私の中の小人さん
ハルカ
ほのかと小人
私は生まれつき人よりも少し体が弱く、幼い頃から熱を出しやすい子でした。
そのせいで母にはずいぶん苦労をかけたと思います。
なにしろ、小さい子どもなど体調を崩してもじっと寝ていられません。寝るのに飽きればたちまち布団から飛び出して、ぐずり始めてしまいます。そうしてまた体調を悪化させるのです。
その繰り返しだったと、のちに母は私に語りました。
そんな聞かん坊だった私をおとなしくさせたのは、父の言葉でした。
「いいかい、ほのか。いつもより顔が熱いとか、頭が痛いとか、体が重いとか、息が苦しいとか、そういうのは全部、ほのかの体の中に悪い病気がいるせいなんだ。それをやっつけないといつまで経っても元気にならないし、お布団の中で寝てなきゃいけない。だから、もしほのかが元気に遊びたかったら、まずはその病気をやっつけなきゃいけないんだよ」
私は途方にくれました。
幼い私は、自分の手に負えないことは両親が何とかしてくれると思い込んでいたからです。でも父は、私自身が病気をやっつけなくてはならないと言うのです。
「どうやってやっつけるの?」
「病気は目に見えないから、ほのかだけでは戦えない。でもね、ほのかの体の中には小人さんたちがいっぱいいて、ほのかのために一生懸命戦ってくれるんだ」
「本当に?」
「本当だよ。パパの体の中にもママの体の中にも小人さんたちがたくさんいて、病気になると戦ってくれるんだ」
幼い私は、父の話に真剣に耳を傾けました。
私の体の中に、私のために戦ってくれる小人さんたちがいる。
私の中に、私だけのヒーローがいる。
そう思うだけで、不思議と心が強くなれるのでした。
「だから、ほのかは小人さんたちを一生懸命応援しようね」
「おうえんって?」
「まずはしっかりご飯を食べること。 小人さんがしっかり戦えるようにエネルギーを送るんだ。それから、ちゃんとお薬を飲むこと。お薬は、小人さんを助けてくれるんだ。そして、しっかり体を温かくすること。体を温めると小人さんが元気になるんだよ」
「うん。わかった!」
私は強く頷き、母の作ってくれたお粥をしっかり食べ、美味しくない薬を頑張って飲み、体を保温すべく自ら布団に潜り込みました。
そして、心の中で「がんばれこびとさん、がんばれ~!」と何度も応援します。
私の中の小人さんは、いったいどんな姿をしているのでしょうか。変身して悪者と戦う少女たちのように、キラキラしているのでしょうか。
それとも、兄が見ている戦隊ものの主人公たちのように、強そうな姿なのかもしれません。
そんなことを考えているうちに、いつのまにか私はぐっすり眠っていました。
起きたときにはすっかり熱が下がっていて、父も母もほっとしたように笑っていました。
それから時は過ぎ、私も一児の母となりました。
息子は私にそっくりで、熱を出してもちっとも寝てくれません。体調が悪くて不機嫌そうなのに、もっと遊びたいとぐずるのです。
だから私は、あの日の父の言葉を思い出し、息子に語りかけます。
「実は、君の体の中に、病気とたたかってくれるヒーローがいるの」
私の中の小人さん ハルカ @haruka_s
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます