第2話
「あ、リオンさん! いらっしゃいませ!」
冒険者ギルドに入るや、顔見知りの受付嬢が声をかけてきた。
受付に向かい、カウンターの上に採ってきたばかりの魔物の素材を置く。
「依頼されていたレッドオーガの討伐が完了した。確認してくれ」
「はい、すぐに取り掛かりますねー」
受付嬢が素材の入った袋を受け取ってパタパタと奥の部屋に消えていく。
ギルドの建物内には大勢の冒険者がいて、ボードに貼られた依頼を物色していたり、仲間と打ち合わせをしていたり、隣接した酒場で昼間から酒を飲んでいたりする。
そんな冒険者らの一部が俺を見つめており、ヒソヒソと小声で話していた。
「おい、あの男、ひょっとして……」
「ああ、『雷獅子』のリオン。最年少でSランク冒険者になったあのリオンだよ」
「本当に若いんだな……まだ20かそこらの若造じゃねえか」
自立してから5年。俺――悪役令嬢の息子であるリオンは20歳になっていた。
冒険者としての活動にもすっかり慣れており、それなりの成功は収めている。
冒険者の最高位であるSランクに到達しており、他国から名指しで依頼を受けることだってあるくらいだ。
「フンッ……」
「お待たせしました。こちらが報酬になります!」
やがて受付嬢が大きな布袋を両手に抱えて戻ってきた。
袋の中身を確認すると大量の金貨が詰まっている。
Sランク冒険者である俺は、1度の仕事で一般市民の年収ほどの金額を稼ぐことができるのだ。
「金額は問題ないな。半分は口座に貯金して、もう半分はいつものところに振り込んでくれ」
「畏まりました。そのようにいたします!」
「それと……これはいつもお世話になっている礼だ。美味いものでも食いに行くといい」
「わあ、ありがとうございます!」
金貨を何枚か渡すと、受付嬢はキラキラと瞳を輝かせる。
ちょっとした心づけが人間関係を円滑にするのだと、教えてくれたのは母だった。
実際、チップを渡すようになってから見違えるほどに受付嬢の態度は良くなっている。元々、態度が悪かったというわけではないが……ギルドの上層部が無理難題を持ちかけてきたときなどには間に入って庇ってくれたりするようになった。
ギルドから支払われる報酬の半分は貯蓄。もう半分は実家に振り込んでいる。
今度、5歳年下の弟が王都にある魔法学園に入学するらしい。
弟がこっちに来たら顔を合わせる機会も増えるだろう。今から楽しみだ。
「リオンさん、いつものように指名で依頼が入っていますけど……どうされますか」
「見せてもらおうか」
「はい、ではどうぞ」
受付嬢がカウンターに置いたのは3枚の書類。貴族や王族からの依頼だった。
この大陸には俺を含めて5人のSランク冒険者がいる。
高位の冒険者というのは実力がある代わりにクセの強い人間が多い。Sランクともなると、依頼を極端に選り好みする者も多い。
そんな中で、俺は比較的あつかいやすくて仕事も速いことで知られていた。若手ということもあって仕事が回されることが多く、常に指名依頼がギルドに寄せられている。
「ふむ……」
受け取った書類の1枚はリューン王国から、2枚は他国からの依頼。内容はいずれも強力な魔物の討伐である。
俺は自国からの1枚と他国の依頼のうち1枚を受け取り、残った1枚を受付嬢に返却した。
「こっちの2つを受けさせてもらおう。それは断っておいてくれ」
「あー……やっぱりですか?」
「やっぱりだよ。ワガママを言って悪いな」
「いえ、理由はわかりませんけど、リオンさんがあの国を嫌っていることは知ってますから。こちらはお断りしておきます」
受付嬢は少しだけ困ったような表情になりながらも、こちらの言い分を了解してくれた。
俺は基本的に仕事を選ばない。相応の報酬さえ支払ってもらえるのであれば、どこの誰の依頼だって受けることにしていた。
だが……1つだけ、必ず断ることにしている依頼がある。
それは隣国――レンガルト王国からの依頼。
母親を悪役令嬢として追放した国の依頼は全て断っていた。
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