お姉ちゃんでいて

鈴宮縁

お姉ちゃんでいて

 彼女と出会ったのは生まれてすぐだった、らしい。

 生まれた病院が一緒で。

 母親たちの部屋が一緒で。

 彼女が一日先に生まれて。

「だから、あたしがお姉ちゃんね」

 あれは何歳の頃だったか、そう言って彼女は楽しそうに笑った。

 少なくともあの日から彼女はいつも私の『お姉ちゃん』になった。

 両親が忙しく、愛を感じれない環境にいた私にとっては『お姉ちゃん』は居なくてはならない存在だった。

「あたしが側にいるからね」

 テレビに映るどんなヒーローよりも、『お姉ちゃん』がかっこよかったし、輝いていた。

 そんな私の『お姉ちゃん』は、いつも私が最優先だった。『お姉ちゃん』の隣はいつでもわたしの場所だった。いつでも、そうだった。


「ごめん! 今日は__と帰るから」


 耳を疑った。

 私を優先しないのは初めてだった。

「なんで?」

「……ん〜ちょっと照れるけど……彼氏なの、初めての」

 顔を赤くして、囁く。

 知らない顔だった。

 私の知っている『お姉ちゃん』ではなかった。


「返して、お姉ちゃんのこと」

 家で、布団の中で、一人つぶやいた。

 私は正真正銘ひとりぼっちになった。

 ひとりぼっちで、彼女を元の『お姉ちゃん』にするにはどうすればいいのかを考えた。日が沈んでから、昇るまで。ずっと考え続けた。

 そこで、ようやく思いついた。

「お姉ちゃんを、彼氏から引き離せばいいんだ」

 どうしてすぐ思いつかなかったのだろうか。

「待っててねお姉ちゃん」

 すぐに、元に戻してあげる。

 お姉ちゃんは私だけの、私のためのヒーローでいなきゃダメだから。

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お姉ちゃんでいて 鈴宮縁 @suzumiya__yukari

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