S2-FILE030(FILE231):つまみ出せぇ〜
それから病院内にある、某カフェテリアの支店にて……。
「…………え………? あの、ガチィ? とうとうあのジジイのお膝元に乗り込んで、ドンパチしようっつーの?」
「姉様ってばフッ軽だから、アンチヘリックス同盟にもお話を通したみたいなんですよ」
「しかも、敵アジトから奪取した簡易テレポーターを貸してくれるそうだ。ただし2人分まで」
「でもね、それがあればホワイトオルカ号まで脱出することができるのよ。しかし誰かが残って、ここでモチキリくんの護衛をしなくては……」
「まあいいでしょう。ワタシが引き受ける」
「ミヅキさん1人だけカッコつけよーなんてずるいですよ! あたしも引き続きご一緒します」
「ま、そゆこと〜。こっちはなんとかするからよ……、アデレードはおトラさんと2人でヘリックスシティへ向かってくれ」
「ええ。封印してた武器の封印も解いて、彼らの鼻を明かしてやるわよ」
「どういうことだ……!? ワタシとの決闘の時になぜそれを使わなかったんだいッ」
「……あなたのような勘のいいジャーナリストは嫌いよ。なんてね?」
「ははは! そういう意味でも既に1本取られたんだねぇ。あんたにかなわないはずだわ」
冗談混じりに雑談を続けていた彼女たちだったが、その時、マナーも態度も悪い1人の客の姿が4人の目に留まった。
髪は薄金色でサングラスをかけており目元はうかがえず、ダブルのスーツを着ていたがジャケットは着崩している、そんな男だ。
「く、くさいって。やめろよ!」
「店ん中であって病室じゃねーんだから、別にいいだろォー」
更に喫煙席でもないのにタバコを吸い、その煙でほかの客に嫌がらせをして、彼自身は平然とコーヒーを飲み愉悦に浸っていたのだ。
「店員さん、あいつ……」
ウェイターとウェートレスを呼んだ蜜月は、双方に迷惑客のことを伝えると「店長を呼んで我々で対応します」との返事を受けて、あとは部外者である自身らが無闇に首を挟むのではなく待つことに決める。
彼らは速やかに、ふてぶてしくタバコを吸っていた迷惑男をつまみ出し、店長とともに念入りに厳しく注意を行ったのだった。
これでカフェテリアの平和は守られたというわけだ。
「……じゃ、わたしとアデリーンは蜂須賀さんの言う通りにしよう」
「呼び捨てOKね」
「ああ、蜜月さん」
「……」
片や年下、年上だからというのは関係ないが、それはそれとして虎姫からは微妙に距離を置かれてしまう蜜月であった。
「なんだかな……」と、口に出してボヤきたがっている顔がそれを物語る。
「ミヅキさんとはそれなりに付き合いも長いんですよね? それこそあたしより……」
「まあね」
ガムシロを多めに入れたコーヒーを飲みながら、すかした顔で虎姫が答える。
ロザリアは「もうちょっと優しくしてあげても……」と、少しだけモヤモヤしながらカフェラテにまだ残っていた氷をかき混ぜ、あらためて飲んだ。
「あっ。コーディーから返事が来たわ、あさってヘリックスの獄門山基地の跡地に集合してくださいだってさ」
アデリーンが使っていたノートパソコンに送られてきたメッセージの内容は、アンチヘリックス同盟・極東支部のリーダーからのものだ。
口調こそ軽かったが、協力要請を受けていたからには成功させてみせるという思いが、彼女の自信に満ちた笑みの中にあった。
「あそこか! 廃棄されたけど設備自体はまだ生きてたってことぉ?」
「ええ、彼らがそれを見つけてくれた。そっちはお願いね」
「任してちょーだい」
こうやってアデリーンから剣持桐郎の護衛を頼まれたからには、蜜月としても断れない。
◆
無数の真っ黒な腕と化した恐怖と罪の意識が後ろから追ってくる、前からも迫ってくる……。
ずっと苛まれていたのだ、それらに覆われて。暴走状態で人々を襲い、いたずらに殺していたことがずっと頭から離れていでいる。
延々と己を責め続けているゆえに、抜け出せない。
心が壊れたとしても、彼は己を許せないだろう。
「……おれは、おれはッ……」
罪悪感を覚え、良心の呵責に苦しみ目を覚さずにいた彼に一筋の光明が差す。
「剣持さん」
気付けば、病室に運ばれベッドの上にいた。
周りには、見舞いに来てくれたカジュアルな格好の蜂須賀蜜月にロザリアのふたり、つきっきりで診察してくれていた各務医師の姿がある。
ずっとうなされていたのを、彼女たちに見られていたというわけだ。
「体を治して償っていけばいいの。どうか早まらないで……」
「ね? 各務先生もこう言ってくださってるし」
「そうですよ、あたしたちだってついてます」
「すまない」
顔を手で覆い、彼……剣持桐郎は謝罪する。
「なんで剣持さんが謝るのさ。あなた加害者に仕立てあげられた被害者よ」
「おれがやってしまった罪に変わりはない!」
蜜月からかけられた励ましを、剣持は否定してしまう。
彼が一番許せないのは、他ならぬ自分自身だからだ。
受けた厚意を無下にしたくはない彼は、一度抑えてもう一度謝った。
「……なあ、蜂須賀さんたちもヤツらと戦ってるなら、聞いておきたいことがあるんじゃないかな」
「じゃあ……。キリオさんが連れ込まれたヘリックスの基地って、どんなところでしたか」
「サルのモチーフがたくさん使われてました。おれはそこに連れ込まれて、マテリアルスフィアを……ううッ」
自分を責めすぎたことによるものか、またはマテリアルスフィアを使ってしまった後遺症か、激しい頭痛が彼を襲う。
すかさず、各務彩姫医師が彼を支えて落ち着かせた。
「剣持さん、無理にしゃべらなくていいんだって!?」
「無闇に自分を卑下してはダメ、気をしっかり! ……彼のことは私たちのほうで対応をしますので、蜜月さんたちは護衛をお願いします」
「かしこまり〜、最低でも2徹くらいはやってやります」
この場にいる誰もが、剣持桐郎の味方だった。
ほんの少しでも彼が安心して更生できるように、したかったのだ。
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