【KAC20228】トライアングルなヒーローはいい顔で【私だけのヒーロー】

なみかわ

トライアングルなヒーローはいい顔で

 私は田中 美桜みおう、普通の高校生だ。ホームルームのとき、ピコンとスマホが反応してこっそり開くと、三つとなりの席の親友、佐藤 咲奈さくな からだった。

『またワヘイがやられてるわ』

 おっと、ガヤガヤしすぎてて、一番後ろのここからは見えていなかった。首を伸ばすと、教壇にいる担任の海瀬 和平かずひらが、連絡事を伝えていたんだけど、前の方にいる奴らにいじられていた。


「ワヘイー、彼女おるのー?」

「いや、あのそれは」


 先生も、もうちょっとキゼンとしたらいいのにね、と、私は咲奈と目を合わせる。


「はいそこまでー」

「ホームルームは先生の話を聞きましょうー」

 私たちは立ち上がって前方に呼び掛ける。



「あの、あの」

 放課後。どもりつつ海瀬せんせいは、部活に行こうとする私たちを引き留める。海瀬は身長158センチと小柄なので、168センチの私と172センチの咲奈をすこし見上げるかたちだ。

「いつもありがとう、助かってる」

 まるでその顔は、弟が見ていたヒーロー戦隊もので、悪いやつから救われた少年そのものだった。

「じゃあ明日の小テストの問題教えて?」

「そそそれはだめです!」

 咲奈はしたたかに手を出すが、どまじめに断られていた。





 俺は海瀬 和平、表向きは県立高校の教師だ。この学校に来たのは理由がある。世界を救うためだ。ちょっと、読んでるお前たち、画面をブラウザバックするのはやめろ!

 ほらこの前、俺がホームルームで生徒たちにいじられてたでしょ? ワヘイーとか言われて。あのとき、が開いてたんだよ! 普通の人にはもちろん見えていない。その隙間から魔物が出現して人の憎悪を食らう悪魔と変化する前に、この世界の時間を止めて、魔物をねじふせて、何事もなかったようにするのが俺の仕事。待ってまだブラウザバックしないで!

 その時、俺がまさに時間を止めようとした時……なんと、澄んだ声が響いて、異界の門が閉じたんだよ。生徒のふたり……田中と佐藤、彼女たちが声をあわせてコールするとなぜかそうなるんだ。

 最初はビックリしたが、二度、三度そういうことがあって、俺の仕事は減るが……俺にとっては、彼女たちもまた、れっきとした、世界を救う力を持つヒーローだと確信している。




 私は佐藤 咲奈、たぶん普通の高校生、と思う。高校に通って、部活に打ち込んで、日曜日に親友と街に遊びに行ったり、大学をどうするか進路に悩んだり。他愛もない話もする。

「美桜にとって好みとかどんなタイプ? やっぱワヘイ?」

「あほか」

 の新作、コーヒーホイップスペシャルと、マンゴーホイップスペシャルをテーブルに持ってきてくれた美桜は笑い飛ばす。

「せやなー、人間なら剣道部の山田みたいなのやつがええけど、中身あかんしあいつ」

「おっと」

「弟が小さいとき観てたテレビのな、ハッスル戦隊ケンドウジャーかな」


 ……もしかして2.5次元的な。……でも、いいのかな。私が3口ほどマンゴーホイップスペシャルをスプーンですくっていたら、視線に気づいた。


「……!?」

「じとー」

「みみみ美桜?!」

「咲奈ちゃーん、半分こするいうてたやんー」

「あっ」


 スタバー大好きな美桜は、さっとマンゴーホイップスペシャルとコーヒーホイップスペシャルをとりかえた。私の食べさしだということも気にせず。


「うまい!」

 満面の笑みを浮かべる彼女がまぶしい。私にとって、いつでも元気をくれるのは、美桜だ。定義してしまえば怖いからしないけど、それは、たぶん……友達や親友の気持ちじゃなくて。

「いや、ヒーローでいいかな、私だけのヒーローでいてほしいな」

「んあ?」

「!……いいや、なんでもないなんでもない!!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20228】トライアングルなヒーローはいい顔で【私だけのヒーロー】 なみかわ @mediakisslab

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