地味ゲーマーの俺が学年一の天才美少女と付き合うことになった件
司馬波 風太郎
第1話
「起きて佐藤くん。もう授業終わったわよ」
透き通るような声が聞こえると同時に肩を揺さぶられる。その行為のおかげで俺、佐藤 椋冬りょうとの意識は覚醒した。
「ん……ああ、如月さん。ありがとう」
俺は寝ぼけた頭を必死に働かせながら自分を起こしてくれた人物を確認し、お礼を言う。
俺を起こした人物は学年一の美少女だった、名前は如月梓。運動神経抜群、テストも毎回学年トップという文武両道が人間の形をしたらこうなったというような人間だ。おまけに見た目も超絶美人というとんでもないハイスペックである。
天は二物を与えずということわざがあるが彼女を見ているとそんなの嘘だと俺は思ってしまう。
(本当俺のような凡人とは住む世界が違う人間だよな)
俺を起こした彼女を見ながら心の中でぼやいてしまう。事実クラスが同じでも彼女と話をすることはあまりない。ただ席が近いのでたまに話をすることはある。彼女は基本的に善人で他人に対して分け隔てなく接するため、話もしやすい。なにもかも持った上で性格もいいとか小説でもなかなか見かけない存在なのである。
「よかったわね、先生がやる気のない人で。寝ていたあなたを注意することもないのは教員としてどうかと思ったけど」
澄ました声で俺に言い放つ如月。しかし嫌みな感じはなく、からかうような口調だ。
「早く家に帰りなさい。あまり残っていると今度こそ先生達に怒られるわよ」
そう言って華麗に去っていく完璧美少女。うーん、なにもかも優雅である。
「さて、俺も帰りますか」
彼女に向けていた意識を強引に切り替え、俺も鞄を持って教室を後にした。
*
「ただいまー」
帰宅した俺は夕飯を食べた後、自分の部屋に向かった。さてこんななんの取り柄もない俺だが一つだけめちゃくちゃ得意なことがある。
それはゲームだ。平凡な学生である俺だがこれだけは得意である。有名な格闘ゲームのオンラインの大会で優勝したこともある。
そして人がゲームをプレイするのを見るのも好きだった。最近は動画配信サイトでゲーマーやVtuberが上げているゲーム実況動画を見るのが楽しみになっていた。
「さて、今日はあの人の配信日だな」
俺は自分のパソコンを起動し、動画配信サイトを開く。そしてお気に入りの配信者のページにいく。
俺が今から見ようとしている配信をする配信者の名前はアズという人物だった。ここ最近見かけるようになった配信者でゲームプレイで圧倒的な強さを見せつけたことから瞬く間に有名な配信者となった。
自分もこのアズというプレイヤーとオンラインの大会で対戦したことがあるがはっきりいってめちゃくちゃ強かった。まあちゃんと勝ったがな!
