第十三話 夜の顔
白く薄いレースのカーテンが窓辺で揺れている。四角く切り取られた夜空には、いくらかの星々と、それ以上に煌びやかな光を放つビル群が上下に立ち並んでいた。
窓辺にはベッドが一つあり、そこに女が座っている。女は汗ばんだ肢体を隠すため、ベッドからシーツをたぐり寄せて自分の体に巻きつけた。窓辺に身を寄せ、火照る体を冷やしている。髪を掻き上げうなじを風にさらしていると、そこにひやりと冷たい物が押し当てられて小さく悲鳴を上げた。
「イーサン」
振り返ると、ペットボトルを持ったイーサンがベッド脇に立っている。黒のパンツに前の開いたシャツを着て、長い黒髪も乱れている。普段はぴしりと着込んだ男の、こんな着崩れた姿を見れるのはきっと自分だけに違いない、女はその姿に優越感を感じた。
飲む?と言われて女は頷き、よく冷えた水を一口喉に流しこむと、ひりつくそこを潤した。ベッドが一度軋んで、隣に腰かけたイーサンが身を寄せてくる。しっとりと彼も汗をかいていて、長い黒髪が彼の鎖骨の形に張りついていた。自然と、男の引き締まった上半身に視線が吸い寄せられてしまうのを、もう一口水を飲むことで引き剥がす。
女が十分に喉を潤した事を確認すると、イーサンは彼女の手からペットボトルを受け取り、近くのテーブルへと置いてやった。代わりに彼は女の手に手を重ね、長い指で相手の指の根元から爪までをゆっくりと撫でつけ始める。指は裏側へと回り込み、悩ましい動きで手の平を擦り始めた。彼の長い指は先ほどまで自分のどこを触っていたか、女は思いださずにいれなかった。
「イーサン、もうダメよ」
男の手が腰に回され、太腿の境目を撫で始めたタイミングで、女はそう声をかける。イーサンは子犬が懇願するように、顎を引いてあざとく上目遣いで見つめてきた。そんな事をされては、女も強く突っぱねる事は出来ない。困ったように笑って、彼の腕の動きを制止する。
「今夜はもう疲れちゃったわ。もう寝かせてちょうだい」
「じゃあキスだけ」
すぐに彼の手が伸びてきて、優しく顎を掴まれる。仕方なしに目を閉じて彼を受け入れると、始めは啄むような可愛いものだったのに、一つ息を吸いこんで、男はぐっと中へと舌を押しこんできた。息もつかせない深い口付けに身を引こうとするも、男の大きな手が後頭部に回される。もう片方の手が耳たぶを擦りあげ、合わさった唇の隙間から思わず声が漏れた。
「イーサン……!」
「キスだけだ」
一瞬の抵抗も空しく、そのままベッドへと押し倒される。
「キスだけでその気にさせるから」
耳元でそう囁くと、イーサンは自分の体を女の足の間に割り入らせ、執拗に、舌と耳を攻めたてた。いつの間にか纏っていたシーツもはだけ、彼の前にあられもない姿を晒してしまう。
しばらくそうして、女は涙目になりながら終いには男に懇願の声をあげた。
「窓を閉めて」
「どうして? キスだけだろう?」
息を上げた女を見下ろし、男は意地悪な笑顔でそう囁く。必死に窓へとのばされる腕を絡め取って、ベッドへと縫いつけてしまった。そうして熱く火照る首筋に、キスを落としていく。そのまま下って、鎖骨、胸へと下りていく。
女は熟れて溶けていく感覚に、思わず反って喉を晒す。イーサンの手が、唇が、体の形に沿って撫で、そして体の形に逆らって動く。快感の渦に溺れていく。だんだんと意識も朦朧として、視界は何度も白く光った。
そうして視界が真っ暗闇に沈んだ頃、耳元で、かちり、と音がするのを聞いた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます