S2-FILE034(FILE235):地下ハンガーの大巨人!?
『至急! 至急! 大至急! メーデーメーデー、妨害電波塔、破壊されました……』
ヘリックスシティじゅうに警報が鳴り響く。
破壊の衝撃で起きた大きな振動とともに。
それはもちろん、ギルモアの玉座にも伝わっており内部はもう騒然となっていた。
カイル・コーデュロイの公開処刑どころではない。
「おのれェ……アンチヘリックスどもの思惑通りになってしまった! 姑息な手を使いおって!」
目をむいてまで怒ったギルモアが玉座の手すりを叩く。
ヘリックス構成員たちの反応は三者三様だ、彼のように憤慨したもの、動揺したものも多かったが――、
「はははは! いい気味だねッ!
笑うカイルを前にジャックドーは思わずたじろぐが、やり場のない冷たい怒りを彼へとぶつけ拘束する。
すぐには殺さずアデリーンたちへの人質として利用するのだ、彼らにとってそうしない手はない。
「オレを倒したら極東司令部の皆が総力をあげて、お前たちを……うっ」
「弱いネズミほどチュウチュウ鳴く!」
カイルはジャックドーにより気絶させられた、正義を叫ぶものは彼らにとって常に不愉快極まりない。
「もはや猿山は当てにならぬ! 侵入者は皆殺しにせよ」
「御意……」
ギルモアからの緊急指令がくだされ手柄を立てたいものたちが我先にと走り出す中、キュイジーネやジェルヴェゼルはふたりそろって静観。
しかも微笑みをたたえてさえいた。
「
◆
同じ頃――。
「なん…………だと…………!?」
まだ虎姫と戦っていた孫悟空もどきの申太彦は、激しい揺れと轟音で気を取られ、バランスを崩した。
それは白銀色の女戦士とて同じだったが、彼女のほうはすぐに体勢を整える。
「フフフ、さすがだよアデリーン……。もうやってくれた、常にわたしの想像の先をゆく。おかげで彼女に追いつく手間が省けたというもの」
「ざけんなッ。オメーなんかにやられるオレ様じゃねえんだよ! オレこそ現代の孫悟空だああああ」
疲弊させられたものの申太彦はしつこく食い下がり、両腕パーツから爪を伸ばした虎姫と激しいぶつかり合いを演じる。
「カウンター返し」
「ウキャアアアー! カウンター返し返し!」
「無駄無駄ぁ!! カウンター返し返しのそのまた返し!!」
反撃に反撃で返す、これには高度な技術が求められるし、そう簡単にマネできるようなものではない。
どうやって終わらせるのか――?
思わず、そう感じてしまうほどキリがない、激しい打ち合いだ。
「やめなさいよ。発想が小学生とおんなじじゃない」
やがて、ひと仕事終えて戻ってきたアデリーンがモンキーガイストにきつめの1発を叩き込んで黙らせた。
不毛なぶつけ合いは終わりだ。
彼女の姿を見て奮起した虎姫は、ライガークローの先端を突きつけて脅しをかける。
アデリーンも三節棍を奪って、本来の持ち主に対しサディスティックに向けた。
「ウキィィヤアアアアアア、あ……!? あ……!?」
「電波塔の跡地から地下の格納庫に降りてあげましょうと思ったのだけどね? そんな単純な作りじゃないでしょ。そこで、おサルさんには道案内をしてもらう」
「味なマネしやがる! ケンカ売ってヘリックスシティを破壊しといて、今度はオレ様をこき使
アデリーンがため息をついたと同時に、虎姫がカメラアイを鋭く光らせクローを突き出す。喉元で寸止めだ。
「お前たちの悪ふざけに、これ以上付き合ってやるつもりはない。その気がなくても答えろ。ビッグガイスターは地下のどこで保管している」
「お、お、教えてやらねー」
あきれたアデリーンが無言でビームランチャーを撃ち、付近にあった残骸をド派手に破壊する。
「断れば、次はお前だ」という威圧の合図でもあった。
「ウキッ……。わ、わーった! わーったよ! 教えますよ!」
「マップ情報はインプットしてあるけどね? どうせ、移転とか改装とかしたんでしょう。騙し討ちとか考えたなら、消し炭にしたっていいんだからね」
アデリーンも虎姫も本気だ。
