S2-FILE024(FILE225):愛し合う2人はなぜ捕まらなければならなかったのか
アデリーンたちはというと、応急処置も兼ねて、花のアーチの喫茶店【サファリ】に立ち寄り、店主のメロニーたちから食事と情報も提供してもらっていた。
「モチキリくんがさらわれたなんて」
「さらなる被害が出てしまう前に、敵のアジトとかを突き止めたいのだけど」
「ワーカービーたちに探してもらわんことにはね……」
カウンター席にて今後どうするかに触れてから、3人そろってため息をついたとき、黒髪でチャイニーズファッションの女が腰をくねらせつつ接近。
蜜月の隣に座り、彼女を驚かす。
「あー、蜜月? みなさん? 耳寄りな情報があるんだけど」
「なんだぁ、ムーニャンか……」
ムーニャンがつけていた緑色のリボンに触れようとしたが拒否され、蜜月はふてくされる。
「さわんなッ。都内のどっかのロードサイドにさ、使われなくなってからずーっと放置されてるガソリンスタンドがあんだけど。興味ある?」
提示された写真に写る廃墟は、確かに該当施設の跡地と見られるものだ。
だが、ヘリックスが従えているシリコニアンやエンブリオンが変装したと思われる人影が出入りする光景をとらえていた。
「これホントだろうね」
その言葉にムーニャンが頷き、アデリーンとロザリアは訝しむが蜜月はしばし考えてから返答を出す。
「ならワタシ、今すぐ止めに行きたい!!」
勢いは良かったが、エッジガイストやスネークガイストらから受けた傷が響いたのか、痛がって再び座り込んだ。
そこにいた誰もが心配し、ムーニャンとマチルダは蜜月の肩を持つ。
「もう少しおとなしくしてからのほうが良いかもね」
「血だ、血が足りねーッ。お釣りはいらねーから、うまいもん……」
雑に5000円札をどどーん! とカウンターに置いて、蜜月は先払いを試みた。
付き合いの古いメロニーは当然反応に困ったし、マチルダとムーニャンも蜜月らしからぬ行動に呆れ気味だ。
「どこの泥棒さんかしら」
「お姫様から大切なものを盗んでそう……」
アデリーンとロザリアも「信じらんない……」と言いたそうな顔をして気分が萎えていたところに、気を取り直してムーニャンがもう1枚の写真を見せた。
「アヤシイところは他にもあるんだ~~~~~~。これこれ、エイドロン社のエネルギー実験用施設だった建物だよ」
「なまじコングロマリットだったから、関連施設は全部はすぐには壊しきれていないってことねぇ……」
エイドロン・コープ本社の解体をきっかけに各地で工事が行われるも、会社自体の規模の都合で追いついていないのが現状だ。
理由は――アデリーンが語った通りである。
「あーしからも言わせていただくと、ここは先払いはノーサンキューなんで。蜜月、お代は以上です」
「ま、まけておくれよ。マッチもメロちゃんもさ……」
カウンターに表示された金額は5000円札で払える範囲ではあったが、蜜月は資金も潤沢であるのにもかかわらず値引きするように要求してすがった。
彼女のその姿勢は、あまり格好いいとは言えない。
「嫌です~~~~~~! お会計はちゃんとさせてください!」
「身内びいきならしないわよ!」
「仕方ない人ねぇ……」と言いたげな顔をしたメロニーからも、この通りだった。
◆
翌朝の休日、都内の水辺の上に架かった大橋とその付近の公園を結ぶ歩道を1組のカップルが歩いてイチャついていた。
黒髪の少年は浦和竜平であり、彼と一緒に歩いている青髪の少女は梶原葵だ。
「でねー、
「またその話ィー? もう俺より玲ちゃんのほうが好きなんでねーのぉー? 妬けちゃうなーッ」
笑顔の2人が話題に出していたのは、紫香楽宮玲音のことだ。
どちらとも幼馴染で仲は良好であり、そして、彼女の父親は浦和紅一郎の助手でもあった関係で家族ぐるみの付き合いがあったのだ。
「っ!?」
そんな仲良しカップルをつけていた怪しい男たちが隙を見計らって飛び出し、2人を羽交い締めにする。
濡らしたハンカチまで使って、手際の良さには恐ろしささえも滲み出ていた。
「ズモモモモ……声を出すなッ」
奇声を上げて怪しい男たちは、虫をかけあわせたキメラのようないびつで醜い正体を露わにすると竜平と葵をさらって飛んで行ったのだ。
◆
「――森羅万象の理に逆らいし狭間の者、現世に顕現し平和を脅かさん。狭間の侵略者を討伐せし者、日輪のごとき光を帯びた剣と月光の加護を得た鏡のごとき盾を携え、後の世で王とならん。叡智の白き峯の預言書第298ページより引用……かあ。すごーい!」
信じて見送った2人がそのようなことになっていたとは知らず、竜平の姉・綾女とその母・小百合は休日をゆったりと過ごしていた。
綾女がリビングでノートを取っていたところ、掃除機をかけたかった小百合が娘を叱ろうとしている。
一番ホコリを吸いたいのが机とソファーの下だったからなのだが、そこに綾女が陣取って譲らなかったためだ。
「勉強も台本の朗読も部屋でやりなー」
「だって手間だし」
「あんたはねぇ……」
一度説教が始まれば長くなるのが浦和家、だったが、そこで綾女のスマートフォンが電話を受信した。
不思議に思った彼女が手に取って確認をすると――。
「リュウから? あいつ葵ちゃんとデートしてたんじゃ」
恐る恐る出てみたが、次の瞬間、予想だにしなかったことが起こったのだ。
「もしもし……」
『お前の弟とそのガールフレンドは預かった』
電話に出た声の主は彼女の弟ではなく、ヘリックスの幹部である兜円次のものだったからだ。
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