そんな彼女の配信は今やゲーマの間で大人気だ。今日もたくさんの人が彼女の配信を見に来ている。
「こんにちはー、皆今日も見に来てくれてありがとうー。それじゃ始めていきたいと思います!」
よく通る澄んだ声で配信を見に来てくれた人にお礼を言って配信を始めるアズ。今日プレイしていたのは元々別ジャンルで人気だったシリーズの格ゲーだった。
オンライン対戦を開始するやいなや相手をあっという間に倒して連戦連勝を重ねていくアズ。彼女も勝利がうれしいのかだんだん配信で発する言葉にも熱が籠もってきていた。
ふと俺はアズの声に既視感を覚える。この声どこかで聞いたことがある……? しかもついさっき学校で……。
「あ……」
そうして記憶を辿っていくとある人物に行き着いた。思いだしたのは帰り際に声をかけてきたうちのクラスの完璧美少女。
「え、アズってまさか……如月さん!?」
自分が思いついた仮説が信じられず俺は思わず部屋で声を上げてしまう。
「いや、まさか、あの完璧お嬢様がゲームなんかやるのか……?」
そうだ、学年一の文武両道、才色兼備のあの無敵お嬢様がこんな俗っぽいゲームの配信なんかするのだろうか。そんな気持ちからもう一度アズの声を確認するためにヘッドホンを付ける。
「よし! また勝ちましたぁ!!」
かなりテンションが上がっているアズの声。しかしこのよく通る声はやはり……。
「やっぱり、如月さんだ……!」
*
「うう……ただ聞くだけなのにこんなに勇気がいるなんて」
翌日、俺は如月に直接昨日のことを聞こうと決意し学校に登校した。しかしいざ学年一の美少女に自分から話しかけるとなるととても緊張する。
なんとかしたいものの緊張が消えてくれることはなかった。教室に入ると彼女が座って本を読んでいるのが見えた。
こうして見ても本当に昨日のゲームの配信者アズにはとても見えなかった。本もなんだか難しそうな本を読んでいるようだし。
(でも……話かけなきゃなにも進まない……!)
意を決して彼女に配信のことを確かめるために話しかけようとする俺。しかしそんな俺の決意を砕くように授業開始の予鈴が鳴り響き、俺は落胆しながら自分の席に着いた。
その後、如月と昨日の配信の件について話すことができずに放課後になってしまった。このままでは彼女に昨日のことを確かめられずに一日が終わってしまう。
俺が迷っていると彼女はさっさと教室を出て行ってしまった。
(まずい……! 見失ってしまう……!)
俺は慌てて彼女の後を追う。なんとか学校の校門のところで彼女に追いついた俺は呼び止めるために意を決して声をかけた。
「あの……ちょっと待って!」
「あら? ……佐藤くん?」
呼び止められた彼女は怪訝な表情でこちらを見ていた。それはそうだろう、普段接点が あまりない人間から呼び止められた人間誰でも不審に思うのは当然だ。
「ごめん! いきなり呼び止めて。その……ちょっと確認したいことがあったからさ」
「何かしら?」
涼しい表情をしてこちらに問いかけてくる如月。とりあえず聞くのを拒否するようなことはなかったので安心した。
「如月さんってさ、ゲームの配信とかやってる?」
「!?」
俺のこの言葉を聞いた瞬間、如月の表情が変わった。目はこちらを睨みつけ、雰囲気が剣呑なものになる。
あれ、もしかしてこれ地雷だった……。
「なんでそんなことを聞くの?」
ゆっくりとした口調で俺に尋ねてくる彼女。語気を荒げているわけでもないのにその纏う空気が冷たくてめちゃくちゃ怖い。
「いや……その、自分そういうゲームの配信とかよく見てて……それで見てた配信者の声が如月そっくりだなと思って」
俺の説明を聞いた如月はしばらく沈黙したままだったがやがて観念したのか大きな溜息をついた。
「まいったなあ……まさか同級生にゲームの配信動画見られてるなんて。そんなに見ている人も大量というわけではなかったと思うけど」
「まあ普通はそうだと思う。俺もびっくりしたから」
俺の言葉を聞いた如月は鋭い目付きでこちらを睨んでくる。いやだから怖いって。
「はあ……まあいいわ。とりあえず一緒に来てくれる」
*
場所を変えて俺たちは近くの喫茶店に入って向かいあって座っていた。
「はい、メニュー。なにを頼むの? 私はカフェラテを頼むわ」