相手が見過ごせぬ大きな過ちを犯そうとしているのなら、殺してでも止める覚悟を決めてきたのが前者なのだ。
「ツィーン。いたぞ、あっちだ!」
「お、おーい! たっ、助けてくれぇ~」
ツメバケイのような姿をしたスカイブルーの怪人やシリコニアンたちによる混成部隊が追っ手として現れたのを確認すると、アデリーンがビームランチャーで牽制射撃を行い、迂闊に近寄れないようにする。
そのまま、彼女たちはその場を切り抜けて申太彦に道案内をさせた。
「嘘の道を教えたら……」
「あああうあああわ!?」
「支部長の姿かぁ? これが……うーむ。私は、なんてみじめな男を相手にしてしまったのだろう」
ガイドする事を強いられている申太彦は、虎姫からまたもライガークローを突きつけられて情けない声をあげ、助かりたいあまり利敵行為を働いてしまう。
こうするしか他になかったのだ、無理もあるまい。
「こ、このエレベーターとかから、地下のハンガーに通じてる……。乗れや!!」
水路のある区画から移動して、一転殺風景なところに着いた時だ。
そこまでにやけっぱちになっていた申太彦は、乱雑に壁面についたコンソールを操作して問題のエレベーターを到着させる。
本当はこういうものには少し待ち時間があるのだが、意外なほど早く地上まで届いた。
「
「ヒイイイ如意棒返して!?」
――乗り込む前での一幕だ。
申太彦はそうは言っていたが、アデリーンに奪われた三節棍は如意棒ではない。
【シミアンロッド】という名前がついていたらしい。
「し、知らねーぞお。自己責任だかんな……!?」
「そうだね、
中に入ってから、シャフト内のさまざまな色のライトに照らされ鉄骨などの設備の影をくぐりながら、彼女らの乗ったエレベーターは下へと参る。
シリコニアンも一部混じった研究員や作業員たちに目撃されるも、彼らとてどうすることもできない。
迂闊に手を出せば反撃されるかもしれないし、敵と間違われたまま終わるかもしれなかったからだ。
アデリーンたちもそれは同じだ、申太彦から目を離さないようにしつつ、苦い顔をしてエレベーターを降りずに留まっていた。
「ウキィ……じ、自由にさせてくれ」
「だぁーめ!」
申太彦がすぐに逃げようとするため、そのたびに虎姫が逃げられないように脅かしていたがこれで通算56回目だ。
地下ということもあり、彼の情けない声はかなり反響していた。
ヘリックスの巨大兵器が安置されているというそこは薄暗く、機械とコンクリートと金属ばかりでますます不気味さを引き立てている。SF映画やサイバー・パンク感があるといえばそうだが、やはり華も夢もロマンも、そこにはない。
「移動する実験都市の地下にこんなハンガーを隠していたなんてね」
アデリーンが知っている格納庫――ではなかった。
もっと違うところだったのだ、雰囲気自体はここと変わらなかったとはいえ。
少し懐かしむような口ぶりではあるが、彼女なりのジョークか。
「こいつか……」
「ええ、これこそがヘリックスが完成させたがっているビッグガイスター……彼らの最終兵器」
「ウキキキ……こええよお!?」
やがて、見上げてしまうほどの巨躯が彼女たちの目につく。
件のビッグガイスターは、50メートル前後はあろうか――遮光器土偶を彷彿させる姿形で、どこか悪魔的な禍々しさ、恐ろしさをもはらんでいた。
息を呑んでから身構える2人のヒーローとは違い、モンキーガイストこと申太彦は立派な風体とは裏腹に、すぐ前にある巨人に腰を抜かしてばかりだ。
『ギガ……。ギギガガ……』
「はっ!?」
地下ハンガー内の足場と柵越しではあるが、動かないはずのビッグガイスターが突然、震えて動き出した。
重たい腰を上げ、大きな腕を伸ばすとアデリーンたちを見下ろしてにらみつける。
『ギィーガァァーァー! ……我はビッグガイスター……。ヘリックスが作りし最大最強の兵器』
その者、未だ完成していないにも関わらず……!
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