第5話
「どうりで陛下の若い頃と瓜二つのわけだ……! 貴様が陛下の子であるならば、私の孫であるのならば、なおさらに我が国を救う義務があるはずだ! レンガルト王国に帰って来い、国のために魔物と戦え!」
「そんな義務はない。行ったこともない場所に『帰る』というのは、言葉が間違っているんじゃないかな?」
「何だと!?」
「母から聞いている。貴殿の国の王太子……いや、国王陛下は母を国から『永久追放』したのだろう? それがどういう意味かわかっているよな?」
永久追放された人間はその国に足を踏み入れることはできない。それは子孫にまで及ぶ刑罰だ。
母が永久追放を喰らったということは、俺もまたレンガルト王国に行くことはできないということになる。
「だ、だが貴様は王家の血を引く直系で……陛下に頼んで恩赦を出させるから、それで……」
「恩赦などいらない。母だってそう答えるはずだ」
「ぐっ……しかし、それでは我が国は……!」
「母が冤罪を被せられて追放されるのを助けなかったのだろう? その子である俺に救いを求められる立場ではないと思うが?」
「うぐ……!」
マーティス公爵が顔を赤くした。一応、自分が恥知らずなお願いをしている自覚はあるようだ。
「それに……神雷魔法を使える人間には貴国にもいるはずだ。国王陛下とその子供もいるじゃないか」
母の腹違いの妹が王家に嫁いでおり、王子を産んでいるという話は聞いている。
王家の血を継いでいるのならば神雷魔法だって継承しているはずだ。
「……国王陛下に子供はいない。お前の他には」
「……は?」
「娘の……マリーアが産んだ子供は神雷魔法を継承しなかった。おそらく、王家の血を継いでもいないだろう……」
「…………」
つまり、浮気相手の子供ということか。
王妃が他の男と浮気をして子供を作るだなんて、とんでもないスキャンダルである。娘の不始末が心労になっているのか、公爵の顔はやつれて目も窪んでいた。
「それは大変……とはいえ、やはり俺には関係のない話だな」
前妻の娘である母を見捨てておいて、愛したはずの後妻の娘によって苦しめられている。
自業自得だ。そのツケを俺に支払えとか、無茶なことを言わないでもらいたい。
「俺が魔物を倒したのは国の依頼を受けてのことだ。文句があるのなら、依頼主である周辺諸国に言ってくれ」
「…………」
マーティス公爵は無言。そんな事はできるわけがない。
ただでさえ、レンガルト王国は魔物の被害で弱っているようだし……下手をすれば、周辺の国々から袋叩きに遭う。
「話がこれで終わりなら、そろそろ帰らせてもらう。依頼達成の報告がまだなんだ」
「ま、待て! 待ってくれ!」
ソファから立ち上がった俺に、マーティス公爵が慌てたように言い募ってくる。
「国王陛下には子供がいない。10年ほど前に病に侵されたことで子を成せない身体になってしまった。マリーアが産んだ子供が自分の血を引いていないことを知り、今は心を病んでしまった。お前がレンガルト王国に来れば、次期国王にだってなることができるのだ! だから……」
「いや、知るかよ」
縋りつくように叫ぶマーティス公爵に淡々とした口調で断言する。
「レンガルト王国のことも、アンタや父親のことも知ったことじゃない。破滅するなら勝手にしてくれ」
言い捨てて、さっさと応接間から出て行った。
「オオオオオッ……!」
ドアの向こうから男の泣き崩れる声が聞こえてきたが……構うことなく、廊下を歩いていった。
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