私には心地良い

@chauchau

きっと愛し合う


「悩み事ですか」


 眠れない私を気遣う彼の声。

 優しさを向けられる。きっとこの人は私のことを愛してくれる。そして、私もこの人を愛することができる。


「シンデレラのことを考えていました」


「詳しく聞いても?」


 結婚式まであと一ヵ月。

 やるべきことはまだまだ残っている。二人とも働きながら、少ない休みで式の準備をするのは想像していた以上に大変だった。経験済みの友人が、旦那になる人と喧嘩だけはしないように気を付けてと言ってくれた意味を知る。


「結局、私はシンデレラにはなれないんだと痛感しただけです」


 継母に虐められる彼女を魔法使いが助けたことも。

 彼女がダンスホールで王子様に見初められたことも。

 落とした靴を手掛かりに王子様が血眼になって彼女を探したことも。


「私は美人じゃないですから」


「ああ」


 否定しない。

 否定してはくれない。


「俺も美形とはかけ離れているから王子様にはなれませんね」


 それが心地よい。

 だからこの人の手を取った。結婚相談所で知り合った数人の……、二人の男性のなかでこの人のほうを選んだ。


「絵にならないと思っただけです」


「作り話みたいにはいきませんね」


「美人以外は子孫を残せない法律でも出来ないかな」


 そうすれば悩む必要がなくなる。

 少なくとも、一つ理由が消える。


「俺は子どもが欲しいのでそれは困りますね」


「君が居れば大丈夫だよ」


「そんな嘘は口が裂けても言いません」


「知ってます」


 お世辞以外の可愛いを身内以外から聞いたことがない人生だった。

 例外は、友達じゃない女友達が言う可愛いだ。あれはお世辞じゃない。もっと下衆な目的をもったものだから。


「本当に子どもが欲しいですか?」


「勿論です」


「こんな顔を愛せるかな」


「自分の子はそれだけで可愛いというのでそれを信じましょう」


 貴女は充分可愛いですよ。

 そんな台詞を言う人じゃない。


 まったく以て、私にはお似合いの人である。

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