とある会社での何気ないことだけど
OFF=SET
第1話
「おーい、このデザインした奴誰だ」
会議室のドアから
よくみれば私がデザインを担当した案件だった。「おい、いないわけないだろ」と、テーブルに荒く叩きつける。
「あの、私です」
大きな声で叫び回られては、他の社員に迷惑だ。
「お前は……えーっと……」
「
「真中ぁ、お前かぁ」
「はい、そのデザインがどうかしたのでしょうか」
「作り直しだよ、作り直し! クライアントが、お前の所はデザイナーがいないのかって、さ」
「でもそれは……」
「でも、だあ? お前入社何年だ!?」
「二年、です」
「はいはいはいはい、いつまで新入社員の気持ちでいるんだよ! いつまで、いつまで! い、つ、ま、で!」
部長は丸めた私の図案でデスクを叩いた。その強さは叩く度に強くなり、音も大きくなる。
静まり返った社内に響く罵声とデスクを叩く音。
「す、すみません」
「お前な、俺のところまで来るってことは、全て問題無いって事なんだよ、じゃないと俺がクライアントに怒られるんだよ! 俺が!」
「すみません」
「クライアントにデザイン学校卒の人がいて言ってたよ、御社の社員は本当に学校出てんのかって、デザインの基本がなってないんだよ、基本が!」
「す……すみません」
「すみませんすみませんって、バカの一つ覚えみたいに言って、本当にバカなのか?」
皆の前で晒し者のように怒鳴られる。
説明も聞いてもらえずに、ただ謝るだけの自分が悔しくて、無様で、涙が滲む。
「おい、おいおいおいおい、泣きたいのはこっちだから。ったく、これだから最近の奴は困るんだ、どうせ、直ぐ辞めるんだろ? いいよなぁ、若者は、若いだけで再就職できるんだからなあ」
「そ、そんなこと……す、すぐにやり直します」
パソコンに向かい記憶力させていたデータを呼び出すと、作業にうつる。
「おいおい、話聞いてたか? 学校出てない素人は、この企画から下りろって言ってんだよ」
弾かれたマウスが床に転がる。今にも崩れそうなメンタルを維持しながら膝を付き、マウスを拾う。
「お前じゃ無理だ、会社辞めたら?」
見上げた部長は今にも私の頭に向かい台詞を吐き捨てるようだった。
誰も口を開かずに、皆、自分の仕事をこなすので精一杯。人の事を気にしている場合ではないのだ、誰も分かってくれない、涙が一粒、床の絨毯に染みた。
「何の為に……何の、為に……」
「はぁ? 何だって?」
部長が耳に手を当てて、私の呟いた言葉を聞き返してくる。
私はこんなことの為に、今まで頑張って勉強したのか、こんなことを、小さな頃から夢みていたのか。
情けない――――
悔しい――――
「部長! 待って下さい」
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