悪役令嬢なんて真っ平御免です!

月野 白蝶

第0話

 私は、ごくごく平凡な人生を送っていた。会社も普通の事務。友達は多からず少なからず。社会のルールに守られていれば、取り立てて弾かれることも無い。唯一の楽しみは小説や漫画を読むことくらい。

 そう、思っていた。




 目の前に映るのは豪奢な天蓋付きベッド。ロココ調の家具に、クローゼットにはこれでもがと詰められた豪華なドレス。鏡を見れば、金髪のウェーブがかかった髪と紫の瞳。

「なんじゃこりゃ!」

 第一声がそれだったり

 私は日本人らしく黒髪黒目だった筈。こんなに煌びやかな外見はしていない。

 そしてなだれ込むこの身体の持ち主の記憶。

 いや、ねぇわ。気に入らない令嬢にワインぶちまけたり? 取り巻き侍らして良い気になってたり? 金にものを言わせて豪遊したり?

 無しでしょ。いや、フツーに考えて無しでしょ。

 どうやら私は、エレン・マックイーンと言う名前らしい。社交界の華と謳われるほどだとか。それゃそうでしょうよ。この美貌だもの。さぞかしモテるんでしょうね! こちとら彼氏いない歴=年齢だわ! 喪女舐めんな!

 幸いな事に、ダンスの仕方などの基礎知識は頭に残ってる。ピンヒールも体に馴染んだ。問題は、爵位。どれくらいなのこのマックイーン家の爵位とやらは。

 チクチクチクチク、ポーン。

 公爵。

 え? 公爵って確かめちゃくちゃ偉いよね? その娘がこんなクズでいいの? ダメだよね? 何故家族は何も言わないのかと小一時間。

「おはようございます、お嬢様」

 お嬢様?!

「お召し物をすぐにご用意しますね。本日は何色のご気分ですか?」

 何色……

「ブルーの気分かしら」

「それでしたら、ハインリッヒの仕立て屋から新しいドレスが届いておりますわ! それに致しましょう」

 待って待って待って。ただでさえドレスはクローゼットに溢れんばかりにあるのに、また新しいドレス買ったのこのお嬢様?!

「オススメと言うなら、着てみようかしら」

「お嬢様でしたら絶対お似合いになります!」

 そこまで推されて断るのは無礼よね。

 侍女が持ってきたのは、シンプルな深いブルーを基調としたマーメイドのドレスだった。同系色で裾にあしらわれた蝶の柄が地味すぎない印象を受ける。

 フツーに良いセンスじゃない。

「どうかしら」

「お似合いですわ!」

 侍女はそう微笑んで

「今晩のハイレツベル家の舞踏会はコレで決まりですね!」

 爆弾を完璧に落としてくれた。

 舞踏会?! 舞踏会って言った?! こちとらパーティーに参加したことすら無い一般人ですか?!

 もういいや……壁の花決めとこ……

 神崎由香里改めてエレン・マックイーン。前途多難です。

 とりあえず、悪役令嬢とやらは脱却します!

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