異世界転生しても、お兄ちゃんはワタシのヒーロー!!
椎楽晶
異世界転生しても、お兄ちゃんはワタシのヒーロー!!
自分が異世界転生したと気付いたのは、前世で死んだのと同じ歳だった。
18歳の成人式の儀式の後、
目の前には一緒に死んだと思われるお兄ちゃんが…半透明で浮いていた。
この世界の成人式は男も女も真っ白な服を着て、神殿にある『神様の世界への門』である小さな滝を
小さいと言っても、成人する男の人でも問題なく
滝を潜るその一瞬で神様の世界を通り抜け、みんな何かしらの
例えば…戦闘系なら、冒険者や警備隊、騎士。文系なら、研究職や商人。
魔法系が一番貴重で引くてあまた…と『
だけど、大多数の平民は『
土地に縛られ、活用できる場に
それでも、この儀式が無くならないのは
神様に成人の報告とそれまで生きれた感謝を
神殿の裏山から湧き水を引いているので、滝の水は春先でもまだ冷たい。
石造りの神殿内は水飛沫で冷え切っていた。
順番待ちをしてるだけでも寒くて仕方がなかったけれど、
そうやって得た『
どうやら無事に転生できたのは私だけだったみたい…。
幼い頃の私にとって、お兄ちゃんはヒーローだった。
何かあれば、すぐ『お兄ちゃ〜ん』って泣きついていた。
年が離れていたから、お兄ちゃんだから、色々な理由はあるけれど…多分、私が甘ったれの泣き虫だったのが1番の理由だと思う。
それが変わってしまったのは、私が、ただ幽霊が見えるだけの霊感に目覚めてから。
グロ系ホラーによくある、内臓が〜とか頭がかち割れて〜とかじゃなかったのは幸いだった。
多分だけど『生前の記憶の中の自分』で残ってるんだと思う。
ただ、そこらに浮いてるだけの半透明の存在。
急にそんなのが見えるようになって驚いて、いつものようにお兄ちゃんに泣きつけば…私以上にビビり散らし、おしっこまでチビって気絶してしまった。
どうやら、私と相性が良い人に霊の存在を告げると一瞬、見えるようになるみたいで…妹の手前、格好つけて強がってたお兄ちゃんが、本当はビビりだったのだとその時初めて知った。
それからお兄ちゃんは、私が泣きながら呼ぶとそそくさと逃げていくようになった。
そんな、私のヒーローの情けない姿を見たくなくて、泣き虫は引っ込んだ。
代わりに、お兄ちゃんには泣き言以外のワガママをよく言うようになった。
部屋の電球が切れた、Gが出た、夜中にアイスが食べたくなった、生理でお腹が痛くなった、待ち合わせに遅れそう…などなど。
お兄ちゃんも、なんだかんだ文句言いながらも
電球を変えて、G退治して、コンビニに行って、薬とあったかい飲み物用意してくれて、車で送ってくれた。
学校に行かなくなって、部屋から出て来なくなっちゃったけど…私が『お願い』したときは出てきてくれた。
あの日も、友達と高校の卒業旅行に行くって朝一の電車に乗る予定だったのに寝過ごして、待ち合わせ場所までお兄ちゃんに送ってもらってたんだ。
国道とつながる大きな交差点。居眠り運転の大きなトラックが突っ込んできて…私とお兄ちゃんは死んじゃったんだと思う。
そうして、私はこの世界に転生した。
ただし、神様が登場して『特別な力やスキルをあげるよ』とかのご都合プレゼントタイムとかはなかったと思う。
そんな場面は記憶にない。
だから、なんで私はちゃんと人間の女の子に転生できたのに、お兄ちゃんだけが幽霊なのかは謎。
お兄ちゃんは一生懸命しゃべってるけれど、私には聞こえない。
けれど、なんとなくで意思疎通できてるからそんなに困らなかった。
むしろ、困ってることは他にあって…
世間のどなた様にも役に立たない『
村の中でも1、2を争う貧乏一家な我が家族から向けられる視線が冷たい。
今世の家族仲はあまり良くなくて、いつもギスギスしてたし
娘の成人式用の服も村の誰かのお下がりしか用意できないくらいに貧乏だ。
ましてや、自分たちだって役にも立たない『
ろくな『
そこには弟妹も居て『お姉ちゃんが売れたらアレが欲しい』『ご馳走だ!』『お姉ちゃん如きじゃそんなお金にならないよ』って、盛り上がってるのを聞いたら尚更だ。
そんな私を慰めてくれたのは、幽霊のお兄ちゃんだけだった。
夜明けを待たずに、数少ない自分の荷物を持ってとにかく走った。
走って、走って辿り着いたのは、山向こうの街。そこで、名前を変えて冒険者登録をした。
もう、あの村出身で、親に名付けられた名前の娘はいない。
新しい身分証になる冒険者証には前世での名前が記されている。
家出か夜逃げか…身分証欲しさに手っ取り早く冒険者証を求める人間は多いから、私は何も疑われずに新しい人生を手に入れた。
