S2-FILE035(FILE236):巨人が起つか英雄が勝つか!?

 大きすぎて細かいところまで手入れがされておらず、塗装は中途半端、動作もぎこちない、ショートして火花も散らしている。

 そんな状態でもビッグガイスターは、アデリーンたちを視野に入れた途端勝手に稼働し始めたのだ。


『破壊せよ。破壊せよ』


「ウキャアアアーッ!? お、オレがわかんねーのかっ」


 機械仕掛けの巨人がこれまた大きな手で足場をつかんで削り取り、エコーがかかった声を重く響かせる。

 回避行動をとってから、尻餅をついて後ずさる申太彦――には、目もくれずアデリーンと虎姫はビッグガイスターを警戒する。

 悪の大巨人がスリット状のまぶたを開くと、その目は黒く瞳孔は不気味な赤い光を放っていた。


「自我と思考能力までも持たせていたのか……。何が破壊せよだ! 完全に狂ってるぞ!」


『クリエイターは、どこだ? 我が設計図を持ち逃げした裏切り者の忘れ形見め……。お前も組織を裏切った。浦和にそそのかされ、奴らの良いように育てられ、くだらん正義になど目覚めたせいだ』


 暴走する危険性があるのに、ヘリックスはこのビッグガイスターに虎姫が語ったものを与えたのだ。

 万が一制御不能になったらいちばん困るのは、間違いなく創造する者たちだというのに。


「コウイチロウ博士を、……私の両親を侮辱する気? ここであなたをスクラップにしてもいいのよ」


 落ち着いていながらも、アデリーンは冷たい怒りを燃やす。

 相手が己よりも遥かに大きくても、物怖じしない。


『お前の育ての親やお前に与する者たちが余計なことを教え、余計なことばかり考えるように教育したためにお前は害悪と化した。だが我は違う……。100%悪に染まった、ヘリックスが作りたもうた人造人間の完成系だ。お前以上のな……!!』


 遮光器土偶に酷似した巨大なる魔神がそう言った時、アデリーンは思い出していた。

 かつて組織が『ZR細胞に頼らない人造人間を作る』というコンセプトのもとに生み出し、死に追いやった青年のことを。

 運命に翻弄され続けた彼の最期を。その上でこう言い切る。


「私は科学の力で生まれた人間よ。兵器などではない」


「ハァーん!? いつ人間になったってんだよぉ! バケモンがエラそーなことぬかしてんじゃねーッ。おとなしくヘリックスに服従しとけばよかったのによおー!!」


 モンキーガイストが調子に乗って汚らしい顔で唾を飛ばしながら罵倒するが、虎姫がライガークローを壁面に突き立て、彼を威圧して黙らせた。

 うめき声を上げて震えることしか、今の彼にはできない。

 アデリーンとしても、何を言っても自分を変え心を入れ替えようとも考えないような――この程度の小悪党は、相手にするだけ無駄だった。


『すべてを握りつぶし、すべてを焼き尽くし、すべてを踏みにじる! その我も設計図なき今、不完全で動くこともままならない。設計図はどこだ……我が動力炉を完成へ導く最後のピースはどこだ?』