自分のメニューを頼んでこちらの注文を確認してくる学年一の美少女。間近で見ていると、本当に綺麗な人形を眺めている気分になる。
「ちょっと、ぼーっとしてないで早く注文を決めて」
そんなことを考えてぼんやりしていたせいか、如月にたしなめられてしまった。
「あ、悪い。じゃあ自分は普通のアイスコーヒーで」
俺の注文を確認した彼女が店員を読んで注文を伝える。
「はい、それじゃ注文も終わったし話を聞きましょうか」
改めて彼女が笑顔を浮かべながら俺に問いかけてくる。しかし冷静になったのか先程のように剣呑な空気はなく、きちんと話ができそうな雰囲気だ。
「佐藤くんの話を聞いたところだと、私の配信を見ていて声で気付いたってことみたいだけど……よくわかったね」
「ん、まあ……綺麗な声で印象に残ったからな」
俺の言葉を聞いた如月は少し顔を赤くする。美少女が照れる様子が見れるなんて眼福だ。
「その……軽蔑するかしら? ゲームの配信なんて私がしているのを知って」
何故か如月は自身のない声で俺に尋ねてくる。
「いや、なんで? 別に軽蔑されることではないんじゃ……」
「私の周りの友人達の間じゃまだゲームは悪いものって考え方が根強くて……親は理解があるのだけどね」
「そうなのか……」
最初に配信の話をした時に彼女が何故あんな態度をとったのか、俺はようやく理解した。
「だから学校では隠してたのに……見つかってしまうなんて……」
額に手を当て、落ち込む如月。
「その、如月がそういうことをしているのを知られるのが嫌なら俺は誰にも言わないぞ。そういうことを言いふらす趣味はないし」
人が秘密にしていることを言いふらすのは好きじゃないしな。
「本当?」
「ああ、本当だって。そんなことしてもなにもいいことないだろ」
「じゃあこのことは二人だけの秘密にして」
如月は懇願するようにこちらにお願いしてくる。そんな表情をせずとも始めからそうするつもりだった俺は彼女の言葉に頷いた。
「ねえ」
頼んだ商品を飲み終えた俺達は店を出たがそこで如月が声をかけてきた。
「あのさ、佐藤くんはゲームの配信を見るだけじゃなくて自分でゲームしたりするの?」
「んー、まあ多少はな」
「どんなジャンルをするのかしら?」
「割となんでもだな」
「……そっかなんでもか……」
俺の回答を聞いた如月は少し考え込む様子を見せた。俺はなにかおかしな事を言っただろうか?
「どうした? 急に考え込んで」
「ううん、なんでもない。今日はありがとう、私の話を聞いてくれて。それじゃ、明日また学校で」
「ああ、また明日」
そう言って如月と俺はそれぞれの帰路に着いた。
*
「はあー……」
家に着いた私は盛大に溜息を着きながら自室のベッドに倒れこむ、疲労感が一気に込み上げてきた
「……クラスメイトに知られてしまうなんて」
誰も見ていないだろうと思っていた。見たとしても自分と思う人はいないだろうと。だから佐藤くんが配信を見て自分だと見抜いた時は心の底から焦った、彼が悪意を持って周りに言いふらす可能性があったからだ。ただ彼はそういったことをする人間ではなかった、そのことは幸運だったと思う。
自分の周りの友人達はこういったゲームや漫画に対して偏見のある人間だ。
だからといって彼らの人格がどうしようもない人間というわけではない。ゲームや漫画に対して楽しさを見いだせないことからくるものだから仕方ないのだ、誰にでもそういったことはあるものだし。
なので私は趣味を隠しながら自分の周りに人間と接していた、それに不満があったわけじゃない。ただやっぱり心のどこかに完璧なお嬢様として見られていることも相俟って趣味を隠していることに息苦しさを感じていた。
その息苦しさを解消したくて、ゲームが好きな人間と交流したくて配信を始めたのだ。
「でも彼は私のことを否定しなかった」
自分の趣味を否定されなかった。そのことが今、私の心を弾ませている。
「彼となら楽しく遊べるかな」
なんで自分は今こんなことを考えてしまっているのだろう、理由は分からない。ただ彼なら私の趣味を受けいれてくれるのかななんて期待がどんどん膨らんでいく。
気がついたら彼ともっと関わりたいと考えている私がいた。
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