この異世界はどこかズレている!
正妻キドリ
第1話 デバフ使いの異世界転移
突然だが、俺こと不知火フレンは今、異世界にいる。
元の世界から急に召喚されて、少しばかりの小銭だけを持って、訪れたことのない見知らぬ街を練り歩いている。
異世界転移ものの主人公に少なからず憧れはあったものの、いざ自分がその立場になってみると、不安と恐怖で心がいっぱいだ。
一体、俺に何があったか。それは今日の朝のこと。
浪人生である俺は、今日もいつも通り、勉強ではなく格ゲーのオンライン対戦に勤しんでいた。
「おいおい、お相手さん、超絶厨キャラ使いじゃあないか。恥を知れ、恥を。」
これが俺のいつもの生活。現役時代は、割と偏差値の高い有名大学を志望し、全国模試でB判定をもらうほどの学力があった。
しかし、その大学に合格することはできなかった。どうしてもその大学に行きたかった俺は浪人を決意。だが、その後、集中力が続かずサボりまくって、成績が大暴落。
滑り止めの大学でさえ、合格するのが難しくなってしまった。
「…っ、こいつ…、クソが…!」
厨キャラ使いに翻弄されて、イライラが止まらない。
そのまま押され続け、何も出来ないまま負けてしまった。
俺は、思いっきり台パンした。
「クソがぁっ!てめぇが強いわけじゃ無いからなぁ!お前が使ってるキャラがぶっ壊れてるだけだから!」
俺は立ち上がって、地団駄を踏んだ。
「がぁっ〜!クソ腹立つ〜!なんで、娯楽ごときにこんなにイライラさせられなきゃいけないんだよ!なんにもうまくいかねぇ!世の中クソだ!」
そう言いながらベッドに向かってダイブし、おもちゃを買ってもらえない幼児の如く、仰向けで暴れ回った後、涙が溢れそうな目を腕で覆いながら思いっきり叫んだ。
「世の中の上手くいってる奴全員くたばれ!幸せそうな奴も全員くたばっちまえ〜!」
叫び終わってしばらくの間、そのままの状態でいた。
少し落ち着いたので、目を覆っていた腕をゆっくりどかした。
すると、見えたのは知らない天井だった。
えっ、という言葉が自然と出ると共に、すぐさま飛び起きた俺は唖然とした。
いつの間にか俺は見知らぬ部屋に移動していたのだ。
「やっと、起きたかのう。」
その部屋には、俺以外にも人がいた。
白髪で茶色のローブを纏った老人が椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
老人は、少し間を置いてからゆっくりと立ち上がり、いきなり「おめでとうぅ!!」と大声で言って拍手し出した。
「君は、この伝説の大魔道士であるワシに伝説の勇者として召喚されたのだ。おめでとうぅ!」
俺は恐怖でしかなかった。
知らない間に見知らぬ部屋に移動させられた挙句、そこにいた老人に大声で賛辞を送られているこの状況は恐怖でしかなかった。
なんだこの某アニメの最終回みたいな状況は。
「あ、あの…ここはどこですか?」
以前、拍手をしている老人に俺は尋ねた。すると、老人は拍手をやめて、今の状況を説明し始めた。
「ここはわしの家じゃ。君はワシの召喚魔法によってこの世界に呼び出されたのじゃ。今、ワシの代わりに世界の平和を守ってくれる者を探しとってな。それで君を召喚したんじゃ。」
「ああ、夢の中か。」
俺は再び横になろうとした。
「待て待て、夢ではないぞ。全く、みんな同じ反応をしおるわい。よいか?君はいわゆる異世界転移をしたのじゃ。」
異世界転移という言葉に俺は引っかかった。元々、異世界もののアニメはたまに見ていたし、辛い時なんかは異世界にいけたらなぁみたいな淡い期待をよくしていた。
それがこんな夢を見せているのか、あるいは本当に…
俺は自分の頬っぺたを思いっきりビンタした。
パチーン!!という音と共に俺の頬には痛みが走り、老人は、俺がいきなり自分をビンタしだしたので、「えぇっ…」と困惑していた。
痛い…ということは夢じゃないのか?
