第4話 勇者と姉妹の再会④
次女、三女に夕飯のことを知らせて、僕は日下部家四姉妹――最後の1人の部屋の前に立った。
「…………」
部屋の前に立った僕は、緊張に表情を硬くさせる。
四女は小学生で、高校生の僕とは5つも年が離れている。
小学生……そう、女子小学生。略してJS。つまりは幼女なのだ。
「幼女はまずい。まずいよな」
異世界で魔王を倒したご褒美なのか……今日は立て続けに日下部姉妹の下着を目の当たりにしていた。
いったいどんなボーナスステージが始まっているというのだろうか?
白の下着に包まれた華音姉さんの爆乳。黒の下着の飛鳥姉の巨乳。そして、ピンクの下着の風夏の発展途上おっぱいをすでに獲得している。
たった10分足らずの時間ですでに3セット6おっぱい。ものすごい得点率である。
「このパターンでいくと……あの子も下着姿で待ち構えているはず」
さすがに小学生はヤバいだろう。
幼女の下着姿を鑑賞するなど、コンプライアンスに背いている。
いや……もちろん、高校生や中学生ならオッケーという問題でもないのだが。
「……大丈夫だ。僕は失敗を生かせる人間。こんなの『アパッチ平原の戦い』に比べれば余裕じゃないか」
僕は異世界で経験した過酷な戦いを思い出して、固く拳を握りしめた。
そして……全身の感覚を研ぎ澄ませて警戒しながら、四女の部屋のドアをノックする。
「……僕だ。起きてるか」
「起きてる」
ドアを叩きながら呼びかけると、すぐにドアの向こうから短い応答が返ってきた。
問題なさそうだが……油断はしない。僕はなおもドア越しに呼びかける。
「寝ぼけてないか? 着替え中じゃないな?」
「寝ぼけてない。着替えてない」
「下着姿じゃ……ないよな?」
「違う」
よし……ここまで確認すれば問題あるまい。
僕は安堵に肩を落として、「入るぞ」と声をかけてからドアを開く。
四女の部屋の中に入ると……そこには全裸の女子小学生が立っていた。
「だから何でだあああああああああああああああああああっ!!」
僕は『ムンクの叫び』のようなポーズで絶叫した。
どうしてこうなるのだ!
あんなに確認したというのに……どうして、よりにもよって全裸なんだ!?
「話が違うぞ! 着替え中じゃないって言ったじゃないか!」
「着替えてない。下着でもない」
僕の叫びに、日下部家の四女ちゃんが不思議そうに答えた。
一糸まとわぬ姿で立っている彼女の名前は……日下部美月。
年齢相応に小さな身体。透き通るように白い肌と、それよりもさらに真っ白のセミロングの髪を持つ幼女だ。
御年12歳になる美月ちゃんは、凹凸のないツルペタな身体を存分にさらし、恥じることなど何もないとばかりに堂々としている。
「隠せよ! せめてパンツくらい履いてくれ! というか……美月ちゃんは全裸で何やってんの!?」
「寝汗」
美月ちゃんは短く答えて、手に持ったタオルを掲げた。
どうやら、濡れたタオルで寝汗を拭いていたようだ。今日は日曜日なので、美月ちゃんも夕飯前までお昼寝していたのだろうか?
「理由はわかったけど……だったら、ちゃんと言ってくれよ。裸だってわかってたら入らなかったのに……」
「ふいて」
「……僕に身体を拭けって? そのために部屋に招き入れたのか?」
「そう」
美月ちゃんが発する言葉はいちいち短かった。抑揚もまるでなく、ほとんど単語だけで会話をしている。
この子は出会った時からそうだった。
初対面からずっとこの調子で、美月ちゃんが感情を露わにしたり、長文で会話をしたりするのを見たことがなかった。
日下部家の四姉妹は全員が個性的な美女・美少女だが……その中でも、美月ちゃんは特に際立っている。
外見はまるで人形のように完璧な美幼女。
顔の造形に文句の付け所がなく、まるで神が生み出した造形品である。
透き通るような肌にはシミの1つも見当たらなくて、空から降ったばかりの処女雪のよう。
そして、セミロングの白い髪とルビーのような紅い瞳。これは『アルビノ』と呼ばれる身体的特徴であるが……聞いたところによると、美月ちゃんのこれは生まれつきではなく、後天的にこんな髪と眼になったとのことである。
美月ちゃんは5歳の頃に山で事故に遭ったらしい。
今は亡き四姉妹の両親は山登りが趣味だったらしく、その日、日下部家の両親と姉妹は山にハイキングに訪れていた。
5歳の子供を連れてくるだけあって、その山は別段に危険な場所ではなく、ちょっとしたピクニックのつもりだったらしい。
しかし……そんなハイキングの最中に突如として豪雨が降ってきて、日下部一家を襲った。降り注ぐ雨のせいで日下部一家は両親と美月ちゃん、残る3人の姉妹に分かれてしまい、山中で離れ離れになってしまったのだ。
華音、飛鳥、風夏の3人は他のハイキング客に保護されて無事に下山することができたが……両親と美月ちゃんは崖下で発見された。
生きていたのは美月ちゃんだけ。両親は変わり果てた姿で亡くなっていたそうだ。
発見された美月ちゃんは恐怖やショックが原因なのか、黒髪黒眼から白髪赤眼へと変貌していた。
両親を目の前で亡くしたショックのせいで、幼い相貌からは感情が抜け落ち、言葉もすっかりたどたどしくなってしまったのである。
「ふいて」
「…………」
幼女の壮絶な過去を思い出して微妙な顔になる僕に、美月ちゃんがタオルを差し出してきて再度身体を拭くように要求する。
僕は溜息をつきながら、タオルを受け取った。
「……今日だけだからな」
「かんしゃ」
「そこはありがとうと言ってくれ」
「ありがと」
「……よくできました。ほら、背中を向けてくれ」
「ん」
後ろを向いた美月ちゃんの背中を丁寧に拭いてやる。肌が驚くほどキメ細かいので傷をつけないように慎重にタオルを滑らせた。
美月ちゃんはもう12歳。来年には中学生に上がる。
甘やかすような年齢でないことはわかっているが、幼い頃に両親を目の前で亡くした境遇を思うと、ついつい何かをしてあげたくなってしまう。
寝汗を拭いてあげるくらい安いものではないかと、甘やかしてしまう。
「……大丈夫だ。『幼女』は辞書的には未成年の女性を指す言葉。つまり、18歳も幼女ということになる。12歳も18歳もどっちも幼女なんだから、裸を見ちゃってもセーフなはず」
完全にアウトだった。
家族じゃなかったら通報されている。
いや、タダのお隣さんで厳密には家族じゃないから、やっぱりアウトだけれども。
「ん、前も」
「……前は自分で拭いてくれ。コンプライアンス先生に怒られるからね」
「…………」
美月ちゃんは無表情ながら、どこか不満そうに唇を突き出した。
長年、お隣さんをやっていると――少しだけではあるが、この子の感情が読めてきたような気がする。
僕はベッドの上に置いてあったカーディガンを小さな肩に羽織らせ、白い髪を優しく撫でたのであった。
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