「見つけられないわ。永遠に」


 ビームランチャー・ボレアルインパクトの砲口にエネルギーの光が収束する。

 彼女は恐れず、目の前の巨悪を撃つつもりだ! そして仮面の下で、彼女は「ビッグガイスターを滅する」という思いを燃やした。


「あなたが完成する日も永遠に訪れない!」


 エネルギーを最大限まで溜めてから発射された蒼い極太のビームは、超巨大かつ堅牢強固なビッグガイスターの胴体を貫通。

 穴を開けて動力炉を破壊し、その余波で大破させるまでに追い込んだ。

 氷の粒が飛び散りながらも大爆発を起こし、巨大なる悪魔の背後で爆発が重なる。


『ギィーガァアアア!? わ、わ、我ヲ……か、完成させナサイ。ギギギギガアアァー!!』


 動力炉が未完成のままだったビッグガイスターは、アデリーンの砲撃が決め手となり激しく火花を散らして煙や炎を吹きあげながら機能を停止。


「やったか!?」


「て、てめーやったのかア!?」


 急に起き上がってアデリーンに掴みかかった申太彦だが、彼女と虎姫から顔面をぶたれ転倒させられてしまう。

 空気を読まなかった彼が悪いのだ。


「ああ言った手前カッコ悪いけど。さすがに完全には破壊しきれなかったか……」


 電波塔は破壊できた、これでヘリックスシティが移動しても電子マップ上に位置が浮かぶため、特定はたやすい。

 小分けにしながら破壊工作で切り崩し、捕虜を救うことだって可能だ。

 敵が対策を講じない場合に限るが――。


「やだやだやだやだ!? ビッグガイスターあんなんなっちまったよ! オレ責任取らされて死んじゃうよオ!!」


「死ねば……」


 わめき散らす申太彦にも情け容赦なしだ、アデリーンは冷たく言い放った。


「なんてね?」


「だ、ダメですー! 地下ハンガーやられました! No.ゼロオオオー!?」


 申太彦からトランシーバーを取り上げて破棄してすぐ、爆発・炎上がおさまらない地下から脱出するためアデリーンたちは、来た道にあった非常階段を駆け抜けた。



 ◆


「やりすぎてしまったわ。居住区まで及んでしまったら私……」


 速やかに彼女たちがシティの地上へ戻ってもなお響く轟音、止まらない振動――。

 地下格納庫での爆発の規模は彼女らが想定していた以上に広がってしまい、ヘッドパーツを一旦外したアデリーンは気まずそうな顔をして監禁された人々の身を案じた。

 察した虎姫は、自身も素顔をさらけ出し、「心配いらないさ、ヤツらも利用したい手前迂闊に捕虜を事故死させるようなマネはできないだろう」と励ました。

 それを受け取ったアデリーンは「必ず助けなきゃね」と右の親指を立てた。


「フーッ、フーッ、アブなかったぁ~。な、なあ、ヘリックスなんかやめるからさ、オレ様を匿って……」


 「なんという屈辱! ギルモア総裁はオレ様を許さないだろう」と考えた申太彦は、ふたりにすり寄ってでも助かろうとする。

 ふたりからはあまりよくない顔をされた末、虎姫からはとうとう猫パンチをボディにぶちかまされた。

 不憫に見えるがそもそも申太彦に全責任があるのだから、同情の余地はない。



 その時だ。



「何をチンタラやってたんだ。バカザル……」


「日本の首都・東京の支部長ともあろう者が醜態続き」


「幹部の座から引きずりおろしてやろうと思ったが?」


「こんなザマではなぁ……」


 マントを羽織った金髪の男と、同じような格好をした銀髪の女が多くの戦闘員や怪人たちを引き連れてその場に現れたのだ。

 ヘリックスの最高幹部を務める桃井兄妹である。

 ツメバケイの怪人や、ディノポネラの怪人にカジキの怪人もこの兄妹に付き従っていた。

 兄妹そろって開口一番に心配するでもなく、呆れた様子を見せた。


「ネズミどもが、トンでもないことをしてくれたな……! おかげでビッグガイスターの完成が遠のいたじゃあないか!!」


 いつもは冷静な錆亮さびすけもこの時ばかりは鼻息荒く、捕らえていたカイルを乱暴に突き出して銃口まで突きつけた。

 申太彦としてはまたとない幸運だったが、アデリーンも虎姫も、黙っていられるわけがない。

 痛めつけられ、全身から血を流して満身創痍な彼を見せつけられたのだから――。


「に、逃げろ! アデリーンさん! テイラーさん……」


「サビスケぇ!」


 怒るアデリーンを前に桃井兄妹は一瞬笑うも、すぐ眉をひそめた表情に戻りカイルを一喝。

 兄妹はさらに、アデリーンにもカイルにも「撃つぞ」と言わんばかりにハンドガンを交互に向けて威嚇をする。


「ただでは帰さない! そこの山ザルとこのネズミの頭目を交換しろ。できなければ……死んでもらう」


「我々のかわいいビッグガイスターにひどいことをしてくれたんだ。当然の報いだろう……!」


 歪んだ笑みを浮かべつつ、目をむいて怒りを露わにする桃井兄妹を前にしてもアデリーンと虎姫はたじろがない。

 ましてや後者はヒーローになったばかりで、敵の最高幹部であるこの兄妹と対峙するのも今日がはじめてだったのにだ。

 ふたりのヒーローの表情は険しく、揺るがぬ信念と正義の意志を感じさせる。


「こ、こんなオレ様でも助けてくれるんですかい? ありがとうごぜぇます桃井兄妹様々~!! さすがは最高かんブフォ」


 裏拳でいったん静かにさせて、アデリーンと虎姫は申太彦を締め上げる。


「あなた調子のいいことばっかりよね!」


 哀れすぎて何も言えない――と、そう言わんばかりにアデリーンは申太彦を突き離す。

 その申太彦が桃井兄妹のもとに行ったのを見た次の瞬間には躊躇もなしに武器を構え、それを合図がわりに虎姫は颯爽とカイルを救い出した。


「助けられてばかりだ、すまない……」


「あとにして!」


 カイルの肩を持つ。

 元々身体能力が高いからなのか、はたまた、変身している恩恵か……虎姫は彼を軽々と担げたのだ。

 戸惑っている桃井兄妹らの前で、アデリーンはビームランチャーの照準を申太彦に合わせる。


「ウキウキのウッキーでいたかったと思うけど!? さようならおサルさん……」


 心を鬼にしてアデリーンは引き金を引く、蒼い超低温のビームが金色のボディで着飾った申太彦を貫通し撃破した。


「ウキャアアアーッ、ついに~~~~」


 モンキーガイストこと猿山申太彦は爆発四散! 二度と再起することは不可能となった……死んだのだ。

 これは虎姫に手を汚させないための、『ヘリックス壊滅のためならば手段を厭わない』覚悟を決めていたアデリーンの残酷な優しさ……でもあった。

 申太彦だった残骸が炎でゆらめく中、桃井兄妹はあっけにとられ、アデリーンたちは胸中で複雑な思いを巡らせながら、あるガジェットを取り出す。

 SF映画などのプロップとして使われていそうな、簡素な作りながらも幾何学的な見た目をしていた。


「簡易テレポーターだと!?」


「盗人猛々しいにもほどがある、返せ裏切り者!」


「貴様らが言うなッ」


 想定外の事態が連続して余裕を失った桃井兄妹が狂乱する、そこで撃ったのはアデリーンでもなければカイルでもなく、虎姫だ。

 あらかじめ用意していた専用の銃型デバイス【タイゴンマグナム】で牽制したのだ。

 

「オレからすべてを奪ったギルモアの奴隷に返してやるものなど、ひとつもない!」


 目的を達成しカイルを奪還できたこともあり、簡易テレポーターを起動したアデリーンたち3人はヘリックスシティを無事に脱出。

 虚空に向かって桃井兄はここまで以上に歪んだ表情を浮かべて怒り狂い、桃井妹は苦い顔をして頭を抱えた。

 最高幹部がこうである以上、それに従事する者たちはどうすることもできない。

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