「ご老人!ここは本当に異世界なんですか!?」
「ああ、そうじゃが?」
「なら、すぐ俺を元の世界に返してください!向こうでやらなきゃいけないことがあるんです。」
「残念だが、それはできん。やり方がわからん。」
「え、いやいや。呼び出したのあんたでしょ?なら、戻し方も知っているでしょう?」
「ほっほっほ。それがさっぱりなんじゃよ。」
何笑っとんじゃこいつ!
俺は老人に掴みかかった。
「てめぇ、召喚しといて戻し方知らないってどういうことだっ!戻れなかったらどうするつもりだ、このイカれじじい!」
「イカれじじいとはなんじゃ!ワシはイカれてなどおらん!至って普通の老人じゃ!」
「逆に今までで普通の要素あったか!?」
「全く、みんな最初は絶対こう言うんじゃ!まともなのはワシだけか!?」
しばらく、俺と老人は取っ組み合いをしていたが、徐々に疲れて来て、最初に座っていた椅子と床に再び腰を下ろした。
「じいさん、みんなと言っていたが、俺以外にも何人か召喚してるのか?」
肩で息をしながら、老人が答えた。
「ああ、君と同じ世界の人間を何人か召喚した。今は、どこにおるか分からん者もいるが、ワシの弟子として活動してる者もいる。」
「その人達は戻り方知らないのか?」
「知らないじゃろうな。知ってたらワシが聞いとるか、その者は元の世界に帰っとるじゃろう。じゃが、ワシが預かり知らぬところで、その情報を得てるものもいるかも知れんな。」
「なら、自分でそいつら…或いは、他の戻る方法を知ってる奴を見つけ出して直接聞くよ。出口どこだ?」
俺は立ち上がりながら老人に聞いた。
「おいおい、ワシですらそんな奴見つけれんかったんじゃぞ。それに…」
老人は間を置いてから聞いてきた。
「お前さん、本当に戻りたいのか?」
俺は出口に向かう歩みを止めた。
「なんで、そんなこと聞くんだ?」
「だってさっき、世の中の上手くいってる奴全員くたばれ!幸せそうな奴も全員くたばっちまえ〜!と言っとったじゃろ?」
「それ、聞こえてたのかよ…」
確かに俺は向こうの世界で上手くいかず、全てが嫌になっていた。でも、向こうでの目標を投げ出すわけにはいかない。投げ出すわけには…。
しばらく黙って考えてた俺に老人は落ち着いた声で言った。
「噂なんじゃが、別世界から召喚されてまた元の世界に戻った者は、召喚される直前に戻れるらしい。本当かどうかは知らんが。まぁ、ゆっくりとこちらの世界を見ながら戻る方法を探すのも良いのではないか?」
真っ直ぐに俺を見てそう言った老人に俺は向き合った。
「なんかいいこと言ったみたいな感じ出してるけど、あんたが俺の戻し方を知ってれば済む話だったんだからな。」
俺は、じとっとした目で老人を睨んだ。だが、老人はそれを気にもせず、ほっほっほと笑った。
「まぁ、そう言うな。こちらでの生活を少しなら支援してやれるぞ。まず、スキル鑑定をしよう。あそこに水晶があるじゃろ。」
そう言うと老人は、部屋の隅のテーブルの上に水晶とその下にクッションを手も触れずに瞬間的に出した。そういえばこの世界はどれほどの規模で魔法が使われているのだろうか?
決まった人しかつかえないのか、それともみんな使えるものなのだろうか?
などと考えていると、いつの間にか老人はテーブルに移動し、こっちへ来いと手招きをしていた。
「この水晶に手をかざすのじゃ。そうすればどんなスキルを持ってるかが分かる。」
俺は老人の手招きに答えるかのようにそちらに歩いていった。途中、老人が唐突に聞いてきた。
「そういえば、お前さん名はなんというのじゃ。まだ、聞いてなかったのう。」
水晶の前まで来た俺は手をかざしながら答えた。
「不知火フレン。向こうでは変わった名前だってよく言われたけど、こっちの世界ではどうだい?」
「不知火フレンか…。まぁ、よくわからんが火の魔法を使いそうな名前じゃな。」
「それ、向こうでもよく言われたよ。」
などと喋ってる間に鑑定結果が出た。
少しばかりの輝きを放つ水晶には、デバフの文字がデカデカと書いてあった。
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