」
「あたしの魔法が…掛かる前に溶けたの」
魔法がねえ、それは珍しいね。
黒髪に黒いローブの男は、不思議そうに聞いていた。何処か、興味がありそうな。
「…それは、おかしいね。溶かすのはこちらの専売特許なのに」
「……っ!」
にやり、と口の端を吊り上げた男はくくく、と愉快そうに笑う。
その笑いは、少し歪で不気味な嗤いに聞こえた。
「…ろ、れんつ、様?」
「そうだね。少し調べてみようか。興味深いことになっているやもしれないし」
黙ってしまった相方の事は目に入らないのか、黒いローブの男は愉快だと言いたげに、遠くに立つ王城の方へ視線を向けた。
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