第30話 次女はキュートな魔法少女⑤


『こ、今度はバッティングセンターに行こう! 僕のスーパースイングを見せて…………ふぐおっ!?』


『バスケだ、バスケ! フリースローなら誰にも負けな…………んぎゃあっ!?』


『ふ、フットサルをやろう! 男子チームと女子チームに分かれて…………あべしっ!?』


『げ、ゲームセンターなら安全なはずだ! 一緒にもぐら叩きゲームを…………ほぐべっ!?』


 その後もヤリサー男にだけ災難は続いていく。


 バッティングセンターにいけば、ピッチングマシンが暴投してきた球が顔面にめり込んだ。

 バスケのフリースローをすれば、シュートを決めたボールが壁に当たって勢いよく跳ね返り、股間に直撃した。

 フットサルをすればボールにつまずいて宙にひっくり返って後頭部を打ちつけた。

 ゲームセンターで「モグラたたき」をやろうとしたら、限界を超えて飛び出してきたモグラが鼻に突き刺さった。


 もはや先祖の因縁が祟っているのではと思わんばかりの不幸の連続に、女子はもちろん、一緒にいた男子までもがドン引きしている。

 もちろん、これらの災難は僕がスキルやアイテムによって引き起こしたものだったが……それを知らない人間からしてみれば、呪い以外の何物でもあるまい。


「ねえ……もう帰った方がいいじゃない?」


「そうね……今日はこれくらいでお開きにしましょう」


 ヤリサー男がボロボロになっているのを見て、他の面々が気を遣って提案する。

 これ以上、この場にいたら命にかかわるかもしれない。ヤリサー男を除いた全員が、そう思っているようである。


「う、ぐうっ…………し、仕方がない……せっかく、来たのに、みんな悪かったね?」


 ボコボコになった顔でヤリサー男が謝罪をする。

 もうイケメンでも爽やか系でも何でもなくなっているが……恐るべきことに、その目はまだ死んではいなかった。


「だけど……最後にコーヒーだけでも奢らせてもらえないか? せっかくの楽しい休日を、僕のせいで台無しにしちゃったみたいだし……」


「…………!」


 そんなヤリサー男の発言に、離れた場所でダンボール箱を被っていた僕が目を見開く。

 まさか……この期に及んで、飛鳥姉を口説くことを諦めていないのか。最後の切り札である『薬』とやらをコーヒーに混ぜて、飛鳥姉に飲ませるつもりなのだろうか?

 恐るべき執念。驚嘆すべきエロ心。

 やり方はとてもではないが誉められないが……エロに向ける心意気だけは、同じ男として認めねばなるまい。


「それじゃあ、アッチの自販機で買ってくるから! 待っていてくれ!」


「あ……私達も手伝って!」


「大丈夫だから! ほんっとに待っててくれ!」


 手伝いを申し出る女子を振り払い、ヤリサー男が廊下を走っていく。

 向かったのはフロアの片隅にある自販機コーナーである。ヤリサー男は並んでいる自販機の中から、コーヒーの自販機を選んで金を投入する。

 その自販機は缶ジュースではなく、紙コップでコーヒーを出してくるタイプのもの。これならば不自然なく、妖しい薬を混入することができるだろう。


「ハア、ハア……まだだ。まだ終わってねえ……! ここでコーヒーに薬を入れて、飛鳥ちゃんを送っていくふりをして、薬が効いてきたところで人気のないところに連れ込めばヤレるはずだ……! この際、ラブホじゃなくてもいい。公園だろうと、その辺の路地裏だろうと構やしねえ。絶対にあのデカ乳を揉みしだいてやる……!」


「…………」


 執念深くブツブツとつぶやいているヤリサー男の背中に、そっと溜息を吐く。

 飛鳥姉を狙ったからには、同情しない。この男の野望はここで叩き潰してやる。


「だが……できることなら、敵としてではなく友として出会いたかったな。本当に大したスケベ魂だったよ」


 僕はダンボール箱を脱ぎ捨て、『忍び歩き』のスキルを発動させたまま、ヤリサー男の背後に近づく。

 せめて一撃で葬る。それがヤリサー男のスケベ魂に対して、僕がしてやれる唯一の誠意である。


「……殴って気絶させたら、すぐに係員を呼んで医務室とかに運んでやるからな。悪く思わないでくれよ」


 僕は手刀を振り上げ、ヤリサー男の首筋に叩きつけようとした。

 だが……その一撃が命中するよりも先に、近くにあった壁が吹き飛んだ。


「へ……?」


「なあっ!?」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEッ!!」


 粉々に砕けた壁の向こうから、おかしな生き物が出現した。

 人間のように二足歩行でありながら、全身からイソギンチャクのような触手が生えており、色は真緑という生物としては限りなくあり得ない色彩をしている。


「も、モンスターだって!?」


 異世界でしかお目にかかれないであろう怪物の出現に、僕は慌ててその場から飛び退いたのである。






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