オンラインゲームのチムマスやってる女子だけど、リアルの出会いの相手が、実はチムメンだった件。

阿月

第1話

 給食センターの終業時間は早い。

 定時は、16時。世間様から見れば、まだまだ日が高い時間に業務終了。

 とは言え、その分、朝も早い。


 市内の中学校の給食を毎日約5,000食用意するのがそのお仕事。

 学校給食のため、昼までに完成させてお届けする。

 終業時間は早いけど、当然朝も早い。


 朝、早いのはしんどいのだけど、まだまだみんなが働いている時間に帰るのは、決して悪い気分ではない。

 そうして一仕事終えた、私、小笠原芙美子は、愛車である中古のダイハツエッセで、自宅手前のスーパーへと向かう。


 管理栄養士の資格を持つ私としては、栄養バランスは、常に気にしていたい。

 当然である。

 だけど、今日は、そういうわけにはいかなかった。


 そう、「あの」焼きそばが出るからである。

 エースクックスーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そば!!!!!

 具は、いか天、紅しょうが入り揚げ玉、あおさのみ。

 不健康の極み! だけど、そうは言っていられない。

 何故なら、スーパーウルトラジェントルなオンラインゲーム、ファンタシースペースオンラインニュージェネシス、通称NGSのコラボパッケージが発売となるからである。

 そして、コラボアイテムとして、ゲーム内で使えるアイテムコードがついてくるのだ。


 買う以外の選択肢はない。


 そして、私は意気揚々と、スーパーマーケットバリューへと駆け込んだ。

 そこには、大量の焼きそばUFOとペヤングの山が棚を埋めていた。

 エースクックの姿はかけらもない。

 しまった。この店は、そもそも取引がないのか。

 大丈夫。スーパーはここだけじゃない。私はエッセを飛ばして、スーパーマーケット平和屋へと向かう。

 しかして、そこにも焼きそばUFOとペヤングの山。

 何故だ。

 公式の発売日は今日だ。

 そして、エースクックは全国有数のカップ麺メーカーだ。

 取引がないとは……。

 いや、負けるわけにはいかない。

 まだだ。まだ負けられない。

 私は三軒目へ向かい敗北し、そして四軒目へと向かい、そしてまたしても敗北した。

 何故だ。私は負けるのか。

 ここで力尽きるのか。

 いや、ここで負けるわけにはいかない。

 これは戦いだ。

 情報戦なのだ。

 私はtwitterを開いて検索する。

 大盛りいか天ふりかけ焼そばで検索すると、次々と勝利宣言がヒットする。

 私は、その中に一条の光を見た。

「ドラッグストアでゲット!」

 そうか、ドラッグストアでも売っているのか!


 私は周辺のドラッグストアを脳内検索。

 一番近いドラッグストアへとエッセを走らせる。

 店へと駆け込んでみると、棚にはたしかにエースクックスーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そばが存在した。

 よもや。

 よもやだ。

 パッケージはノーマル。

 NGSコラボパッケージではないのだ。

 どうする。五軒目にして、ようやく出会ったエースクックスーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そば。


 だけど。

 ノーマルパッケージ。

 待て。

 ノーマルがあるということは、NGSコラボパッケージもあるはずだ。

 ないはずはない。

 私は意を決した。

 勇気を振りしぼれ。


「すみません。エースクックのスーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そばってあります?」

「はい、そこのカップめんの棚にありますよ」

「あ、いえ。今日から新しいコラボパッケージのものが発売になってまして、それ入荷してませんかね?」


 そして、今、エッセのリヤシートには、エースクックのスーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そばの段ボールが積まれていた。

 わざわざ倉庫から出してきてくれたのだ。一箱、まるまる買うのは人として当然なんだと思う。


 おもむろにスマホを取り出して、箱を撮影。

「ドラッグストアでGET!!


 店頭に無いときは、店員さんに聞いてみるといいでし♪」

 とツイートする。


 自宅に帰ると、柴犬のポンタが駆けてきた。

「だたいまー、ポンタ」

 しっかり、口にリードを銜えて、散歩の催促だ。

「よーし、よし。行くか、散歩」

 鞄とエースクックのスーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そばの段ボールを玄関に置いて、ポンタにリードをつける。

「散歩行ってくるねー」

 台所にいるであろう、母さんに声をかけ、私はポンタとともに、散歩へと出かける。

 帰宅途中の中高生たちとすれちがいながら、いつもの散歩ルートをゆっくりと歩く。


 帰ると、母さんの不機嫌そうな視線が私に襲いかかってきた。

「何なの? あの箱。また買ってきたの? ぷその景品?」

「あー、あれは焼きそば。カップ麺。ちゃんと私が食べるからさ、心配しなくても」

「あなたね、管理栄養士でしょ。カップ麺ばかり食べてても……」

「あー、うん。大丈夫大丈夫。ちゃんとアレンジして、父さんと母さんも食べられるようにするからさ」

「そうなの? せっかく買うなら、もうちょっとね……」

「大丈夫、大丈夫。今日、晩御飯何にするの? 手伝うよ! あと、ポンタのごはん!」

 私は必死にごまかした。

 ごまかしたまま、台所に立って、支度を始める。

 母さんも苦笑いしながら、後へ続く。

 しばらくすると、市役所勤めの父さんが帰ってきて、着替えるや否や、晩御飯が始まる。

 父さんが開けたビールをご相伴しながら、バラエティー番組を冷やかす。

 テーブルの上には、スーパーカップ大盛りいか天ふりかけ焼そば。

 あまりに具がないので、キャベツと豚肉を足すと、味の濃さもあって、父さんが酒のつまみによく食べていた。

 そして、ちょっとお眠になったポンタを抱いて、二階の自室に移動する。


 そこには、私の愛機が待っていた。

 CPUはインテルCore i7-12700。

 グラボはNVIDIA GeForce RTX 3070 Ti 8GB GDDR6X。

 メモリは16GBiに1TBのNVMe SSDを搭載。

 水色のイルミネーションに彩られた私の自作パソコン。

 Miku-special。


 PCを起動。

 デスクトップ上のアイコンをダブルクリックすると、惑星ハルファの入り口が立ちあがる。

 ログインするのは、Ship7、ギョーフ。

 画面には、私のアバター「パグパグ」が自然な笑みを浮かべている。

 コントローラーを握って、ログイン。


 惑星ハルファのエアリオシティに降り立つ。


 そして、いつもの挨拶。


「こんばんは♪」


 今日も私の冒険が始まる。

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