第34話 次女はキュートな魔法少女⑨
「エルダー……!」
「飛鳥姉、避けて!」
『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』
巨大カマキリが右腕の鉤爪を振り下ろしてきた。屋上の床が破壊され、ガレキが下の階層に崩れ落ちる。
僕と飛鳥姉がすんでのところで左右に飛んで、攻撃を躱すことに成功した。
『アスカ、変身をするのです!』
「わかってる! 変身――『マジカルチェンジ』!」
飛鳥姉が叫ぶと、彼女の胸の中に黄色いイルカ――エクレアが吸い込まれる。
飛鳥姉の身体が黄色い光に包まれた。まばゆい光によって視界をふさがれるが……勇者となったことでブーストされた視力により、光に包まれた飛鳥姉が全裸になっている姿が見えてくる。
「うわあ……」
感嘆とも呆れともつかないため息が漏れてしまう。
姉として慕っている女性の全裸を見てしまった。当然だが、子供の頃に一緒にお風呂に入った時よりも、ずっと成長している。特におっぱいが。
しかし、そんな豊満なバストが見る見るうちに縮んでいく。胸だけではない。身体全体が小学生くらいのサイズまで小さくなっており、幼女のツルペタロリな全裸が目に飛び込んでくる。
幼女飛鳥の身体にステッキが出現して、さらに黄色を基調としたドレスやアクセサリーがツルペタボディに貼りついていく。
数秒後、そこには先ほど見た魔法少女――エクレア・バードの姿があった。
「呼ばれて飛び出てバビュッと見・参♪ 魔法少女エクレア・バードだよ♪」
「…………」
「ちょ……可哀そうなものを見る眼にならないでくれる!? 魔法少女に変身したら、急にテンションが上がって勝手にこうなっちゃうんだからね!?」
「そっか。そうだよね……うん、大丈夫。わかってるよ」
「優しくしないでー! 逆に切なくなるからー!」
僕の気遣いに飛鳥姉が悶絶する。
そんな飛鳥姉……じゃなくて、エクレア・バードに巨大カマキリが鉤爪をふり上げた。
「飛鳥姉!」
「飛鳥姉じゃないってば! マジカル・サンダー♪」
エクレア・バードがステッキを振ると、そこから雷撃が放たれてカマキリの巨体を包み込む。
「決まった……!」
相変わらず、とんでもない威力の魔法だった。地球が生み出した自浄作用であるところの精霊に選ばれただけはある。
アレほどの高火力の魔法は、異世界でも魔王軍の幹部くらいしか使うことはできなかった。
僕は飛鳥姉の勝利を確信するが……
『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』
「えっ!?」
雷撃に撃ち抜かれた巨大カマキリであったが、目に見えたダメージはない。
巨大カマキリの身体を緑色のバリアーのようなモノが覆っており、雷撃から守っているだ。
「きゃあっ!?」
「飛鳥姉っ!」
巨大カマキリが襲いかかってくる。鉤爪が振り抜かれ、エクレア・バードの身体が斬り裂かれた。
黄色いドレスが破片となって散らばり、それに混ざって赤い血が撒き散らされる。
『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』
「この……やめろ!」
なおも巨大カマキリが追撃しようとする。
慌てて飛び込んだ僕は、アイテムボックスから取り出した剣で鉤爪を弾き飛ばした。
「飛鳥姉! しっかりしてくれ!」
「ハア、ハア……だから、飛鳥じゃ、ないってば……!」
エクレア・バードが荒い息をつきながら立ち上がる。
小さな身体には痛々しい爪痕が残されているが……傷口が徐々にふさがっていた。回復魔法でも使ったのだろう。
「どうしてアタシの雷が……」
「わからないけど……アイツの身体を覆っている膜みたいなのが原因じゃないかな?」
「膜って……」
そこでようやく、飛鳥姉も巨大カマキリの表面を半透明の緑色が覆っていることに気がついたようだ。
「雷の魔力を無効にする力でもあるのかしら……いったい、どうやってあんなものを……?」
『アスカ、ひょっとしたら我々の能力は解析されていたのではないでしょうか?』
エクレア・バードが持っているステッキから、バリトンボイスの低い声音が響いてくる。どうやら、あのステッキを通じて精霊と会話もできるようだ。
「解析って……どういうこと?」
『先ほど、下の階を襲った敵は此奴の手下なのかもしれません。手下をぶつけて我々の力を解析して、雷魔法を無効化する能力を生み出したのでは?』
「そんな……エルダーってそんなに知能が高いのか!?」
横から会話が聞こえてしまい、思わず叫ぶ。
この巨大カマキリにそれほどの知能があるとは思えないが……ひょっとして、僕が思っている以上にエルダーというのは凶悪で高度な文明を有した存在なのだろうか?
『元々、エルダーは地球よりも遥かに進んだ文明を持つ星の住人。あり得なくはないでしょう』
「だったら……どうしたらいいのよっ!」
鉤爪が振り下ろされ、エクレア・バードが宙を飛んで回避した。
魔法の力で空を飛ぶこともできるようだが……そんなエクレア・バードに、巨大カマキリが右手を銃のように変化させる。
『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』
右手に現れたのは玩具の光線銃のような粗末なものだった。
しかし、そこから出る攻撃は本物。緑色のエネルギー弾が空中のエクレア・バードめがけて放たれる。
「クッ……マジカル・バリアー!」
エクレア・バードの前方に黄色い壁のようなモノが出現するが……エネルギー弾がそれを容易に破壊して、魔法少女の小さな身体に襲いかかる。
「きゃああああああああああああああっ!?」
「飛鳥姉!」
変身が強制解除され、元の姿に戻った飛鳥姉が落下してくる。
屋上の床に叩きつけられそうになる身体を慌てて受け止め、巨大カマキリから距離をとった。
「う……あ……」
飛鳥姉の身体は服がズタボロになっているものの、目立った傷はない。
しかし、意識が朦朧としていて瞳は虚ろ。とてもではないが戦える状態ではなさそうだ。
『我々のバリアーがこんなに容易く……やはり、力を解析されてしまったみたいです……』
近くに落下してきた黄色のイルカが声も絶え絶えに説明する。
「……これは不味いんじゃないか? さっさと逃げたほうがいいような……」
「だ、め……にげたら、みんなが……」
「飛鳥姉?」
息も絶え絶えになっているはずの飛鳥姉の口から、朧げな言葉が紡がれる。
「あたしが、まもる……かぞくを、ゆうを……まもるんだ……」
「…………」
どうやら、飛鳥姉は夢の中でまだ戦っているようだ。
家族を守るために。そして……その家族の中には僕だって含まれている。
「オッケー。わかったよ」
僕は屋上の端に飛鳥姉を横たえて、巨大カマキリに向き直った。
『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』
追撃が来ないと思ったら……巨大カマキリはやられた飛鳥姉を左手の鉤爪で指差して、大きく肩を上下させていた。顔面を覆っている触手が、肩の動きに合わせてワラワラと蠢いている。
笑っているのだ。
倒れた飛鳥姉を見て、おかしくて堪らないと、無様で仕方がないと……嘲笑している。
「悪いけど……家族を笑い者にされて黙っていられるほど、僕は大人しい性格じゃないんだよ。超絶本気でぶっ殺すけど構わないよね?」
大笑いをしている巨大カマキリを見て……僕は全身全霊で目の前の敵を抹殺することを決めたのだった。
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