とは言っても、冒険者らしいことなんて何も知らない。
マンガのジャンルとして『異世界転生』があるのは知ってたから、自分の置かれた状況も理解できたけれど
ゲームはスマホアプリで乙女ゲームかパズルをやってたぐらいだ。
それでも、街での雑用や薬草探しをして日銭を稼ぎ、お金を貯めてお粗末ながらも冒険者用の…というか、長旅にも耐えられそうな丈夫な服やら革靴を買い揃えることができた。
幽霊のお兄ちゃんは、街の通りやお店の位置を覚えてくれて、近道や危なそうな人のいる道を避けて案内してくれたり
装備を買うときも何が良いか、どっちが良いか、お兄ちゃんが教えてくれた。
クエスト中も、薬草の種類を覚え、モンスターが来ないか見張をしてくれた。
たまに半透明仲間と一緒にいたから、きっと自分も幽霊になって怖いの克服したんだと思う。
お兄ちゃんも半透明ながら、新しい人生(?)を楽しんでいるのかもしれない。
最低限の装備とお金、携帯食を買い込んでもっと遠くの街に向かう。
もっともっと遠くの国に。もっともっと広い世界に。
ここから先の大きな街までは街道も通ってるし、比較的安全って聞いてそれを信じ出発してから数日後。
まさかの長雨による土砂崩れで森が大きく荒れ、モンスターの縄張りが崩壊し、
ナイフ1本の人間…それも戦闘系『
いまだに不安定な空模様らしく、先ほどまでは太陽が出ていたのに…今はぶ厚い雲に覆われ遠くの方では雷も鳴っている。
そして、目の前にはワゴン車並みの巨体の爬虫類系モンスター。
先を歩いていた人たちは、モンスターの足の下で肉塊に成り果てている。
さっきまでお散歩気分で歩いていたのが信じられない光景が、目の前に広がっていた。
絶体絶命のこの状況で私はというと、咄嗟に逃げようとして長雨で泥濘んだ道に足を滑らせ転んでしまい、恐怖でそのまま立ち上がれずにいる。
目の前のモンスターが、ねちゃり、と肉と血が泥と混ざり踏み荒らされる音をさせ、牙だらけの口を徐々に開けてゆっくりとこちらに向かってくる。
あぁ、ここで死ぬんだ。そう思った。
お兄ちゃんがやってたゲームみたいな世界を、もっともっとお兄ちゃんと一緒に見てまわりたかった…。
「………お兄ちゃん、助けてぇ」
幽霊が怖いってバレてから、お兄ちゃんはバツが悪いのか…もう助けてはくれなかった。
雑用みたいなお願いは聞いてくれたけれど、泣いても助けてはくれなくなった。
けれど、今、目の前には毛玉だらけのスウェットを着た、半透明の幽霊のお兄ちゃんが立ちはだかってくれている。
あぁ、そうだ。小さい頃、いじめっ子に泣かされた時もこうやって両手を広げて立ちはだかってくれていた。
そう…立ちはだかって、全身を神々しく光らせなが…ら??
いや、そんなことはなかった。
あの頃はただ立ってただけなのに…今は何故か全身を光らせ、両手の黒いオーラを炎のように揺らめかせ、ニヤリと不敵に笑っている??
着古した毛玉だらけのスウェット着たボサボサ頭のお兄ちゃんが!?
いつの間にか、街でお兄ちゃんが一緒にいた半透明仲間が集まり、
野次?いや、声援を飛ばしている。聞こえないけど
みんなの応援が力になって、ヒーローがより強くなります!!もっと応援してあげて〜!!『ガンバえ〜ぷいくぁ〜!!ガンバえ〜!!』
さながら、ヒーローショーの観客たちのようだ。
幽霊だから見えないはずだけど、モンスターだから何かを感じ取ってか。
己を奮い立たせるように一声吠えて飛びかかろうとする刹那、お兄ちゃんは両手の炎状の黒いオーラを飛ばしモンスターを爆散させた。
一撃だった。
炎はまだ残り、炭化したモンスターをなおも焼き尽くそうとしている。
神々しい光はそのままに、お兄ちゃんはかつて泣き虫だった私を助けた後のお決まりの…その頃にハマっていたヒーローのポーズをする。
ビシッと決めた瞬間、周りの半透明たちがやんやと喝采をあげる。
私の肩を掴み、背中を叩き、頭を撫でて、ニコニコ笑顔で『お前のにいちゃんカッコいいな。スゴイな奴だな』って言われている気がする。
あれ?私見えるだけだと思ったら、実は触れるようになってるの?
実は『
でも、今はそんなことはどうでもいい。周りの半透明に負けじと、声をあげる。
『カッコいい!スゴイ!!お兄ちゃん、ありがとう』って
かつての泣き虫が、助けてくれたお兄ちゃんに向けた言葉をそのままに。
異世界転生しても、お兄ちゃんは私のヒーローなんだ!!
異世界転生しても、お兄ちゃんはワタシのヒーロー!! 椎楽晶 @aki-shi-ra
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